何を考えているか分からない同級生に反抗したい1
52話→檜森リリス初登場。
91話→喜嶋安登矢初登場。
数日後、放課後。
奏介はとある喫茶店で、2人の人物と向かい合っていた。
「……」
檜森リリスが青い顔をして俯いている。喜嶋安登矢はというと、欠伸を一つ。
そんな2人の前に運ばれてきたのは少し大きめのパフェだった。リリスが抹茶、安登矢がバナナチョコである。
「おー。マジで奢ってくれんの? 菅谷?」
「ああ、その代わりに質問に答えてもらう」
「……ふぇ?」
リリスが顔を上げた。
「あの、それって、このパフェが情報料ってことですか」
「そういうことだな。対等だろ。等価交換ってやつだ」
「いただきまーっす」
安登矢が早速ホイップクリームをスプーンですくって口へ運んだ。
「んー、無料パフェ最高」
「……相変わらず頭軽いな、お前は」
奏介、呆れ顔。あれだけ奏介に反撃されて懲りるかと思いきや、どこまでも普通に声をかけてくる。メンタルが鋼なのかもしれない。
リリスはおずおずと上目遣い。
「菅谷さんの質問に答えれば良いんですか?」
「ああ」
「そ、そうですか。では……あ、そういえばなんでわたしが抹茶好きなの分かったんですか?」
何故か怯えながら聞いてくる。恐らく、個人情報を握られているかもという恐怖だろう。
小さいことだが、奏介はリリスに『抹茶パフェで良いか?』と聞いたのだ。
「小4の時、友達と話してただろ」
「覚えてるんですね」
意外だと言わんばかりに目を丸くする。
「……今、小学校の頃のことを覚えててキモいと思っただろ」
「ひっ」
リリスは怯えたように両手で頭の上を押さえた。涙目。
「ごごごめんなさい! 思ってないですぅっ! 身を清めて来ますからぁ!」
「余計なことを言ってないで、小4のときのクラスメート、轟大志について教えてくれ。あいつ、どういう奴なの?」
「うーん」
安登矢が少し考えて、
「確か親父さんが警察のお偉いさんだよな?」
「個人的とは言ってましたけど、上嶺さんのお父さんと仲が良かったそうです」
(警察上層部と国会議員が仲が良い……ね)
やや怪しい。
「隣街の大きな警察署の署長で警視だったっけ? 自慢気に言ってたよなぁ」
「轟さん自体はノリが良くて、切り替えが早いというか、損切りっていうんですかね。自分が不利になると手のひら返します」
(場合に寄ってはクズ野郎候補だな)
「なるほど。ちなみにあいつが俺に絡んでくるんだけど、なんでだと思う?」
「普通に上嶺切って強い菅谷に媚びるつもりなんじゃね?」
「菅谷さんと仲良くなると、メリットがある、とか思ってるのかもしれませんよね」
土壇場で自分のために味方を捨てて裏切るかもしれない。……そういう人間らしい。
◯
とある日の放課後。
ハンバーガーショップのソファ席、いつものメンバーで座っていた。
奏介はスマホのメッセージアプリに着信があったことに気づいて、手に取った。
「……」
眉を寄せる。
「どしたの、奏ちゃん」
食べかけのハンバーガーを持ったまま、不思議そうに首を傾げる詩音。
「いや。最近、小4の時のクラスメートからやたらとメッセージが来るんだよな。適当にあしらってるけど、定期的に遊びに誘われるし」
「うわ、絶対、何か企んでるでしょ」
わかばが引き気で言ってくる。
「俺もそれくらい分かってるから、誘いに乗ってない」
奏介がため息交じりに言う。
「小4てことは、あのパーティにいたやつか?」
真崎の問いに、奏介は頷く。
「あの時のあれは、上嶺が全部悪くて、全員逆らえなくて俺をいじめてたんだってさ」
「随分と苦しい言い訳をするじゃないか?」
「最低……」
水果、モモが不快そうに呟いた。
「それってどういう人?」
ヒナが問うて来たので、奏介は少し考えて、
「人伝に聞きはしたけど、よく知らない。あんまり話したことないし。でもまあ、俺のことを馬鹿にしてたことは覚えてるから、思い出すと普通にムカつく」
「奏ちゃん、その人の名前は?」
「轟太志、しおも知ってるだろ」
「あー。知ってるけど、確かに話したことないよね。わたしもよく知らないかも」
「菅谷くんがうんざりするくらいだから、しつこいの?」
「見るか?」
ヒナにスマホを渡すと、横から詩音とわかばも覗き込む。
5日から1週間に1回のペースで遊びに誘ってくるのだ。
「何考えてるんだかな」
ふと、ファーストフードの入り口を見ると、ギャル風の女子2人が会話をしながら入ってくるところだった。
彼女らはすぐにこちらに気づいて、怪訝そうな顔を向けて来る。それから、ひそひそと内緒話。
奏介は小さく舌打ちをした。
「知り合い?」
わかばが問うて、水果は首を傾げた。
「もしかして、菅谷の小学校時代の知り合いかい?」
「あー、話したことないけど、知ってる顔だね」
詩音は苦笑い、そして小声で。
と、彼女らはハンバーガーセットを頼むと、一番遠い席に着席した。こちらをちらちらと見ながらひそひそと話している。
奏介はすっと立ち上がった。躊躇いなく女子達に歩み寄る。その行動に2人は呆気に取られているようだ。
周りに迷惑をかけない程度に、テーブルに手をつく。
「こそこそこそこしてないで、なんか言いたいことがあるなら言えや。聞いてやるからさ」
睨みつけると、2人はビクッと肩を揺らし、慌ててハンバーガーとポテトを袋に詰めて、外へと逃げて行った。
奏介はその様子にふんと鼻を鳴らす。
「逃げたか。やるな、陰口の相手に直接行くとは」
真崎が感心したように言う。
奏介は座り直して、不機嫌そうに、
「こっちに内容が聞こえないように、あからさまにひそひそ話されるの、嫌いなんだよな。堂々と言えないくせに」
クラス内のいじめにはよくある光景だろう。
「分かるわ。嫌な気分になるから」
モモの言葉にヒナが大きく頷く。
「てか、菅谷君が攻撃に出ようとしたところで尻尾を巻いて逃げるとかダサ過ぎでしょ。大丈夫だよ、あいつらはボクがトドメを刺しとくからね!」
「僧院、出来ればちょっと待って」
「君がそう言うなら」
笑顔で親指を立てる。恐らく、冗談なのだろうが笑えない。
最近は小4の時の同級生と会うとこんな感じだ。関わりたくないと言わんばかりに逃げていく。
轟の行動は、やはり謎なのだ。
(誘いに乗ってみるか……?)




