母に攻撃する小姑と娘に反抗してみた3
無抵抗だった安友子に睨まれ、市子が一歩後退。しかし、手を押さえ、鬼のような形相になる。
「痛ったいんだけど!? 何、急に? 無能なくせに」
安友子は怯まない。
「わたしのことは無能呼ばわりでも良いけど、無関係なうちの子達をつかまえて悪口を言わないでっ! 本当に性悪ねっ、だから旦那さんに逃げられたのよっ」
怒鳴り声が居間に響いた。里子はもちろん、奏介、姫も少し驚く。母のこんな姿は初めて見た。
マミカはというと加勢出来ずにブルブルと震えだした。
「は……はぁ!? 今、元旦那関係ないっしょ!?」
「だったらうちの子達も関係ないじゃないっ」
すると、市子は安友子の胸ぐらを掴んだ。
「調子のんなよ、クソババァ」
「ぐっ」
安友子の表情が歪む。
奏介が少し慌てる。まさか流れるように暴力を振るおうとするとは思わなかった。
「ちょっと、それはさすがにっ」
目の前で母親が暴力を振るわれかけ、姫も少し動揺した。
「いや、待って。逆ギレじゃない。てか、市子叔母さんが料理をゴミ箱に」
すると市子がぎろりとこちらを睨んだ。
「あんたらは黙ってろ! ガキどもっ」
「うるせぇんだよっ、この暴力女が。うちの母さんから手ぇ、離せっ」
奏介の即返し罵倒に、市子がぽかんと口を開けた。
その隙をついて、姫が彼女の手首を掴んで、
「きゃっ」
安友子から引き剥がす。
「けほっ……けほっ」
よほど強く締められたのだろう。咳き込んでいる。
「母さん、大丈夫?」
奏介と安友子の前に姫が仁王立ちする。
「いい加減にしなさいよ。うちのお母さんは自分の料理をゴミ箱に捨てられたから、怒ってるんだけど? 調子にのってんじゃないわよ。食べ物をゴミ箱に捨ててイキってる成人した女とかキモ過ぎなんだけど」
奏介も姫の隣に立つ。
「漫画の嫁いびりするクソ姑の真似か? ああいうのに憧れてんの? このクズ女。てめぇは食べ物をなんだと思ってんだよ。一体何歳なんだよ。食べ物を粗末にするなって幼稚園児でも分かるわ」
「はぁ、頭弱くてヤバイわぁ。思春期で反抗期の女の子じゃないんだからさぁ」
「姉さん、反抗期の女の子に失礼」
「そうね、そんな可愛いものじゃなかったわ」
奏介、姫に言われ放題な市子は両拳を握り締めた。
「っ……! ほんっとうにムカつく。親子そろってムカつくわっ」
「何がどうムカつくんだよ。暴言吐きまくられて不快なのはこっちなんだよ。何様だよ」
「あれでしょ? 離婚してイライラしてるから、言い返さないうちのお母さんに当たってるんでしょ? きっつ」
倍にして返ってくるので、市子も一瞬怯むが、さらに怒りを倍増させているようだ。
「目上の人間に失礼なガキどもねっ、教育のたかが知れてるわ」
「俺達は挨拶したけど、てめぇの挨拶は聞いてねぇよな? 名前すら名乗ってねぇだろうが」
奏介が睨みながら言う。
「ええ、そうね。初手暴言だったし。それでよく社会人と子育て出来てるわねー。世の中の常識を少しは勉強しなさいよ、叔母さん?」
姫が煽るようにとんとんと指で自分の頭をつつく。
「くっ! おい、そこの無能っ、お前のガキだろ。他人へ迷惑かけてる自覚ないのかよ! さっさと謝らせろっ」
弱い方へ攻撃するのはいじめっ子の常套手段だ。
安友子は近くにあったゴミ箱を手に立ち上がった。
「……さい」
「はぁ? お前のクソみたいな子育てのせいで気分悪いんだよ、謝罪し、ごぼっ!?」
安友子がゴミ箱の中の雑炊を掴み、市子の口へ突っ込んだのだ。
「うるさいっ、うちの子達を馬鹿にしないでって何度言えばわかるの? それに、わたしがせっかく作ったものを捨てないで、責任を持って食べなさいよっ、調子に乗ってんじゃないわよっ! 性悪女っ」
尻もちをつく市子。
安友子は人差し指をさす。
「初対面から毎度毎度毎度、ストレス解消に利用されて、ほんっとうにウザかった。わたしをいじめて楽しいんでしょうけどね、うちの子達はそういうの、通用しないから。わたしは無能だけど、この子達を敵に回したらどうなるか分からないわよっ」
「この、無能のくせにわたしに楯突いてんじゃねぇよっ!」
いじめられっ子の逆襲ほど頭に来るものもないだろう。顔が真っ赤だ。
「あーあ、大人しいうちのお母さんをここまで怒らせるなんて。調子に乗ってるからよ」
「だよな。ほら、雑炊をゴミ箱に捨てるところ撮っておいたから、ネット流すわ。『実際にやるバカ発見www』とかコメントつけてやるよ」
奏介はスマホの画面を市子に向ける。
「ちょっと、何を勝手に撮ってんの!?暴力と盗撮で訴えてやるっ」
そう怒鳴った時。
バチンッという音が響いた。里子が市子の頭を手のひらで叩いたのだ。痛さはないだろう。恐らく。
「大声で止めなさい。市子、あなたが安友子さんのお料理をゴミ箱に捨てるから皆怒ってるんでしょ。あなたが怒る要素なんかないでしょう。謝るのはあなたでしょう?」
市子はぎろりと里子を睨んだ。
「お母さんまでこいつらの味方するわけね? そんっなにあたしを悪者にしたいんだ」
奏介は呆れる。
(原因はお前が喧嘩売ってきたからだろ。完全に母さんを煽ってただろ)
頭のネジが数本飛んでいるとしか思えない。
里子はため息を一つ。
「悪者にしたいじゃなくて、あなたはもう悪者になってるのよ。そうやって人を見下す癖を直しなさい」
「お母さん、ボケてるんじゃない? まぁ、洋兄贔屓は昔からだもんね。そもそも血つながってないし」
「それはあなたの勘違いだって言ってるでしょ? そういう思い込みが強いところも」
「うるさいうるさいっ」
市子は安友子を指でさした。
「お前が洋兄の嫁になってから、うちの家族がおかしくなってんのよ。自覚ないの? 疫病神が」
(なんだ、こいつ)
恐らく、市子が安友子に攻撃するので、家族がおかしくなっているのだと思う。
「洋兄も洋兄よ。こんな女を」
と、木戸が開く音。
「おれの妻の安友子がなんだって?」
そこには菅谷洋輔が立っていた。




