『第142部』えぐいいじめをしていた女子高生after4
登場する生井出弁護士は第281部土岐after7で名前がでます。
入り切らなかったので、教師&偽弁護士の後日は後で書きます。
住友家では家族会議が開かれていた。
「な……羽化月さんがそんなことを?」
「そうよ。客の依頼を断るなんて、信じられないわ」
住友父は腕を組んだ。
「せっかく贔屓にしているのに。もううちの会社から仕事は回さんことにしようか」
会社経営である父の言葉に少しだけスッとしたような気がする。
(偉そうな女、仕事なくなれば良いのよ。バーカっ!)
「ええ、そうしてちょうだい」
父とキリコの会話に、あきこはぎゅっと拳を握りしめた。
「ねぇ、それでどうすんの? もしかして泣き寝入り確定? 嫌なんだけど」
「心配するな。父さんの知り合いに頼んで、他の弁護士を紹介してもらおう」
「パパ……!」
微笑む父が妙に頼もしく思える。
「大丈夫だ。任せておけ」
「うんっ」
後日。
住友親子は話を聞いてくれるという、新しい弁護士の事務所に来ていた。
「ねぇ、変な弁護士じゃない、よね」
街中にある生井出法律事務所の前にて。あきこは隣に立つ父、晃彦に声をかけた。
「ああ。評判が良い弁護士なんだ。勝率も高いらしいからな」
母、キリコが頷く。
「私も調べたのだけど、かなり優秀みたいね。あの女弁護士と違って」
キリコは吐き捨てるように言った。
「とにかく、迅速に進めてもらわねばな」
事務所の玄関で、インターホンを押す。
「……はい」
ドアを開けたのは、三十代前半くらいの男性だった。スーツ姿、胸元にはしっかり弁護士バッジがつけられている。
「ああ、中元さんからご紹介していただいた住友ですが」
生井出弁護士は一瞬眉を寄せ、
「ああ、なるほど」
彼はこほんと咳払いをし、外へと出てきた。後ろ手でドアを閉める。
「む? なんだね。まさか立ち話をしろとでも? こちらは客なのだが」
あきこもムッとした。嫌な感じだ。
「申し訳ありません、住友さん。お電話で頂いたご依頼は受けることが出来ません。とある場所から通達が来ましてね」
「な、なんだと!?」
慌てる晃彦。
「アポを取っていたのに、中へも入れないの!? 随分じゃなくて?」
キリコも一緒になって言う。
「ちょっと、弁護士ってろくなのがいないの!? 話も聞かずにクズ野郎じゃん!」
あきこも声を荒げる。
生井出弁護士はため息を一つ。
「あのですね、お嬢さん。こちらが断らせて頂きたい理由を知りたいとおっしゃるのならご説明致しますよ。そうやって感情的に怒鳴りながら相手を罵る前に、一度冷静になられる方がよいかと思います」
「はぁ? 依頼断るなんて言うやつの言い訳なんか聞きたくないし! ねぇ、パパママ。こいつも役立たず決定。帰ろ」
「あ、あきこ! 待ちなさい」
機嫌を損ねて歩きだしてしまう娘を追いかけてゆくキリコ。晃彦は生井出弁護士と向かい合った。
「随分と失礼な話だな。娘がご立腹だ」
「うーん。初対面でクズ野郎と言われたのは初めてですね。失礼ですが、お嬢さんのご教育は誰かに委託されているのですか?」
カッと晃彦の顔が赤くなる。
「本当に、話が通じない弁護士だな」
「それはこちらのセリフです。というか、忠告しておきますけど、非弁行為に加担したとバレると、あなたの奥様とお嬢さんも逮捕されるかもしれませんよ? 大人しくしておいた方が身のためですよ」
晃彦はぷるぷると震えていたが、何も言わず背を向け、あきこ達を追って行ってしまった。
生井出弁護士は、ふっと息を吐く。それからスマホを取り出して、メッセージアプリの本文入力画面を開いた。
○
あきこはずんずんと、人通りの多い街中を歩いていた。
(何よ、誰も彼も片野の味方ってこと?)
トイレで水をかけるとぴーぴー泣いていた元同級生、片野ぼたん。
(あいつのせいで人生台無しじゃん!!)
本当に許せない。
と、道行く人達がこちらを見ていることに気づいた。
「?」
こちらの顔を確認してヒソヒソと話す声。
(何?)
不自然に向けられている視線に違和感を覚える。
「ちょっとあきこ。一人で歩いていったら危ないでしょ」
キリコと晃彦が追いついてきていた。
「そうだぞ。パパがなんとかするから、少し落ち着いて」
『うわ、ほんとに住友あきこじゃん』
『あいつがそうなんだ……』
そんな声が聞こえてきて、はっとする。道行く人の中で半分くらいの人数、特に若者達があきこ達親子を軽蔑するような目で見てきた。
「な、何?」
ヒソヒソ。ヒソヒソ。
『酷いいじめやってニュースになったあの』
『なんか、いじめた奴を病院送りにしたって』
『顔怖くね? なんだあれ』
住友親子は困惑するしかない。
(一体何が)
と、誰かが目の前に立ち、スマホの画面が突きつけてきた。
「原因はこれだろ」
画面にはネット掲示板が表示されていた。
あきことキリコの顔写真が乗っていて、一緒に動画が貼り付けてあるようだ。
どうやらそれは、ぼたんの家へ行った時の様子のようで、
「帰って下さい。け、警察呼びますよっ」
「よくもやってくれたよね。被害届なんか出しやがって」
「わ……わたしに嫌がらせしてたのは本当でしょ?」
「それ、なんのこと? 幻覚が見えてんじゃない? 被害妄想? こっわ」
「あんたも同じ目に遭わすから」
「え……」
「噂広めて、学校にいられなくしてやるよ。このいじめ捏造女っ」
そのやり取り一部始終だ。
見ると、スマホを突き出して来たのは、奏介である。
「お、お前、なんで!」
突然現れた敵に、あきこは動揺する。
「どっかの誰かが動画撮って掲示板に上げたらしいな。あんな場所で堂々と暴言吐くからこういうことになるんだよ」
「な、なんだね君は」
晃彦が妻と娘を守るように前に出る。
「ああ、俺はあなたの娘さんが襲っていた女の子を助けて救急車を呼んだ者です」
と、奏介。
「お、襲っ!? 人聞きの悪い。うちの娘は」
「女の子をトイレに連れ込んで、服を脱がせて水をかけるのが趣味なんですよね? 学校でも散々やった挙げ句逮捕されて少年院に入り、戻ってきたら逆恨みですか。娘かばう前に、被害者へお詫びの挨拶でしょ。娘可愛いのは分かりますけど、いじめ被害者を訴えるとか頭おかしいんじゃないですか?」
「くっ、このっ! いじめだって? 学校の担任も言っていたが、被害妄想が激しい生徒だったそうじゃないか」
奏介はカバンの中からノートや上履き、落書きがされた体操服、切られたブラウスなどを地面に投げた。
周囲がざわつく。
「これ、被害者の方から借りてきたんですよね。ほら、これなんて読めます?」
奏介が指で示したのは体操服の落書きだ。マジックで書かれているのは、
「……し、ね。ブス、ゴミ……」
呆然と読む晃彦。
「これ、住友あきこさんがやったんですって! 被害妄想って、これは許容範囲ってことですかねー?」
足を止める人まで出てきた。野次馬に囲まれ始めているが、奏介は真っ直ぐに親子3人を見る。
そして周囲の声は、
『信じられない』
『酷……』
『ガチ犯罪者じゃん』
ドン引きだった。
動画も拡散されているため、名前を出しただけでわかった通行人達もいたようだ。
「っ……! な、なんなのよ。こんなの持ってきて」
あきこがついに震えた声を出す。
「楽しそうにお絵かきした光景が浮かびますけど、この言葉を書いた娘さんは被害者なんですかねぇ? どうなんです?」
奏介は固まる晃彦に歩み寄る。
「娘だからって、問答無用で庇ってんじゃねぇよ」
耳打ちにビクリと肩を揺らす晃彦。それから、奏介はキリコに抱きしめられているあきこの正面に立った。
「な、なんで……ここまで……あんたには関係ないでしょ!?」
奏介は地面からノートを拾って、あきこの顔に突きつけた。
ノートの見開きに大きく、
『この世から消えろ!』
と書かれている。
「こういうことを人に伝える奴、嫌いなんだよな。関係なくても、お前ムカつくんだよ」
奏介はすっと顔を近づけた。
「個人的に凄くムカつくからさ。……次はどうしてやろうか?」
「ひっ……!」
あきこの表情が引きつる。
奏介はふんっと鼻を鳴らして、地面に散らばったそれらを回収する。
「次何かやったら、通報するんでよろしくお願いします」
「! こ、こちらは弁護士を探すつもりだからな」
強がりなのか、晃彦が言い放つ。
「生井出弁護士の話、聞いてないんですか? 弁護士さん達の間であなた達はブラックリスト入りになるっぽいですよ」
晃彦は顔を引きつらせる。
「なん……? 生井出弁護士……? 知り合い……? な、何者だお前」
奏介はふんっと鼻を鳴らして、
「次は、全面戦争なんで。覚えておいた方が良いですよ」
3人を射貫く視線は鋭い。彼が去った後も周囲の目は厳しかった。
住友親子の味方は、もういない。
先日、本作のイラスト付き電子書籍を作りました。ご興味がある方は、活動報告へどうぞ。




