『第142部』えぐいいじめをしていた女子高生after3
今回登場する、上道勇太朗は145部に初登場です。
未瑛は妹である映美を真っすぐに見た。
「それで? なんのためにこんなことにした? まさか、弁護士法第七十二条を知らないとでもいうのか? 司法予備試験を目指すお前が? これは犯罪行為だ」
『弁護士法七十二条、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない』
つまり、要約するなら資格の無いものが弁護士を騙ることを禁止する法律だ。
「え、あの人弁護士ではないんですか?」
奏介が未瑛に問う。
「ああ、そうだ。妹は弁護士を目指しているが」
「弁護士七十二条を知らないわけないでしょう!」
映美が少し大きな声を出した。
「だろうな。司法予備試験を目指すお前が知らないわけない。それを知りながらこれか? 犯罪行為だ」
映美はぐっと言葉に詰まるも、
「姉さんは人の心がないのですか!? この子は冤罪で少年院に入れられたのに、弁護を断るなんて。私には見捨てることが出来なかったのです」
あきこキリコ親子コンビは、はっとしたようだ。
「そ、そうよ! 話も聞かずに断られて、こちらは途方に暮れていたの」
と、キリコ。
「その時に妹さんが声をかけてくれたんだから。あんたみたいに自分の偏見で客を選ぶ弁護士に文句を言われる筋合いはないんだよっ」
あきこも随分と強気だ。
未瑛はふうっと息を吐いた。
「私達は人間だからな、多少感情で動くこともあるだろう。しかし、あなた方については事情が違う」
あきこキリコ親子へ視線を向ける。
「学校内での他生徒への暴行及び脅迫、学校外での無差別な暴行に依る逮捕後、少年院へ収容、そして今、更生を終えて出所。それが住友あきこさんの経歴だ。特に学校外での事件の被害者は数日間の入院を余儀なくされた。冤罪を疑う余地はない。被害者側との示談の交渉ならともかく、冤罪を巡って民事裁判を起こすというのは異常だ。言い方は悪いが、負け確だ」
映美はぎゅっと拳を握りしめた。
「いつもそう、姉さんは勝ち負けにしか拘ってないですよね!? 何と言おうと、住友さん達は冤罪を押し付けられた被害者です。誰も味方がいないのなら、私がやるしかないでしょう」
映美は胸元に手を置いた。奏介はそんな彼女を呆れ顔で見やる。
(いや、味方がいないのはガチの犯罪者だからだし)
「そう思うのは勝手だが、私の名前を使わないでもらいたいな。第一、弁護士試験に受かってからにしろ。予備試験すら三度も落ちているだろう」
「ぐ……。で、でも、弁護士の資格は将来必ず取るし、今回の件は勝てば姉さんの手柄なんだから良いじゃないですか」
奏介は挙手をした。
「申し訳ないんですけど、将来資格取る、は誰でも言えますし、結局あなたは弁護士ではないので、弁護士法に違反してますよね」
「私は、姉さん……羽化月未瑛より優秀な弁護士になるんです!!」
その場がシンとなった。
「いやだから、そのセリフ、俺が言ったとしても違和感ないんですよ。というか、資格がないのなら、あなたの言動が説明つきますね。相手側に直接暴言を浴びせるとか、トラブル解決のプロとしておかしいでしょ。そんなことしてたら別のトラブルになりますし、仕事に感情を持ち込むのはまずいでしょ。目指している職業のこと、まったく知らないのでは?」
「うるさい、子供のくせに!」
「どう考えても正論だ。子供はお前だろう。そんなんだから予備試験に落ちるんだ。まあ良い。警察と弁護士会へ通報する。まあ、私も何か罰を受けるかもしれないが、こんなバカなことをしでかす妹を制御できなかった責任があるからな」
未瑛はスマホを取り出した。
「なっ、姉さんの振りをしただけで警察!? 身内なのに!?」
「私の振りというより、弁護士の振りをするのは犯罪だ。うちの家系から逮捕者を出すのは忍びないが、同情の余地はなさそうだ」
映美は未瑛に引っ張られながら、連れて行かれたのだった。裁判所への提出物などの取り下げも行わなくてはならないらしいので、住友親子にはきっぱり依頼を断って、去って行った。
奏介に対しては、
「菅谷君、また改めて」
と言っていたのでまた会うことになりそうだ。
「お、覚えてなさいよ!」
どこかで聞いたことがあるような捨て台詞である。結局、味方をしてくれていた弁護士がいたからこその自信だったのだろう。
嵐が去って行き、ぼたんはその場に座り込んだ。放心状態のようだ。まもなく、誰が呼んだのか、警察が駆けつけてきて、事情を聞かれることになったのだった。
〇
かつての住友あきこ以下数名、現ぼたんの担任、上道勇太朗はため息を吐きながら歩いていた。
「目立つようにやるなっつってんのに」
上道はいわゆる不良やいじめっ子達から人気がある。校内で暴力行為やいじめをしたとしても上道は口頭注意だけで済ませ、それどころか丸く収めてくれるからだ。
先日の住友のグループの件のせいで、校内でのいじめを厳しく取り締まる風潮が出て来てしまい、不良達から不満の声が上がっているのだ。
。
(どうにかしてくれよって言われても校長がなぁ)
校内正常化とかなんとか言いだしているのだ。
と、通りかかった路地の奥に見慣れた金髪が見えた。しかも、勤務する高校の者である。
「! おい、お前ら」
路地に入って、声をかけると、金髪と赤髪の男子二人が振り返った。やはり制服は自分の高校のそれだ。
「なんだ、上道かよ」
「脅かすなっつの」
見ると、頬を赤くして尻餅をついているのは桃華学園の制服を着た男子である。殴ったことは明白だ。
「おいおい、何してんだ。こういうのはせめて学校でやれ」
「つっても、学校でやると今面倒じゃん?」
「てか、こいつが勢いよくぶつかってきたのがわりいんだし」
肩を落とす上道。
「これバレたら、住友達の二の舞だぞ。さっさと帰れ」
「へーい。ほんとに上道がなんとかしてくれよ。校長締めるなら協力すんぜ?」
「できるわけないだろー」
と、その時だった。
「おい、何してるっ」
振り返ると、二人の制服警官が駆けつけてきた。
「え」
まさか、通報されていた?
「いや、これは」
上道が言い訳をしようとした時である。
「お巡りさん! この三人に殴られたんですっ」
見ると殴られていた少年は切れた口から血が出ていた。これは、説得力があり過ぎる。
「! 大人しくしろっ」
「君、早くこっちへ。おい、応援を呼べ」
上道はおろおろするしかない。
「いや、あ、おれは別に」
「なん、だよ! 警察って! 誰が呼びやがったんだよ」
金髪と赤髪がぎゃーぎゃー騒ぐ。
「ん? あなたは高校生ではないですね? 事情を聞かせて頂くので」
警官の不審に満ちた視線に上道ははっとする。金髪赤髪と仲間だと思われている?
「ち、違いますよ。私は、この子達を止めようとしていたんです。教え子なんです」
「違います」
見ると、頬を腫らした少年がそう言った。
「この人が命令したんだと思います、あの二人に殴られました」
さっと血の気が引く。こんな状態の彼の言葉を疑う者などいるわけがない。
「とりあえず、事情をお聞きするだけなので」
警察官が冷静に言った時、少年もとい奏介の口元に笑みが浮かんでいた。
ぞくりとする。
通り過ぎざまに、小声で耳打ちされる。
「いじめ容認教師、ついにいじめに加担するってな」
頬に汗が流れた。
その後のことである。暴行犯として警察に事情を聞かれることになった上道は、後日、自身の勤務する生徒と共に他校の生徒に暴行をした教師というレッテルを貼られたのだった。
ーテレビのニュースー
『自身が勤務する高校の生徒に指示し、共に他校の生徒に暴行を加えたとして逮捕されました。この高校ではいじめが問題になっており』
『次のニュースです』
『名前を偽って弁護士を謡い、民事裁判の手続きを進めたとして弁護士法違反で逮捕されました。弁護士会と警察によりますと、バッジの偽造の疑いもあるとして捜査を進めており』
次回、住友親子回に戻ります。教師&偽弁護士のその後の話でてきます。




