『第142部』えぐいいじめをしていた女子高生after2
名前が出る山田弁護士登場話数は225部〜です。
弁護士と名乗る女性、羽化月未瑛はそう静かに言った。
奏介は再び冷めた視線を彼女に送る。
「それは失礼しました。言葉遣いが悪かったですね。それはそうと、そこの暴言を吐いている方も非常識な物言いいですよね」
奏介はスマホをタップ。
『噂広めて、学校にいられなくしてやるよ。このいじめ捏造女っ』
録音された音声が辺りに響いた。
「噂広めて学校にいられなくする? はぁ? なんなんですかね、その言い様は。どう考えても脅迫でしょ」
目を細める女弁護士。
「なぜ、録音を? 予告もなく勝手に、他人の声を記録していた、と?」
「そ、そうよ! ふざけんな。盗撮とか盗聴と一緒じゃん!!」
「少年院出たての犯罪者が、被害者宅に乗り込んできてるんだから、録音や証拠映像くらい撮るでしょ。女の子を襲って病院送りにしたクズに文句言う資格ないでしょ」
女弁護士はふっと息をつく。
「少年院は犯罪を行った者や非行のある少年を収容し、改善更生のための処遇を行う施設。そこから出てきた彼女は更生への道を歩き始めています。未来ある若者に再起の道を与えるのが少年法なのですよ」
「更生? 他の犯罪を起こした未成年は事情に寄っては更生してほしいとは思いますが、笑いながらいじめやって、人を傷つけてた奴らに未来なんていらないと思いますけど。少なくともいじめっ子には未来ごと消えてもらいたいですね」
奏介は肩をすくめる。
「なんて、非常識な」
「非常識で結構です。いじめ被害者を気遣うよりいじめ加害者を優先する人とは話が合いません。そういえばテレビで、いじめ事件で自殺した子の親が学校に抗議したところ、加害者の子達には未来があるから云々と発言したとか。反吐が出ますよね」
羽化月は歯をギリリと鳴らした。
「言っておきますが、今回の件はこちらの住友あきこさんが必要以上に罰を受けたという点です。学校内では問題行動は起こしていなかったのに、片野ぼたんさんの発言で罪が重くなりました。大袈裟に騒いだからです」
ぼたんが目を見開く。それから、涙を溜めた。
「何、それ。なんで? なんでそうなるの!? わたしは、学校で酷い事言われて酷いことをされて、辛かったのに!」
「それはあなたの主観です。住友さんは罰を受けて数倍辛かったのですよ」
「そうよ!」
あきこが声を上げると、ずんずんとキリコが歩み寄ってきた。
「うちの娘をよくも!」
青ざめたぼたんの前に奏介が立った。
「そこの一般人2人はともかく、こんな場所で自分の主観で発言するとか凄い弁護士もいたもんですね。どちらがどう辛かったかどうかなんてあなたに分からないでしょ。相手側に直接文句言いに来る前に、裁判でどう弁護するかを話し合うべきでしょ。あなた、本当に弁護士なんですか?」
カッと羽化月の顔が赤く染まった。
「この弁護士バッジが見えないんですか!? 失礼な! そうやって大人をバカにしていると」
「バカにしていると、なんだ?」
この場の誰でもない低い女性の声がした。横から現れたのは、超ロングヘアの女性。パンツスーツにハイヒール、メガネ。羽化月未瑛と瓜二つである。
「あ……」
真っ青になる羽化月。
「なんで……アメリカ出張じゃ」
突然現れた彼女は腕を組む。
「知り合いの弁護士から個人的に連絡をもらってな。私が断ったはずの依頼を受けたことになっていた上に訴状が裁判所に提出され、被告側に訴状が送られたらしい、と。どういうつもりだ。映美」
奏介は目を瞬かせ、
「失礼ですが、どちら様ですか」
「ああ、そうか。失礼。私は羽化月未瑛、弁護士だ。そしてそちらが妹の羽化月映美」
「ああ」
ずっと感じていた違和感が解消された。つまり目の前の彼女は弁護士でもなんでもない、一般人だったと。
「ね、姉さん! それより、この子供が勝手に人の発言を録音したり、お金を頂いている依頼者様に暴言を放ったりして」
未瑛は冷たい視線を妹に送った後、
「もしかして、山田が言っていた少年というのは君かい? 菅谷君だったか」
「はい。そうです。山田弁護士にはお世話になったことがありまして」
映美は目を見開く。
「!? 山田弁護士ってまさか、あの!? な、なんでこんな子供が……知り合い……? へ、あ?」
「ああ、知ってるんですね。片野さんには山田弁護士を紹介してあるんですよ。子供で申し訳ないですけど、俺が」
固まる羽化月英美と、困惑するあきこキリコ親子。
どうやらここからは弁護士羽化月未瑛のターンのようだ。
とんでもない怒りのオーラを放つ、彼女の。とりあえず、加勢しようと、奏介も身構えた。
読者様の鋭い考察により、正体バレ気味だった一般女性の未来は……?
次回、便乗して全力で口攻撃しようとする奏介。




