迷惑路上駐車をする男達が突っかかってきたので反抗してみた3
上嶺は227部〜登場です。
津摩吹は息を飲み込んだ。
ボスが近寄るなと警告していた雛原組。まさか対峙することになろうとは夢にも思わなかった。
(おいおい、ヤバいんじゃねぇの?)
苗字からして、目の前の男は組長との繫がりが深いのだろう。
「いや、まぁ待ってくれよ、雛原組さんよ。この辺荒らしたことは悪かった。うちのボスと会って話をつけねぇか? ボスは揉め事は嫌うからな、お互い穏便に解決しようや」
大悟の眉がピクッと動いた。もう一押しだ。この場で話し合いに持ち込めれば逃れられる可能性が高まる。
「こういう世の中だ。揉め事起こして、目ぇつけられんの面倒だろ?」
大悟が、ふっと笑った。
「お前ら、うちの組のもんに示談金とかほざいて500万円要求した上、一部受け取ったんだろう? 組の中でも気弱なやつでな。問い詰めてようやく吐いたんだよ」
津摩吹に集られた組員は迷惑をかけないよう、警察を呼ばずに示談金を払うつもりだったらしい。もちろん、組の名前は出さなかったので津摩吹達も一般人だと疑わなかったのだろう。
「受け取った時点で喧嘩を売ったも同然なんだよ。……嘗めてんなよ」
静かに恫喝する。
(マズイ。クソ、ここは)
津摩吹はちらっと奏介を見た。彼は少し離れたところにいるので周りに組員はいなかった。
「おい、あのガキだ」
衣田に耳打ち。
「そして、よし、行け!」
衣田が奏介の方へ駆け出した。
「うあっ」
あっという間に奏介の首に腕を回し、拘束する。
衣田がニヤリと笑う。
「へへ、ガキが調子に乗りやがって。おい、こいつはてめぇらの仲間なんだろ? どうなってもい、ガッ!?」
衣田が急に白目を向いて、その場に倒れ込んだ。
「!? お、おい」
見ると、奏介の手にスタンガンが握られている。
「ガキがぁ」
奏介はスタンガンを見せつけた。
「これは護身用です。いきなり首を締められたんですから、使っても良いでしょ。それに、電圧は低めですから、気絶もしてないし」
見ると、衣田はもぞもぞと動いていた。
「うう、し、痺れて……なんだ、今の……」
津摩吹はスッと目を細めた。
「てめぇのバイト先と家族、友人知人そいつらまとめて、ヤるから覚悟しとけよ。地獄の果まで追いかけて、一生不幸にしてやる」
奏介はふんっと鼻を鳴らした。
「違法駐車した上に、逆ギレてしてお店で暴れて、挙げ句は暴力を振るって返り討ちに遭い、さらに逆ギレして地獄の果まで追いかける? ブチギレてるとこ悪いですけど、全部あなた達が突っかかってきたせいでしょ。こっちは何にもしてないのに」
奏介は肩をすくめた。
「何もしてない、だと?」
津摩吹の低い、唸るような声。
「してないでしょ。自分達だけで盛り上がって楽しそうで何よりです」
肩をすくめる奏介。
「よく言えたなぁ、てめぇ」
「それより、逃げないんですね」
はっとした。いつの間にか黒服の組員達に囲まれていたのだ。
「我々のことは無視かい?」
歩いてくる大悟。
「あ……」
「なめられたものだね」
その瞬間、大悟の裏拳が炸裂した。
「ぐはっ」
倒れ込む津摩吹。
組員達が一斉に大悟を見る。
「若、どうしやすか」
「予約はしてある。車へ運べ」
二人は近くに停められていた黒いバンへと運ばれていった。
手足を縛られ、後部座席に転がされる二人。
「やめろ! ボ、ボスが黙っちゃいねぇぞ!」
「そうだ、全面戦争になっちまっても良いのか!?」
ギャーギャー騒いでいる二人、大悟は開いたままの車のドアの前に立つ。
「今回は助かったよ。君の情報のお陰で早めにゴミを片付けられそうだ」
「いえ、こちらも助かりました」
大悟は頷いて、
「お互いにメリットがあった。こういう関係は後腐れがなくて気持ちがいいからね、親父が君を気に入っている理由がなんとなく分かる」
奏介は苦笑を浮かべた。
「組長さんにもよろしくお伝えください。……ちなみに、その二人は」
「すでに、向こうのボスと親父の間で話がついてる。こいつらが勝手にやったこと、だそうだ」
その言葉に、津摩吹達は固まる。
「は? ボスが……」
「え、あ……」
どうやら切り捨てられたようだ。
「あの、この人達のことなんですけど」
「ん? もしかして、許してやってほしい、とか?」
「ああ、いえ、クズがどうなろうと別に良いんですけど、これからどうなるのかなって、もしかして、こ」
奏介の言葉を遮るように、大悟が笑う。
「大丈夫さ。君が予想してることはしないからね。それより、船の時間が迫ってるから、今回はこれで」
「船」
「うん、船。それじゃ」
大悟は手を振って、それに乗り込むと、車は大通りの方へと消えて行った。
大悟の話に寄れば、スーパー荒し集団もボスと話をつけてくれたらしい。当たり屋集団は別の土地へと移動するのだろう。
(実質逃がすことになるし、見王さん達と組んだほうが良かったかな……)
警察なら一網打尽に出来ただろう。今回は雛原組と利害の一致があったので上手くことが運んだので良しとしよう。奏介は1人頷いて、大通りへと出た。
そこでスマホに着信が。
「ん?」
画面をタップして耳に当てる。
「はい」
『おう、奏介か?』
「珍しいね、父さん」
奏介の父、洋輔だった。現在アメリカに単身赴任中である。
『ああ、来週末、日本に帰ろうと思ってな』
「え、急だね。休みが取れたの?」
『いや実は会社をクビになりそうなんだ』
「ああ、そうなん……は? なんで」
奏介は少し焦る。前にとある社長令嬢の恨みを買った時に、父である洋輔を巻き込みそうになったことがあるのだ。
『ははは、いやぁそれが、社長が言うには上から圧力がかかったらしくてなぁ。社長的にはおれに辞めてほしくないからなんとかして欲しいって頼まれたんだ』
「いや、なんでクビになろうとしてる人に頼むの」
そう問いながらも、洋輔の人脈や問題解決能力は分かっている。
『まぁまぁ、社長に頼られるのは悪い気はしないからな』
「……なるほど」
『あー、それで実はな、その圧力をかけてる輩は日本の政治家に関係してるらしいんだ。心当たりないか?』
頭の中に、すーっと浮かんできたのは元同級生の顔だ。上嶺有孔、国会議員、政治家の息子。以前一悶着あったわけだが。
「うーん……まぁ、あるよ」
『やっぱりな! だと思った!』
「いや、なんかごめん。本当に俺のせいかも」
奏介がそう言うと、
『姫と奏介の巻き込まれ体質はおれの遺伝だからな、気にしなくて良いぞ。直接、乗り込みに行って話をつければ良いだけだ』
洋輔は明るく言う。このノリで本気で家や会社に押しかけて行きそうである。
『それじゃ、またな』
「うん。気をつけて」
通話を切った。
「上嶺ねぇ」
奏介は鋭い視線をスマホに送った。
「何か企んでるのか」
そんな予感がした。
上嶺は227部〜登場です。
次回はafterになります。




