迷惑路上駐車をする男達が突っかかってきたので反抗してみた1
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とある休日の土曜日。
開店前。奏介と高平は入り口近くの棚に品出しをしていた。
「後1時間半かよ。どう思う?」
高平がやや呆れ気味に聞いてくる。
「どうってなるようにしかならないんじゃないの」
二人で店内へ視線を向ける。店の真ん中には呆れ顔のパートさん達に囲まれながら、電話の向こうの相手にペコペコと頭を下げ続ける店長の様子がある。
「はい、そこをどうにか! ……はい。……本当ですか!? 大丈夫です! お願いします!」
通話を終える店長はほっとしたように息をついて、
「なんとか確保できました!」
パートさん達も安堵したようで、表情が緩んだ。
大々的に広告に出していた産地直送のりんごの発注をしていなかったらしく、早朝から大騒ぎだったらしい。
開店まで後1時間半、ようやく仕入れの話がついたようだ。
「あ、高平くーん」
汗だくで歩み寄ってきた店長はハンカチで額を拭きながら、
「南桃糠の青果市場までりんご取りに行ってもらえる? 知り合いの人が売ってくれることになってね」
「えぇ? 往復1時間かかるじゃないっスか」
「頼むよ! 行って帰ってきて皆で売り場に並べれば開店と同時にお客さんに手にとってもらえるし!」
「まぁ、間に合わなくはないか……?」
「菅谷君も一緒に行ってきてもらえないかな? お手伝いでさ!」
「俺は別に良いですけど」
運転することになる高平は大変だろうが、奏介に断る理由はなかった。
「よかった、ほら、菅谷君も行ってくれるって! 良かったね、高平君」
親指を立てる店長。
「良かったってなんスか!? 菅谷がついていけば安心みたいな言い方! オレのほうが先輩っスよね!?」
「ほら、揉めてないで行くぞ。運んでくるだけなんだから」
奏介が言って、エプロンを外す。
「くそ、なんでお前は先輩感全開なんだよ」
「変なところでごねるからだろ」
「うんうん、よろしくねー」
奏介と高平は、裏手に停めてある、スーパー所有のバンに乗り込んだ。
「まったく、あんまり運転得意じゃねぇんだぞ、こっちは」
「へぇ、そうなんだ」
「人間誰にも、苦手なことってのはあるだろーが。……って、あー……」
スーパー従業員や関係者用駐車場の入口に黒のスポーツカーが停まっていた。3分の1ほど入口を塞いでいて、ギリギリ出られるかといった具合だ。
「まだあったのか」
「ん? あの黒い車?」
「2日前からあそこに停まってんだよ。迷惑極まりないって店長とか仕入れに行く人が愚痴ってた。警察にも連絡して持ち主探したけど、連絡つかないんだと。もう強制レッカーって話も出てるけどな」
とは言え、今はすぐ動かないだろう。
「見た感じ、ギリギリ行けそうだけど」
「確かに。だけどな、かなり細かいハンドル操作が必要だぞ、あの狭さは」
奏介は微妙に塞がれている駐車場入口を見る。中に人はいない。いわゆる路上駐車だが、ここが出入り口であることは見れば分かるだろうに。
「俺が降りて誘導するから落ち着いて行けよ」
「な、なんだよ落ち着いてって」
「手が震えてる」
「ぐっ!」
奏介は車から降りて、黒い車の前に立った。
「そのまま真っすぐで大丈夫だ」
窓から顔を出す高平。
「ほ、ほんとか!?」
「危なかったら言うからブレーキ準備しておけよ」
ゆっくり、ゆっくりと入口へ車を進めていく高平。
(本当にギリギリだな)
奏介も少し緊張していた。このまま無理をしないで店長達を呼んでくるのもありかもしれない。ぶつけてしまったら、面倒くさいことになる。
「! 高平ストップ」
すぐにブレーキがきいて停車した。
「ぶ、ぶぶぶつかったか!?」
「いや、大丈夫だ。もう少し右かな。調整出来るか?」
「や、やってみる。けど、ちょっと確認するぞ」
高平が車を降りて来た。
「うっわ、余裕ねぇー! サイドミラー畳まないと無理じゃね!?」
「ああ……ギリギリ無理そうだな」
「くっそー!」
と、その時だった。
「なになに、あんたら何してんの?」
「オレらの車ジロジロ見ちゃってさぁ。何、ぶつけてくれちゃった?」
チャラチャラした若い男達が歩み寄って来た。
「え? いや、てかあんたらの車か? 早く退かせよ。マジでぶつけちまうところだぞ!」
坊主の男が舌打ち。
「兄ちゃんさぁ、いきなり退かせって何よ? オレ達初めてお話すんよねぇ? 失礼じゃね?」
「あー、キズついてんじゃん。やってんねぇ」
にやにやと笑う金髪男。
「はぁ? ぶつけてなんかねぇだ」
坊主の男が高平の胸ぐらを掴んだ。
「兄ちゃん、この場で示談にしてやっても良いぜ?」
「この車、修理代高いから500万払えや。警察に連絡してみろ、ここのスーパー潰すぞ」
「……!」
一般人ではないのかもしれない。脅し方が非常に慣れている。
「あのー」
気の抜けた声に、男達が振り返る。
「この場所、駐車場の入口なんですよ。だから、車を」
「ああん? なんか文句でもあんのか、ガキ」
男の凄みに奏介はため息を一つ。
「いや、話聞きましょうよ。そこに車があって、ここに道路が通ってて、歩道の縁石が切れてるんだからそこの車はこの場所から道路に出るんだってわかりません? そこに車停めたら、出られなくなって困っちゃうんですよ。分かります? ちょっと考えれば猿でも分かりますよね? それともおにーさん達は車はお空を飛ぶから入口塞いでも大丈夫、とか思ってるんでしょうか」
奏介はふんと笑った。
「頭弱すぎ」
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