夢オチ 法律のない世界で物理的反抗してみた3
※注意※
このお話は夢ですが、本編と比べて暴言、暴力描写があります。苦手な方、不快に思われる方もいらっしゃると思いますので、注意して下さい。
申し訳ありませんが、本編と少し関係あります。
前回の夢オチ→216部
300部の小学生達の末路の後、●以降が夢話しです。
放課後、奏介はあいみの手を引いて歩いていた。
「夢の続き?」
保育園お迎えの帰りである。
「うん。りーちゃんが言っててね、ほんとに見られるんだって」
一番仲の良い友達らしく、よく話題に出てくる名前だ。寝ている時に見る夢の続きを見ることが出来るおまじないが保育園で流行っているらしい。
「続きかー」
奏介は小さく呟いた。
「そうすけ君も見たい夢ある?」
「どうだろ。忘れちゃうことが多いから」
「そーなんだ。わたしも叔母さんもあんまり夢見ないから」
「いつみさんはともかく、あいみちゃんも見ないの?」
あいみは首を傾げる。
「ふつー皆見るの?」
「あぁ、そっか。分からないよね。全然見ない人もいるかもしれないし」
「あ!」
あいみが何か思い出したように声を上げた。
「どうしたの?」
「前ねー。お母さんがすごーく優しくなった夢見たことある!」
「……」
この話題を広げたことを少し後悔した。
奏介はあいみの頭をなでた。
「そうなんだね。そういえば、今日何か食べたいものある? 母さんに伝えとくけど」
「好きなもの!? んーと、おいなりさんが良いな」
「いなり寿司? 好きなの?」
「うん、好きー」
いつみの好みだろうか。しかし、いつみはいつみで、いなり寿司が好きなようには思えないが。
(サラダとか豆腐とかさっぱりしたものが好きって言ってたしな)
そんなことを考えていると、
「お兄さーん」
手を振りながら近づいてくるのは、ランドセルを背負った小学生の女の子だ。
「あ」
すぐに思い出した。
「はぁ、はぁ。やった、偶然。こんにちは」
バンダナをカチューシャにしたショートボブ。髪型は違うが、道端で髪を切られていた女の子……天家あまねだった。
「あぁ、こんにちは。学校この辺?」
「うん、そうそう」
あの時は泣き顔が印象的だったが、今日は何やら嬉しそうだ。
「あ、お兄さんの妹さん? こんにちは」
あいみは、はっとしたようで、もじもじとしながら、
「こ、こんにちは」
あいみは、ギュッと強く奏介の手を握ってきた。
人見知りだろうか。
「その髪」
「うん、美容師さんに整えてもらって、バンダナ巻いて切られちゃったところを隠したの。変じゃない?」
「うん、似合うよ」
「えへへ! 美容師さんが考えてくれたんだよ」
本人が一番気に入っているようだ。
「あの後どう?」
「うん、うちのお父さんが凄い怒って、警察に被害届? 出したの。宇都良さんは今休んでるけど、転校するかもって」
「それが正解だね」
「皆噂してて、宇都良さん、ネットでも叩かれてるみたい。家燃やすとかコロすとか、凄い過激なこと言う人もいてなんかさ、ここまでやらなくてもって思」
奏介はすっと目を細めた。
「天家さん」
「な、何?」
「過激に叩かれてるのは、天家さんの髪を切ったせいなんだよ。そこまでやられてるのは自業自得。同情なんかいらないし、あの子の未来を心配しなくても良いんだ。ああいう輩は、人生潰されて当然だから」
「……! お兄さん、凄いね。言い切っちゃうの」
「いじめっ子に人権いらないと思ってるから。人権分かる? 社会で習ってる?」
「法律に触れてるよね……。でも、そうだよね。放課後のトイレで水をかけられたこともあったし」
そんなやり取りをし、
「あ、もう行かなきゃ! それじゃ。またね、お兄さん」
手を振って見送った。
「……そうすけ君、あの子と仲良いの?」
あいみが不安そうに見上げてきた。
「ん? いや、ちょっと前に知り合いになっただけで」
「ご飯食べたりお家に行ったりするの?」
「お礼をしに家に一回来たことあるけど、会うのは今日で3回目だね」
「そっかぁ」
何故かホッとした様子のあいみ。
「どうしたの?」
「そうすけ君、お友達多いからお迎え来てくれなくなっちゃうかなって」
「ないない。また来るよ」
「うん!」
○
数日前。あまねが髪を切られた翌日。
宇都良エルマが警察に連れて行かれたことで学校へ来ていなかった、のだが、宇都良グループのメンバーはあの場から逃げてしまったので状況を把握出来ないでいた。
教室の隅に集まってこそこそ話。誰かの悪口を言う時はいつもこうだ。
「ねぇ、やっぱり天家が何かしたってことでしょ? 大人を呼んできてエルマいじめたんだよ」
万戸ユウリは他のメンバーにそう言った。エルマをあの場に置いてきてしまったのは気がかりだったが……彼女のことだ、上手く逃げたに違いないのだ。
「エルちゃんが休むって、相当だよ。あの卑怯女」
「今日はあたしらで締めちゃおうよ。あいつ」
泣かせてやるのだ。そうしたら、皆でエルマの家へ見舞いに行こう。そんな話になっていた。
と、ユウリが気づく。
「来た」
教室に入ってきたのは、件の同級生、天家あまねである。クラスの女子委員長と一緒だ。髪は短くなっていて、バンダナをカチューシャのように巻いていた。
「あまねちゃん、どうしたの、その髪?」
「イメチェン?」
その様子に気づいた女子達が珍しげにあまねを囲む。
ユウリは舌打ちをした。それから、ズンズンとあまねへ歩み寄る。
「天家さんさぁ、ちょっとこっちに来てくんない? 話があるんだけど」
「え」
ビクッと肩を揺らし、固まるあまね。その様子に内心で確信する。勝てる、と。
(学校に来られないように、徹底的に締めてやるんだから)
しかし、すっとあまねの前に滑り込んて来たのはクラスの委員長だった。
「天家さんはあなた達に用事はないから」
「はぁ? なんなの、委員長。関係ないでしょ」
委員長は冷たい視線を向けた。
「先生から頼まれてるの。先生が来るまで、宇都良さんと一緒に遊んでた人達に絡まれないようにしてやってくれって。宇都良さん、お巡りさんに連れて行かれたんですって? あなた達関係ないのかしら」
教室内がざわざわと騒がしくなる。
「し、知らないから」
委員長は人差し指をユウリに向けた。
「それはそれとして、天家さんの髪を無理やり切って喜んでるバカ共を、彼女に会わせるわけにいかないでしょう」
そう言い放った。
「え、えっ! 切ったって何!?」
「まさかあまねちゃん、切られたの!?」
「うっわ。こえー」
「普通に引くわ。漫画のイジメかよ」
クラス内に自分の味方がいなくなっていくのを、ひしひしと感じた。助けを求めるように振り返るが、他メンバー達はすっと視線をそらした。
(ふ、ふざけないでよ!?)
当たり前に友人だと思っていた。まさかかばってくれないとは思わなかった。
やがて担任教師が入ってきて、朝のホームルームが始まり、その後に全員で校長室へと呼び出された。
そこで聞かされたのは、エルマが警察に補導されたこと、そして天家あまねの家族が、髪を切ったことに対しての暴行罪の被害届けを出したこと。
つまり、関わった疑いのある万戸達の事情聴取が行われることになったらしい。
「そんな! あたし達はいじめるつもりじゃ」
ユウリが叫ぶ。遊びのつもりだったのに、校長室には担任と教育指導の先生、校長に教頭と勢揃いだ。
険しい顔をして目の前に座る校長先生は、ふっと息を吐いた。
「あなた達はもし自分が自分の髪を切られたら嫌ですよね?」
「!」
「嫌がることをしたらもうそれはいじめですよ。残念ながら、天家さんのお父様がとてもお怒りです。あなた方に会わせろと、おっしゃってましたがトラブルの元なのでお断りしておきました。これから警察の方がいらっしゃるので正直に答えて下さいね」
全身の血が引くようだ。優等生で真面目で、男子にもモテる天家あまねが調子に乗っているという話から嫌がらせを始めたが、最初は本当にただからかってただけなのだ。
(こんなことに、なるなんて)
まさか、逮捕されるのだろうか。ニュースでよく見る、犯人がパトカーに押し込まれる様子がフラッシュバックする。
(そんな……)
制服の警官が到着し、不安と恐怖は現実のものになっていった。
●
奏介は、はっとして目を開けた。
「ん……」
狭い部屋の中だった。
(トイレだ)
自分はズボンを下ろさずに便器に座っている。用を足しているわけではないらしい。
「菅谷〜。そこにいるの分かってるんだけどー?」
「ここへ逃げてることバレバレだから!」
石田と堅野コンビ、そして、
「早く出て来なよ。逃場ないんだし」
阿佐美の声。
最近、逃げていた図書室にはもう行けなくなった。だから、特別教室がある校舎の3階隅のトイレに逃げていたのに。
(そっか、あの時の)
これは確実に夢だろう。
ぼんやりとしながら思う。
(確か、脅しが怖くてこの後、出て行ったら便器に……)
しかし、
バシャン!
「ぶわっ」
個室の空いている部分から大量の水が降ってきたのだ。
「!?」
記憶と違う。トイレで水をかけられたことはなかったはずだ。さすがに全身濡れたまま校舎内を歩かれると、他の教師に介入される可能性があるため石田が避けていたのだろうが。
(そういえば、天家さんが言ってたな……。トイレで水かけられたって)
その話を聞いた影響でこんな夢を見ているのだろうか。
「出てこないとー、もう一杯行くかー?」
奏介はランドセルを手に持って、個室の鍵を開けた。
「どんだけトイレしてんの?」
「オレ達待ってたんだけど?」
石田&堅野ニヤニヤ。奏介無言。
「はい、もういっぱーい」
「ぐっ」
バケツでもう一回水をかけられ、奏介は目をつむる。
「ギャハハっ! おもしろー」
「これ、トイレのタンクから組んだ水なんだよ。オラァッ」
「っ!」
肩パンをされ、床に尻もちをついたところを首元を掴まれ、便器の方へ。
「! 何を」
無理やり便器を覗き込まされ、さすがに夢でもぞくりとした。
「ぼーっとしてんなら、頭冷やせよっと」
「がぼっ!」
便器へ顔を突っ込まされる。夢なので匂いはないし、感覚も鈍いが、鮮明に記憶が蘇ってきた。
すぐに石田は奏介の首元を離し、
「あー、すっきりした。帰ろうぜ〜」
「きったね。ウ○コと同じ場所に顔つけて」
それは無理矢理やったのだろう。
堅野と石田はニヤニヤと笑いながらトイレを出て行った。
「阿佐美ー、校門で待ってるからなー」
と、座り込んでいるところを再び水をかけられた。
「うぶっ」
見上げると、
振り返った阿佐美がにやにやと笑っていた。
「ほら、これできれいになったでしょ。てかさぁ、堅野君達を無視するとかどういうこと?」
阿佐美がドスをきかせた声で言ってくる。
奏介は目を見開いた。
「うるせぇんだよっ、クズッ」
思いっきり、阿佐美の頬をぶっ叩いた。
「がふっ!?」
続きます。




