新任教師を旦那の不倫相手と勘違いして殴ってきたギャル妻に反抗してみた2
「はぁ? いきなり何? てかガキがなんでこんなところにいんのよ」
「そっちこそ何を寝ぼけたことを言ってるんですか? 星先生は俺達の学校の先生なんですよ。あなたに怪我させられた先生を心配して来たんです。ちょっと考えれば分かるでしょ。それより、怪我人の部屋入ってきて何偉そうに腕組みして立ってるんですか?」
奏介は床に人指し指を向けた。
「怪我をさせて申し訳ございませんて、土下座だろ」
「土下座はそこの女のほうでしょ!?」
「先生に土下座して謝罪する要素ないでしょ。何をどう考えればそういう結論に至るんですかね?」
「うちの旦那を勘違いさせるような態度を取ったこと、でしょ」
新野夫が慌てる。
「いやだから、聞かれたことを答えて、教えてあげただけで星さんとは何もないんだよ。当然だろ」
「騙されてんのよ。あの女が誘惑しようと近づいたんでしょ!」
奏介は鼻を鳴らした。
「旦那さんに逃げられるのが怖いんですか?」
「!? な、何が」
図星のようだ。動揺し過ぎである。
「初対面の女性と喋っただけで暴力に訴えるって、旦那さんがその女性になびいたら困るからでしょ? ぶっちゃけ逆効果だし、旦那さんの気を引くにしても、こちらとしてはドン引きです。他人に怪我させてまでやることじゃないでしょ。嫉妬? 下らなくて反吐がでますね」
新野妻はギリギリと歯を噛み締める。
「知ったような口を聞かないでよ! なんにも知らないくせにっ! あたしがどんな思いをしてるか、あんたになんか」
「別に知らねぇよ。てか、だったらそっちも、星先生を不倫女みたいに言わないでくださいよ。俺にあることないこと言われて腹が立つんでしょ? そういうことですよ。しかもそこに暴力を加えといて逆に土下座しろ? どういう思考回路してるのか甚だ疑問ですね。あと、悪口言い返されたくらいで泣くの止めてもらえます? あなたにどんな事情があるのかなんてどうでも良いですが、星先生を殴ってる時点で悲劇のヒロインではないので」
「っ……!」
鬼のような形相で睨みつけてくる新野妻。一切動じず、冷めた視線を交わす奏介。両者の間に入れず、わかば、東坂委員長、田野井、そして新野夫は同じタイミングで息を飲んだ。
「ちょ、ちょっと菅谷」
わかばが動きかけたが、
「橋間さん、だめですよ」
「橋間、今は入らないほうが良いだろう」
東坂委員長と田野井に止められたものの、次の瞬間には2人がぶつかり合うのではないかと。
「その制服、桃華学園? あんた覚悟しときなよ。大人の事情に首突っ込んでさ」
「はんっ、負け犬の遠吠え。ママに言いつけるから〜と同レベル」
奏介がバカにしたように言う。
「こ、このガキがっ!」
「ていうか、桃華学園の教師を殴って入院させた勘違い女が、その教師が所属してる桃華学園に抗議するって、本気ですか? 星先生だって授業を持ってるんですよ。入院させて授業を数日に渡って潰しといて、味方になってくれると思ってるんですか? まぁ、不倫の証拠でもあるなら別ですけど」
「お前、覚悟しろよ!」
怒声。
「や、止めろって」
再び手を出そうとする新野妻を夫が後ろから押える。
「こ、こんな子供に何考えてるんだよ。それに、君が殴ったから彼女の生徒さんが怒ってるんだろ」
「はぁ? 元はと言えばあんたが! あんたが、モテるのがいけないんでしょ!?」
「な、何言ってるんだ。学生の時の話だろ」
「今年も会社でバレンタインにチョコ10個ももらったって嬉しそうにしてたし!」
「そんなの、人付き合いもあるし、社交辞令もあるんだ。既婚者なんだから本気の人なんていないよ」
「うそ! 嘘付きっ」
泣き顔は化粧がぐちゃぐちゃになっていた。病むくらい夫がモテるというのは伝わったが。
実質味方を失った彼女が最終的に矛先を向けたのは、弱々しく謝罪をしてきた星先生だった。
「ちょっとそこのブス。こんな事になってんのはあんたのせいなんだからね!? 生徒を管理できてないのもダメダメだし、何人も生徒を連れ込んでヤリまくってる奴に」
ボフッと音がした。
見ると、うつむいた星先生が枕を投げていて、新野妻の顔にヒットしていたのだ。
星先生はゆっくりとベッドを降りて、真正面から新野妻を睨みつけた。
「わたしのことはともかく、これ以上、うちの生徒をバカにしないで! 被害届は迷ってたけど、提出して、しっかり傷害罪として警察に捜査してもらうから。生徒とヤる? 見たわけでもないくせに想像で言ってるの? その想像が汚いっ、本当に不潔。出て行ってっ」
「このブス、調子に乗りやがって!!」
暴れる新野妻は新野夫に引っ張られていく。
「申し訳ありません、星さん。お大事に、して、下さい。それでは」
そして、病室は静かになった。
しかし、すぐに廊下から、
「は!? なんであたし!? 嫌よ! 意味わからないっ」
奏介は病室のドアを開けて廊下を覗いてみた。どうやら、やってきた刑事達と鉢合わせしたらしい。目つきが鋭い、スーツ姿の中年男性2人だ。
「目撃情報から、あなたがいきなり同じマンションの女性を殴ったのは間違いないでしょう。ようやく逮捕状が出ましてね。明日の朝お宅へ伺う予定だったのですが、こちらにいらっしゃったので」
ギャーギャー騒ぐ新野妻、肩を落とす新野夫。
刑事達は慣れているのか、そのまま彼女を連行して行った。
「あーあ……。凄いわね。絶対逮捕されるのにあんな態度」
「常識がないってレベルじゃないな」
引いているわかば、奏介はため息を吐いた。
「星先生? 大丈夫ですか? どうしましょう。どこか痛みますか?」
「もしかして体調が? 菅谷、橋間、そこのナースステーションに知らせに行ってきてくれ」
星先生が床に座り込んでいたのだ。
「あ、や、大丈夫だよ、東坂さん
田野井君。菅谷君達ももうドア閉めてね」
気弱な星先生がらしくないことをしたために、腰が抜けてしまった、ということらしい。ベッドに戻った星先生は凄い汗をかいていた。
「ああ、あんなヤンキーギャルみたいな人にあんなこと言っちゃうなんて。うううう。逆恨みが怖い」
4人は苦笑いで顔を見合わせる。
「先生、ありがとうございました。怒ってくれて」
奏介が代表で言う。
「君達のことをバカにされたのがちょっと悔しかったから。休みの日にわざわざ抱きまくら運ぶのを手伝ってくれたいい子達に手を出してるはずないじゃない?」
抱きまくら運びの信頼度が高めだった。
「菅谷君には嫌な役やらせちゃったね。言い返さなきゃならないのはわたしなのに」
「いえ、俺もイラッとしたので。あまりにも理不尽だとつい言い返しちゃうんですよね」
「ふふ。君が風紀委員として有名になってきたのはなんかわかる気がする。でも、あんまり危ないことしちゃ駄目だよ。仕返しのために体を張ったり。さっき、殴られても良いとか思ってたでしょ」
「! あ、ああ。まぁ。気をつけます」
「もう遅い、わよね」
わかばが肩をすくめながら言う。
「橋間、明日で風紀委員室な」
「こわっ、何その呼び出し方法」
「牛乳を思い出して反省しろ」
「どゆこと!? 怖い怖いっ」
後日、新野夫は一人で、マンションを出て行ったらしい。
300部の小学生達の末路ですが、次回後日談が語られる予定です。ついでに次話のメインは奏介が夢で物理的仕返しをする話です。




