新任教師を旦那の不倫相手と勘違いして殴ってきたギャル妻に反抗してみた1
前回、300話お祝いコメありがとうございました! ここまで読んで下さってる読者様達に感謝しかありません。
1章終わりから言ってますが、長くなると、ちょっとづつシュチュエーションやネタの被りが入ってくるので、暇つぶしに読んでやるかーくらいに気軽に来てもらえるとありがたいです!
いつもありがとうございます。
放課後、風紀委員の見回りを終えてわかばと共に風紀委員会議室に戻ってくると、何やら中を覗いている若い女性の姿が見えた。体勢を低くして、左右に揺れている。もちろん、生徒ではなく、教師のようだ。
(2年生の副担任の……)
時々見かける後ろ姿である。ブラウスにロングスカート。
「星先生……学校じゃなければ不審者ね……」
わかばが若干引き気味に言う。
(星カナカ先生、か)
今年の4月からの新任教師だ。国語と音楽の担当で、国語に関しては授業が聞きやすいと評判らしい。
「星先生、どうしたんですか」
「!!」
ビクッと肩を揺らし、振り返る彼女。
「え、あ、1年生の橋間さん?」
選択科目の音楽担当らしく、わかばは授業を受けたことがあるらしかった。
「や、そのー。風紀委員会って悩みを聞いてくれるんだよね?」
真剣な表情である。
奏介とわかばは顔を見合わせた。
「一応、生徒の学校での悩みを解決して、より良い学校生活を送ってもらえるようにするというのが目的ですね。気になる生徒でもいるんですか?」
奏介が説明をしつつ、そう問う。すると、星先生は言いづらそうに上目遣い。
「先生の悩みも聞いてくれたりするのかなーって」
「聞きますよ。山瀬先生に頼まれたこともありますし」
星先生の動きが一瞬だけ止まる。
「……それって、どんな相談?」
「詳しいことはあまり言えませんけど、卒業生がちょっと厄介な事件に巻き込まれてしまってそれを心配してたみたいです」
星先生はだらだらと汗をかき始めた。
「へ、へぇ〜〜……」
「どうぞ、東坂委員長もすぐに戻ってくるので」
数分後。
奏介、わかば、東坂委員長は机を挟んで星先生と向かい合っていた。
「それで、先生、どういった相談ですか? 田野井さんに見てもらっているので、誰も入ってきませんから」
東坂委員長の微笑みに星先生は表情を固くする。
「いやぁ……あの……相談ていうのは先生自身のことなんだけど、良いかな?」
「星先生が困ってることがあるんですか?」
わかばが不思議そうに問う。
星先生はこくこくと頷く。それから、もじもじ。
「先生、友達いないから、聞いてもらいたくて」
「……まぁ、先生に何か悩みがあると授業に影響が出るかもしれませんしね」
奏介はそう言って、
「詳しく聞きますよ」
「あ、ありがと。……あのね、先生、最近お引っ越しをしたんだけど、前のお部屋に荷物がいくつか残ってて。早く移動させてほしいって言われてるんだけど、一人じゃ中々進まなくて。と、友達もいないし、だから風紀委員の悩み相談でなんとかしてくれないかなって……!」
奏介は口を半開きにして、東坂委員長とわかばを見る。
東坂委員長は困ったように笑って頬に手を当てる。
「良い引っ越し業者さんを紹介してほしい……ということでしょうかね?」
「何個か荷物が残ってるってことは、もう引っ越し終わってるんですよね? 業者さんに頼めなかったんですか?」
わかばが不思議そうに問う。
「うう。もちろん頼んだんだけど、どうしても頼めないものがあって、それが残っちゃってるんだよね」
「引っ越し業者さんに頼めないものなんかあるんですか?」
奏介が言う。どんな物も鮮やかな手際で運び出しているイメージがある。マンションなので、引っ越し業者が出入りしているのはよく見るのだ。
「先生ね、大っ好きなゲームがあって」
突然の趣味暴露だった。
「ゲーム、ですか」
戸惑う奏介に頷く星先生。
「ゲームのキャラ達の抱きまくらがあるのね。それを集めてるの。ちょっと際どい絵がプリントされてるのもあるから、どうしても頼めなくて。恥ずかしすぎてっ」
目をギュッと閉じる星先生。
奏介は少し考えて、
「なら、抱きまくらにプリントされた絵が見えないように自分で梱包して、それを運んでもらうのはどうですか? 中身抱きまくらですって言えば分かってくれると思いますよ」
星先生はぽかんとした。
「あ……! そっか。自分で包めば良いんだ。き、気づかなかった」
簡単なことなのに、目の前のことしか見えずに柔軟な考え方が出来ないというのは誰にでもあることだ。
「解決……しそうなら良いですけど」
「うん。梱包すれば抱えて外歩いてもおかしくないもんね! それなら自分の車で運べるかも」
単純に抱きまくらにプリントされた絵を見られるのが恥ずかしかったということなのだろう。
東坂委員長もわかばもホッとしたようだ。
「ありがとー。さすが風紀委員だね! 噂の菅谷君のアドバイスが的確」
「いや、本当にたまたまですから」
わかばが複雑そうな顔をする。
「菅谷のアドバイスで解決した例って少ないわよね」
「まぁ、菅谷君へのいつもの相談が相談ですからね」
東坂委員長も苦笑気味である。
「あ、この流れで悪いんだけど、運ぶのを手伝ってもらえたりしない、かな? 梱包は自分でやるから、車に運ぶのと降ろすのを」
「え、そんなに重いんですか?」
「ううん。抱きまくら、全部で20個あるんだよね」
恥ずかしそうに言う彼女だが、風紀委員室にはちょっとした衝撃が走った。
分かりやすい授業をすると定評がある新任教師は『ちょっと変わった人』なのかもしれない。
○○
週末。
奏介、わかば、東坂委員長、そして田野井は星先生の住むマンションにいた。朝から集まって、梱包された抱きまくらを運んで車に乗せ、新居へと運んだ。そこまでやって、正午過ぎ。
「先生、ここで良いですか?」
とあるマンションの一室。リビングの壁に最後の抱きまくらを立てかけた奏介は振り返って星先生に声をかけた。綺麗な部屋なのだが、今は運び込まれた抱きまくらがあちこちに立てかけられたり、転がっていたりしているので中々不思議な光景である。
「うん。ありがと。向こうの管理人さんとも話ついたし、これでやっと終わり!」
わかばは苦笑を浮かべる。
「予想以上に運ぶのが大変だったわね」
「確かに、これは一人だと大変そうですね。まさかこの人数で丁度良いとは思いませんでした」
「オレも抱きまくらをなめてましたよ」
東坂委員長と田野井も少し疲れた様子だ。
「風紀委員会の噂はもちろん聞いていたけど、評判通りだね! 助かっちゃった」
風紀委員会の活動ということで、全員制服姿。この4人で手伝うことになったのだ。
「そうだ、出前でも取ろうか? お昼食べて行ってよ」
そう聞いてきたものの、返答する前にピザやお寿司など、手際よくスマホで注文をしたようだった。断る理由もないので、ごちそうになろうということに。
出前が来るまでに、飲み物を調達することになり、マンションの1階の自販機まで行くことになった。奏介とわかばは玄関のドアを開けて廊下へと出た。
「エレベーターホールの左にあるから、すぐ分かると思うよ。迷っちゃったら電話してね」
玄関までついてきた星先生が言う。
「分かりました。近くにコンビニありましたけど、買い出しがあれば引き受けますよ」
奏介の提案に、
「ああ、真横にあったわよね。すっごい便利そう」
わかばが言う。
「学校帰りに、その度に立ち寄ってお金使いそうだけどな」
「それはやりそう。あるあるね」
そんなやり取りをしていると、
「うーん……隆史クンが」
「たかし?」
「あー、いや。お気に入りの抱きまくらの隆史クンがちょっとかび臭かったから、消臭剤をと思ったんだけど、コンビニじゃないほうが良いかなー」
ホームセンターかドラッグストアで購入したほうが良さそうである。
と、その時だった。
「ねぇ、最近引っ越してきたのってあんた?」
振り返ると、エレベーターからこちらへ歩いてくる女性が1人。
ムスッとした表情で、あまり好意的ではない雰囲気。化粧バッチリで若い。ギャル系である。
星先生は廊下へと出て、奏介とわかばの前に立った。
「はい、星と申します。こちらのマンションの方でしょうか?」
星先生の前に立ったのはロングヘアでまつ毛バサバサメイクの女性である。
星先生の愛想笑いに対し、いきなり、
「あぐっ!?」
平手打ちをかましたのだ。星先生は成すすべもなく横へ崩れ落ちた。
「!?」
奏介もわかばもあまりの事態に固まる。
「せ、先生っ」
奏介が叫んだ。
「うそ、大丈夫!?」
わかば、おろおろ。
その音を聞きつけて、部屋から東坂委員長と田野井も出てきた。
「どうしたんですか!?」
「なっ、星先生?」
床に倒れ込んでいる先生の姿に田野井が顔を引きつらせる。
「何、この高校生達。ああ、そうか。高校生相手にそーいうことしてんだ? 見境がない淫乱女って怖いわ」
奏介は彼女を睨みつけた。
「なんなんですか? いきなり人を」
「キモい不倫女はぶっ叩かないと分からないでしょ」
「不倫? なんの」
と、星先生が奏介の腕を掴んで体を起こした。
「す、菅谷君。橋間さん達と部屋に戻って鍵掛けなさい。警察に通報して」
「なら先生も」
「膝打っちゃったから立てなさそうなの。危ないから早く。警察が来るまで時間稼ぐから」
「……っ」
見ると、星先生の唇は端のほうが切れていて、頬は真っ赤に腫れていた。目が赤いのは今の衝撃だろうか。
さすがに彼女を置いて、部屋へは逃げられない。
「退きなよ。そいつに話があるんだからさ」
奏介はわかば達に目配せをした。それから、
「話す前に手を出しといて、今更なんなんですか。星せ……この人があなたに何かしたんですか?」
「あたしの旦那と隠れてよろしくヤってんのよ。気持ち悪すぎでしょ。バレないと思ってるんだろうけどさぁ、こっちはすぐわかんのっ」
奏介は眉を寄せる。
「それが嘘でも本当でも、暴力は」
と、そこで管理人と警備員が駆けつけてくれた。どうやら、修羅場になりつつあったこの状況を通報してくれた住人がいたようだ。さらに、わかば達
が呼んだ警察も到着し、この場は収まったのだが。
○
3日後。
星先生は膝と頭を強く打っており、大事をとって入院することになった。学校帰りに4人でお見舞いに行くと、思ったよりも元気そうで、
「明日、退院出来ることになったの。ごめんね、心配かけて」
ベッドで上体を起こして微笑む星先生は、とても不倫しているようには見えない。
1人用の個室に入院しているようだ。
「検査は問題なかったんですか?」
田野井が真剣な表情で問う。
「うん。脳波とかそういうのも異常ないって」
「目が……腫れてますよね」
東坂委員長が心配そうに言う。
「勢いついてたから、傷がついたみたいね」
「明後日から復職って聞いたんですけど」
わかばの問いに、頷く星先生。
「もう元気だからね〜」
と、田野井が奏介のそばに立った。
「聞くのか?」
「聞……かなくても良さそうではありますよね」
今回の騒動の発端、『不倫女』というワード。危害を加えてきた女性は星先生をそう表現していたが。
「あまり触れないほうが良さそうだが」
田野井も複雑そうに言う。
「俺もそう思ってます」
しかし、
「あ、そうだ。あたしを殴ってきた人なんだけどね」
4人に緊張が走った。
「間違いだったみたい」
困ったように笑みを浮かべる星先生はやはり複雑そうだ。
「不倫とか言ってるからそうだとは思ったんだけど、あたしが旦那さんと挨拶をしてるのを見て勘違いしたみたい」
「そ、それにしたって酷いですよ!?」
わかばが声を荒げる。
「謝罪には来られたんですか?」
東坂委員長も問う。
「ああ、実はこれから」
と、病室のドアが開いた。
「星さん、失礼します」
申し訳無さそうに入室してきたのは眼鏡の男性、そして後ろからついてきたのは仏頂面のギャル系の女性。見間違いなく、あの時平手打ちをした女性だ。
「この度は申し訳ありません。うちの妻が」
深々と頭を下げる。
「あ、新野さん。いや……間違いは誰にでもありますし」
「僕が不倫をしてるなんて、思い込んで人様に迷惑かけて」
「はぁ? あんたが紛らわしい動きするからじゃん」
ギャル女性が眼鏡男性を睨む。
「引っ越してきた人に挨拶をするのは当然だし、親切にするのは悪いことじゃないだろ。それだけで星さんと不倫してるだなんて、彼女にも失礼だよ。ほら、謝って」
ギャル女性が前に出て、星先生と向かい合った。腕を組む。
「あの、こちらも旦那さんに馴れ馴れしくゴミ捨て場の場所とか聞いてしまっていたので、誤解させて申し訳ありません」
女性、舌打ち。
「そうそう、全部あんたが悪い。人の旦那に声かけてさ、あわよくばとか思ったんでしょ? 見え見えなのよ」
星先生の表情が固まる。
「お、おい! 何を」
「良い? 今後一切うちの旦那に関わってこないで」
星先生はあまりの言われように口をパクパクさせている。
奏介は、むっとして、
「新野さん、でしたっけ」
「ん?」
奏介、笑顔。
「人を殴っといて偉そうにすんなよ。旦那さんが不倫してる? してねぇじゃん。その年でボケてるんじゃないですか?」
ぽかんした新野妻は一瞬で顔を真っ赤にした。
煽り耐性なしである。




