いじめを止めに入ったら女子小学生に叫ばれたので反撃してみた
ザクッと頭の上の方で嫌な音がした。
はっとして振り返ると、数人のクラスメートが立っていて、ニヤニヤと笑っていた。最近、天家あまねはクラスの女子グループに目をつけられ、一人でいるところをいじめられることが多くなってきた。
見ると、リーダー的存在の宇都良エルマの手に、長い黒髪が握られていた。もう一方の手にはハサミ。直感的に頭に手をやる。
一部の髪がショートボブより短くなっいて、頭皮とザラザラする部分に指が当たった。
「あ……」
信じられない。見ていないが、美容師に整えてもらったとしても、外を歩けるようになるだろうか。
「ギャハハっ泣いてるー」
「うけるー」
スマホのシャッター音が響く。
「な、何を」
声がかすれる。小学校に上がってから4年間、ずっと伸ばしていたのに。
「その髪、長くてうざいって思ってたんだよねー。この際だから、短くして上げるわよ」
「へ……?」
眼の前のクラスメート達が化け物に見えた。信じられない。
あまねはあまりの恐怖でその場に座り込んだ。
「動かないでね〜」
押さえつけられる。
「嫌だっやめてっ」
怖い、怖い、怖い。
ザクザクと音がし始める。
と、誰かがクラスメート達の輪に入り込んできた。
見ると、エルマのハサミを持つ手を掴んでいたのは制服姿の男子高校生だった。奏介である。
「あー? 何、この変態。触らないでよ」
「今警察呼んだからここで待ってろよ」
「……はぁ?」
「ねぇ、変質者じゃん、通報しちゃおうよ!」
「心配しなくても今来るから安心しろ。ハサミ持った女子小学生が暴れてるってお巡りさんに言ったからさ」
と、その時。
「きゃーーーー! 変態ー、助けてー!」
大声を聞きつけた通行人が数人駆け込んでくる。
「お前、そこでなにしてるんだ!」
正義感溢れるサラリーマンが詰め寄ってくる。
「お兄さん、この人がエルマちゃんの手を掴んで乱暴を」
「っ! 今、警察に突き出してやるからな」
「俺が呼んだので今来ますよ」
奏介は冷めた目で言う。
「は?」
「110番はしました。今来ますよ」
スマホを取り出していた会社員らしき女性が訝しげにこちらを見てくる。
「言い逃れは出来ないぞ、そ、その手を離せ」
と、サラリーマンが言う。
「ハサミ持ってるし、危ないから嫌です」
と、制服警官が3名到着。
「お巡りさん! こいつが小学生にイタズラをしてて」
「そう、腕を掴んでるんです」
サラリーマンと会社員女性が言う。
「お巡りさん、助けて!」
「エルマちゃんが襲われてるの」
警官困惑。
「我々はハサミを持った小学生が暴れてると」
奏介は手をあげた。
「通報したの、俺です。この女の子がハサミを持ってそこに座り込んでる子の髪を切って乱暴してたので、通報しました。これが証拠の動画です。悲鳴が聞こえてからカメラ回したので、途中からですが」
奏介がスマホの画面を見せると、警官達の表情が固くなっていく。
「君、とりあえずハサミをおじさんに貸してもらえるかな?」
そこでようやく、エルマがビクッと怯えた表情になった。警官達の態度が明らかに変わったのだ。
「……!」
「……ね」
「うん、早く」
奏介はこっそり逃げようとしている女子小学生達へ視線を向けた。
「どこ行くんだ、お前ら。俺に通り魔変態の罪着せたいんだろ? お巡りさんに頑張って説明しろよ」
一気に駆け出した。奏介の煽りを無視して、角を曲がって消えていってしまった。
奏介はため息を1つ。
「何あれ? エルマちゃんのお友達じゃないんだな」
ハサミを、取り上げられて警官に囲まれているエルマに言う。ぶるぶると震えていた。
奏介はあまねの前にしゃがむ。
「もう大丈夫だよ。……あの子にやられたんだよね? 勝手に髪を切られて」
奏介がエルマを指でさす。
呆然としていたあまねは口をパクパクさせた後、手で両目を拭う。
「うん……うん……。怖かった。怖かったぁ」
大声で泣き出してしまった。
「って、ことみたいです」
警官達は頷き合い、
「阿部、その子は後から連れてこい。先に交番へ行ってるから」
「はい、分かりました」
2人の警官は無言になったエルマを促しながら、連れて行った。
残ったのは若い警官である。
「後、よろしくお願いします」
「ああ、ありがとう」
立ち上がると、状況を見守っていたサラリーマンと女性会社員が歩み寄ってきた。
「あー、その。勘違いだったみたいだ。申し訳なかった」
「ごめんなさい。わたしも」
奏介は笑顔を向けた。
「いえ、あの状況なら仕方ないですよ。言い方悪いですけど、今の社会的に、男性が小学生の女の子に近づくと大事ですからね」
「いやもう……その通りだな」
「否定出来ないわよね」
肩を落とす2人。
「でも、駆けつけてくれてありがとうございました。こんなことは稀なので、もし困ってる人がいたら、今後も助けてあげてほしいです」
最後に会釈をして、彼らは去って行った。
「君も、一緒に来てもらえるかな? 調書を取らせてほしいんだ」
「あ、はい。分かりました」
若い警官と、気絶するように寝てしまったあまねを背負って交番へ向かうことに。
(あ、そうだ)
奏介はスマホを開いた。
(調べて、逃げた奴らの情報でも晒してやるか)
小学生とは言え、いじめをやったことに変わりはないのだ。
(いじめっ子の芽は摘んでおかないとな)
相手が女子小学生だったとしても、いじめだからでは済まされないことを叩きこんでおくべきだ。
通行人を呼ばれた時の対処方法※奏介流




