仲良くしていたのに裏切っていじめっ子側についた元同級生に反抗してみた5
とある人目につかない路地裏。堅野は一人タバコをふかしていた。
煙を吐き出し、舌打ちをする。
「バカはバカ、のろまはのろまだな」
ニュースになった奏介の件、脱出できずに山にいるらしい。
「あーあ。うぜぇ」
「何がうざいんだ?」
声のした方へ視線を向ける。
奏介が立っていた。堅野は鼻で笑う。
「なんだ、生きてんじゃん」
「悪びれもしないんだな、クズ」
どうやらまた強気モードらしい。堅野はタバコを放って足で潰した。
「またイキってんのかよ。どーせ、閉じこめられたとか騒いで、警察味方につけようってんだろ? 海堂達に聞いてんぜ?」
「つけようって言うか、もうつけてるよ。今更見破ったみたいな言い方されてもな」
奏介は肩をすくめる。
「てかさぁ、自作自演はまずいんじゃね? どうせ仲間に言ってあんだろ? そんで、わざと閉じ込められてた、と」
「」
奏介は黙る。
「オレらを怒らせて、そう仕向けてさ。やってること、ワンパターンじゃね? オレらの間で情報共有してっからさ。お前の手口丸わかりなんだよ」
「その手口に引っかかって、さらに皆で情報共有しないと行けないって、ヤバくない?」
奏介は鼻を鳴らし、
「石田、南条、丸美、野月、海堂、津屋、土原、納谷、上嶺あと土岐せんせー。他にもいたっけ? 忘れたけど。煽ってハメて、警察に逮捕される。お前らさぁ、ここまでやられて頭悪すぎじゃない? 今気づいたの?」
これでもかと馬鹿にされ、さすがの堅野も肩を震わせた。
「……調子に乗りやがって」
「ここまで上手く行くと、調子にも乗るだろ? 情報共有してる奴らって何人いるの? 皆合わせて、俺一人の脳みそ以下だな」
「っ……!」
「そんなに悔しいなら殴れば? スッキリするなら、やれば良くない? 今後のことを考えると、その選択はとんでもなく頭悪いけどな」
ここで彼を暴行すれば、スッキリはするだろう。しかし、今の状況でそれをすれば他の同級生と同じように警察の厄介になる可能性がある。
「もう何も言えないのか?」
堅野は口元を歪めた。
「はは。ここまで分かっててオレらが何も対策せずに来たと思ってんのがお花畑だな」
と、人の気配がした。細い路地から2つの影。
「本性現したわね」
「今の発言、ばっちり録音させてもらったから」
佐野と加納、同窓会にて、奏介に楯突いてきた女子2人組だった。手にはスマホ。画面にはタイマー表示と『REC』の文字が。
ピッと音がする。
『石田、南条、丸美、野月、海堂、津屋、土原、納谷、上嶺あと土岐せんせー。他にもいたっけ? 忘れたけど。煽ってハメて、警察に逮捕される。お前らさぁ、ここまでやられて頭悪すぎじゃない? 今気づいたの?』
佐野と加納は得意気に笑う。
「今までの悪事、警察に言えば形勢逆転じゃない?」
「あんたさぁ、他の皆ハメるために普通に犯罪犯してるよね?」
「人をロッカーに閉じ込めて笑いものにして、1日放置した奴らには言われたくないな。何ドヤ顔してんの? エグいいじめしといて、仕返しされて、それに対してキレるって本当に頭おかしいと思うわ。録音ね、はいはい。俺の二番煎じしか出来ないんだな。俺がやった方法を真似して優位に立とうとしてんのが笑える。俺の真似して楽しいか?」
「っ……!」
佐野達はギリリと唇を噛み締める。
「まぁ、お前らって殴ることと、馬鹿にすることと、罵ることしか出来ないしな。たまにはここ使えば?」
奏介は自分の頭をとんとんと叩く。
「んっとに口が回るわよね」
「マジでムカつくわ。これ、警察に届けるから」
「映画館で盗撮押し付けとか、万引き押し付けとかな。後、ネットに個人情報流すのもだめだろ。分かってんのか? は、ん、ざ、いなんだよ」
「ん? そんなことしてないけど。証拠でもあんの?」
3人は黙る。
「言いがかりつける前に、俺への拉致監禁容疑の心配したら? 防犯カメラに映ってたんだからさ」
「ねぇ、もうこいつの挑発に乗る必要ないっしょ。ただの時間稼ぎ」
「なんだ、佐野、分かってるじゃん」
「は?」
奏介の言葉に眉を寄せた佐野の手からすっとスマホが持ち上がった。
「な!?」
振り返った3人は目を見開く。
そこには真崎が立っていた。
「悪いな、ちょっと借りるぞ」
あっさりと奪った佐野のスマホを隣の詩音に渡す。水果も一緒だ。
「ええっと、ごめん。スマホオールリセット、するね」
「番号は1822だそうだよ」
水果が言って詩音が操作し、
「……へ?」
初期化したそれを佐野に戻す。
「録音したものはすぐにバックアップしないと意味がない、らしいわよ」
奏介の方を見ると、わかばが立っていた。
堅野は奏介を睨みつけた。
「やっぱり仲間かよ。卑怯者!!」
「お前らが3人がかりじゃなければ、俺も一人で対応しようと思ってたんだけどな」
と、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。堅野はギクリとする。
と、奏介のスマホに着信。
「もしもし」
『ボクだよ! どう? 暗証番号合ってた?』
ヒナの声である。
「ああ、成功したみたいだ」
『もうちょっとでお巡りさんが着くよ。見王刑事に報告しといたから、自宅を抜け出したことはちゃんと怒られてね?』
「それくらいは。助かった。ありがとな」
『君の復讐のためなら、多少はね?』
通話が切れた。そこで、佐野と加納が細い路地へ逃げ出すのが見えた。
「あ、お前らっ!」
「マジ無理だから」
「警察とか! あたしら何もしてないし」
堅野はばっちり裏切られたらしい。
後ろには真崎達、前には奏介達。そこへ警官が登場し、
「堅野さんですね? あなたを探していたんですよ。お話を聞かせて頂きたいので、署までご同行願えますか?」
「っ……!」
堅野の顔が青くなって行く。
穏やかな警官の口調とはうらはらに、堅野は取り囲まれてしまうのだった。
集まってくるメンバーに奏介は困ったような表情を見せた。
「皆、悪かったね。ありがとう」
「はぁ〜。まぁ、わたし達には作戦内容を全部教えてくれてたから今回は良かったけど」
と、詩音。
「ああ、まぁ」
「無茶するね。知らない人は心配してたんだ、後で謝ったほうが良いかもね」
水果。
「それは、うん。怒られる」
「言っただけ成長してるんじゃない?」
と、わかば。
「お前に成長とか言われるとざわつくな、なんか。まぁ、助かったけど」
「いや、なんでわたしに対してはそうなのよ!」
「元気そうだな、どうだ、上手くいったのか?」
真崎の問いに、奏介は頷いた。
「皆のおかげで」
「そうか」
と、ヒナとモモが手を振りながら走り寄ってくる。
「おーい、お疲れ〜」
彼女達には堅野と協力関係を結んでいた佐野と加納の監視をお願いしていた。暗証番号もその時に入手してもらったのだ。そして、後ろからは険しい顔の見王刑事が。
「菅谷君、怪我ない?」
心配そうなモモに奏介は頷いた。
「ああ、ありがとう」
そして、これから見王刑事の説教が始まる。
次回、堅野阿佐美のおまけ。
またしても逃げた佐野と加納……




