迷惑動画を拡散した人物と苗字が同じだけの無関係な中学生を叩き始める人々に反抗してみた2
「ああん? 何が警察呼ぶだよ。このガキが。あの動画のせいでうちの経営会社はとんでもない損害被ってんだよ。火のない所に煙は立たない、そこの中坊の顔がネットに広がってんのはそういうことだろ」
「火のない所も何も、苗字がたまたま同じだから煙が出てるんでしょ。ていうか、もう犯人捕まってるのに、その辺の一般人捕まえて、土下座しろとかあんまりでしょ。親戚云々よりも、本人がやったかどうかなんですよ。わかります? 彼はやってねーっつってんの」
すると、店員は深い溜息。
「あーはいはい。マジになられると、ウザいわ」
「マジな顔して、何にもしてない中学生をいじめてた大人が何に呆れてるんだか。小学生かよ」
店員は、表情を歪めた。それから、舌打ち。
「もう良いわ。あのさ、これ動画の企画なんだわ」
「……企画?」
奏介が眉を寄せる。
「自分ヒーローになれそ〜、庇ってやろ〜ってノリだろ? そういうの、ダルいって。ヤラセ系ドッキリなんだよ」
奏介は目を細めて振り返る。
「って言ってるけど、そうなの? 本当にそうなら、謝るけど」
そう問われた誠は慌てて首を横に振る。
「し、知らないです。そんなの」
すると、店員にギロリと睨まれた。
びくっと肩を揺らす。自分の言い分に合わせろとでも言うのだろうか。
「はぁ〜。ドッキリのターゲットに仕掛けを言うわけないじゃん? おーい、井登ー」
と、人混みの中から中学生と大学生らしき若い男が出てきた。
「あはは、何やってんの?」
大学生くらいの男がおかしそうに声をかけてくる。
誠は目を見開いた。一緒にいる中学生には見覚えがある。
「井澄……君……」
部活の同級生である。この店を教えてくれたのが彼であり、ここへ来るきっかけになった。
「トロいなぁ、早瀬は。さっさと土下座しちゃえばよかったのに」
ニヤニヤと笑う彼はとても邪悪な表情に満ちていた。
そこで気づいた。普段はあまり話さない彼が偶然帰り道で一緒になり、少し馴れ馴れしく話しかけてきたのだ。もしかしなくても、誘導されていたのだろう。今出てきた彼らは兄弟で、店員は友人ということなのだろう。
「ほらな、こういうことだ」
店員ドヤ顔。
井澄兄がニコニコしながら、
「迷惑高校生の親戚に間違われて怒られたらどうするのか? 土下座してネタばらししたら、お詫びの肉まん5個プレゼント! それが筋書きだったんだ」
「あんたが出しゃばってきたから、これ動画に出来なくなったんだけど。どーしてくれるんスか?」
井澄弟が気持ちの悪い笑みを浮かべながらいう。
「……」
奏介はジト目で3人を見る。
「言い分が苦しいですね。つまり、ユー○ューバーってやつですよね? 動画の企画でこんな下らないことしないでしょ。本当に動画投稿なんかしてるんですか?」
これには井澄兄がカチンと頭に来たようだ。中心人物は彼か。
「あのさぁ、もしかしてその辺の底辺と一緒にしてる? オレら登録者、50万人の『イースちゃんねる』だから」
ドヤ顔で動画サイトのチャンネル登録ページを見せてくる。
奏介はポケットの中でスマホへ手を伸ばした。
「へぇ。それはそれとして、ネットに顔写真晒してるのに、ドッキリで済まないでしょ。無実の人を間違った、しかも悪い情報と一緒にネットにながしたんだから。彼の生活に影響が出たら、肉まん5個で許されないですよ」
「分かんねぇガキだな。ドッキリでなんだから、ネタバラシっつーのがあんだよ」
店員がイライラしたように言う。
「うちのチャンネルでドッキリでした、と情報を発信すれば一発で解決するんだよ」
井澄兄がバカにしたように肩をすくめる。
「それは、ドッキリ仕掛けた側の感覚でしょ。仕掛けられた側からしたら、ネタバラシがあるまで、色んな人から犯罪者扱いされるんですが? この子達の顔見てくださいよ。あなたに本気で暴言吐かれてると思って震えてるじゃないですか。ていうか、人に嫌な思いをさせるドッキリは、ただのイジメですね。見て楽しいのはやってる側だけ。……だろ? 怖かったんだろ?」
奏介が誠に問うと、青い顔でこくりと頷いた。妹のルコはというと、誠の服を掴んで震えていた。
「ほら、イジメでしょ。イジメチャンネル、イジメ系ユーチュ○ーバーですね。いや、ほんと最低最悪」
「良い加減にしなよ、君」
にっこりと笑う井澄兄。
「きちんと謝罪はするつもりだったし、交渉によっては出演料を払うのもやぶさかではなかった。ドッキリ番組と同じだよ」
「謝罪? 土下座させるつもりだったんでしたっけ。なら、あなた達はパンツ1枚で土下座して額を床に擦りつけて、謝罪の言葉を叫ぶくらいしないと釣り合わないですよね。ネットに悪い噂流してるし。それくらいやって、笑いをとって終わり。まぁ、ありでしょうけど、どうせ、出来ないでしょうね」
と、シャッター音がした。井澄兄がスマホを構えていた。
「言ったよね、オレ達のチャンネル50万人も登録者いるんだよ。とりあえずさ、君がヤバイ奴だってネットに流して上げるよ。突然難癖つけて暴言吐いて、このままで済むと思わないほうが良いよ」
「早瀬、お前も同罪だから。こういうことに部外者呼びやがって」
井澄弟が誠を睨みつける。
「え……」
心底恐ろしかった。一方的に巻きこんで、さらに逆恨みである。
「このままで済まない? へぇ、一体何をするつもりなのか知りませんが、結局イジメチャンネルになりましたね。ドッキリですらないじゃないですか」
「言っておくけど、ただのドッキリに割り込んで、攻撃してきたのはそっちだからさ。正当防衛だよ」
「こう見えてこいつ、容赦ねぇんだぜ?」
店員が加勢。随分と自信があるようだ。
「容赦ない? へぇ、そうですか」
と、井澄兄がスマホのお知らせ着信音に画面を見た。
「え……」
「兄貴?」
「井澄?」
「……BANされた……」
次回、続きますがタイトルが変わります!




