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大学サークルの飲み会の支払いを気弱な部員に押しつけていたカップルに反抗してみた2

 通話の切れたスマホを見つめ、数秒固まる。

「なんだよ、どうしたんだよ」

 土澤は顔を引きつらせた。

「いや、なんかさ……店へ戻ってこいってガチトーンで言われたんだけど」

「相手、あの陰キャオタク?」

「う、うん」

「何ビビってんだよ。そんなん、無視無視」

「だ、だよね。はぁー、忘れて帰ろっと」

 安曇ユイミと同類の人種に、これ以上何か言われるわけがない。そう思っていたのだ。



 2時間後。

 居酒屋の前にて。

 奏介はスマホの時計を見、次に周辺を見回した。

「……戻ってきませんでしたね」

 ユイミが申し訳無さそうに言う。

「まぁ、予想通りだよね。どうする? 音声とか録画をネットに流す?」

 駆けつけていたヒナが問うてくる。

「極悪大学サークルとかタイトルつければ一瞬で燃えそうだよな。金の問題だし」

 真崎が言う。

 ちなみに時間も遅いので、他の女子メンバーは先に帰ってもらったところだ。

「僧院、ネットは少し待ってくれる?」

「おっけー」

「他に何かするのか? 主犯の奴らに」

 真崎の問いに首を振る奏介。

「ちょっとね。僧院、データはとりあえず預かってて」

「わかった。ボクのパソコンに保存しとくね! 悪いやつが得をしないように、君なら上手くやるって信じてるよ?」

「僧院は本当に菅谷への信頼あついよな」

 真崎、苦笑。

「一番弟子だからね!」

「いや……初耳……」

 いつの間にそんなことに? ふと見ると、ユイミが微笑ましそうにこちらを見ていた。そして、

「お願いします、菅谷様」

「はい」

 奏介は頷いた。





 川村龍人かわむらたつと江頭風弥えがしらふうやは大学帰りにカラオケとボウリングに行き、いい気分で駅に向かっていた。

「でさぁ、また無料飲み飲み会やろうって話になってー」

「えぇ? それ大丈夫なん? その子何も言わないわけ?」

「言えない 言えない。気弱で真面目すぎてつまんない女だし、演劇への温度差ヤバいんだよな。そんな真剣にやりたいなら、劇団に行けっての。うちはゆる~く楽しくやるのがモットーなのにさぁ」

「あぁ、まぁ。いるよな、そういう人」

 肯定したものの、江頭は釈然としないようで複雑そうだ。

 と、その時。

「演劇サークルの川村龍人さんですよね?」

 目の前に、少年が立った。話題に出していたこともあり、先日の飲み会で飛び入り参加していた彼だ。

 ギクリとした。あの日、支払いを押しつけるつもりで安曇ユイミと共に置き去りにした。

「……そーだけど、なんだお前?」

 少年、もとい奏介は腕組みをした。

「食い逃げしといて、お前はないんじゃないですか?」

「は? 食い逃げ? 人聞きの悪いこと」

 奏介は歩み寄ってきて、川村の目の前に紙をかざした。

「全部合わせて29万です。これ、領収書。今なら、立て替えってことにしてあげますから、払って下さいよ。俺と安曇さんの分を抜いた、27万円」

 川村は顔を引きつらせた。

「に、27万て、オレはそんな飲んでねぇし! てか、なんで全員分オレが払わなきゃならねぇんだよ!」

「自分の分も払ってないのによく文句言えますね。まずは自分のご飯代でしょ? まぁそれはそれとして、聞いてますよ。安曇さんに支払いを押し付けようって言い出したのは川村さんなんでしょ? よくもまぁ、そんな卑劣なこと思いつけますよね。最低ですよ」

 江頭が目を瞬かせた。

「な、何。川村が主犯格なん?」

「ち、違うっ! オレは周りの奴らに流されただけで、言い出してなんかねぇ!」

「惚けても無駄ですよ。五宝さんも言ってましたし」

「!? ご、五宝……?」

 そこでようやく繋がった。川村の感覚的に、言い出したのは五宝と土澤だ。安曇も分かっているはずだから、支払い押し付けに激怒した部外者の彼が五宝と土澤に詰め寄り、責任逃れをするために自分の名前を売ったのだろう。

(ふざけんなよっ!?)

 目の前の彼は冷静ながらも怒り心頭のようで、こちらを睨みつけてくる。

「違うっての! 安曇に払わせようとか言い出したのは五宝と土澤だ!」

 奏介は眉を寄せる。

「いや、だから五宝さんは川村さんだと言ってましたよ? よく食い逃げするし、あいつはクズだって力説してました。他にも何人か」

「なん、だと……!?」

 もしかしなくともハメられそうになっている? しかも、証言者は複数いるなんて。

 と、完全に傍観者である江頭が奏介と川村を見比べ、

「なんか知らんけど、君騙されてるかもな」

「え、江頭!」

 どうやら、小学生以来の親友が弁護してくれるらしい。

「騙されてるって、俺がですか?」

「こいつ、テストで0点取ったことある程アホだけど、いじめの主犯やるような度胸ないから」

「そ、そうだ。10万越えの支払い押しつける勇気なんかねぇ!!」

 江頭は呆れ顔だが、何も言わないでくれた。

「……なるほど。じゃあ、逆に五宝さんがやろうと言ったってことですか?」

「そ、そうだ! 前の時も言い出したのはあいつなんだ」

 この場がシンとなる。

 奏介は少し考えて、

「分かりました。もう一度聞いてみます。確認もせずに責めてすみませんでした。こちらも大きな金額だったので頭に来てまして」

「お、おう。騙されてたなら仕方ねぇよ!」

「てか、その金額ヤバイな。川村、もうこの場で自分の分を払っとけば? 謝ってさ。どう考えてもお前も悪いだろ。犯罪だし」

「そ、そうだな! 確か会費1万円だっけ」

 財布から1万円札を取り出した。深々とお辞儀。

「本当に悪かった!」

「言い出したわけではないとはいえ、次からは気をつけて下さい?」

 1万円札を受け取った奏介は、すぐに去って行った。

 その背中を見つめながら、川村はその場に座り込む。

「うぐ〜、肝が冷えた〜。助かったぜ、江頭」

「いや、反省しろよバカ野郎。調子乗るな」

「……はい」





 能済のうずみカズホと手堀てぼりアユハはいきなり現れた少年、奏介に詰め寄られていた。

「だ、だから土澤がやろうって言い出したのがきっかけで」

「その土澤さんは、能済さんと手掘さんが皆に呼びかけていたと言ってましたけど? 人に押し付けるのは良くないと思いますよ。普段から安曇さんの悪口言いまくってたらしいじゃないですか。土澤さんはあなた方に強制されて仕方なくやったと言ってましたし」

 能済と手掘は顔を見合わせた。

「え、土澤ちゃんもしかして」

「あたし達に押し付け」

 すーっと胸の奥が冷えていく感覚。

「それに、他のメンバーの方もあなた達の名前出してましたしね。とにかく、26万払って下さいよ」

「なんであたしら? 全員分払わなきゃなんないなんて聞いてないし!」

「それはこっちのセリフなんですよ。一本5万のワイン空けといて惚けようなんて」

「はぁ!? そんなの飲んでない!」

「いや、だから、土澤さんが飲んだって証言してるんですよ」

「もう行こっ。マジしつこい。支払いとか知らないし」

 逃げるように、能済達は去って行った。


 奏介はその背を見送りながら、笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
これ俺が江頭君の立場なら、川村君に謝罪させて一万円払わせた後にキレながらシバキますね。お前アホちゃうか?飲み会の代金一人に押し付けるとか何考えとんねん!!お前も共犯や!!って。
[一言] 江頭くんに救われたねぇ 命運が別れたのは「分別のある友人」だったか
[一言] 江頭という友人がいた川村は首の皮がつながり、能済と手掘は周りにまともな友人がいないがために責務放棄……首が締まったなー…
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