大学サークルの飲み会の支払いを気弱な部員に押しつけていたカップルに反抗してみた1
土岐afterは書くのに時間がかかるので、通常話挟みます!
とある日の昼休み。
風紀委員会議室にていつものメンバーで集まっていた。
「また明日に相談? 大人気だねー」
弁当を突きながら、詩音が感心したように言う。水果も肯定するように、
「演劇部では大好評さ。櫛野先輩が布教してるからね」
「頼もうかなって言ってる先輩もいたから、勧めておいたわ」
モモが力強くギュッと拳を握りしめる。
「あぁ、うーん。トラブルの多さに危機を覚えるけどね」
奏介がぼやくように言う。
「まぁ、解決率96%って割とすごいわよね」
わかばが他人事のように言う。
「えぇ!? 菅谷君失敗したことあるの? 何、その4%!?」
ヒナ、驚愕の表情。
「それはあるって。なんで驚くんだよ、僧院」
「へぇ、気になるな。どんな相談だ?」
真崎が興味深げに問いかけてくる。
「んー、1つは彼氏を取られたから、取った相手の女の子をどうにかしたい、文句を言いたいって相談だったんだけど、彼氏さんはそもそも相談者と付き合ってなくて、今の彼女と半年以上付き合ってるって分かったんだ」
「妄想系のストーカーだったってオチよ。思い通りにならなくて、めっちゃキレてたわよね」
わかばがため息混じりに説明する。
「うっわー……それは確かに奏ちゃんでもどうしようもないね」
「でも菅谷、その場はどうやって収めたんだい?」
「……怒ってた、のよね?」
水果とモモが聞いてくる。
「仕方ないから、その彼氏さんに真正面からしっかり断ってもらった。『今の彼女が好きだから、君を好きになれない。もうつきまとうのはやめてほしい』って言ったんだ。結構ダメージが入ってたから、しばらくは大丈夫だと思う」
「その彼氏さん、やるね! 菅谷くんが提案したとしても、ちゃんと言ったんだ」
ヒナが親指を立てる。
「それだけ今の彼女が大切ってことか。って、それ失敗なのか?」
真崎が不思議そうにするが、相談者に役立たずと言われたので、失敗にカウントしている。
「まぁ。……なるべく失敗しないように頑張るよ」
と、ヒナが挙手した。
「良かったら今日、皆でボクの家に来ない? メイドさんがお菓子作ってるらしいんだ。今日、僧院家の本家分家親戚で働く使用人達さんの研修会をうちでやってるから」
「何それ……」
わかばが呟く。
「ひーちゃんてほんとお嬢様だよね……」
詩音の戸惑いに、
「自分で言うのもあれだけど、そうだよ!」
ヒナはぐっと親指を立てた。
「それでどう?」
女子メンバーは全員参加のようだ。
「針ヶ谷くんは?」
「ああ、良いぞ。特に予定もないしな」
「じゃあ、菅谷君も行くってことで良いよね?」
「俺が行くことは決定?」
奏介が苦笑を浮かべる。
「せっかく全員揃うし行くでしょ? 本音を言うと、うちのメイドさんの話を聞いてあげてほしいんだよね」
どうやら、遠回しの相談だったようだ。話の流れ的に唐突だとは思っていたが。
「わかった。そういうことなら」
ヒナにはよく手伝ってもらっているので、借りを返すのは良い機会だ。
放課後の予定は決まった。
○
放課後。
7人でぞろぞろと歩いていると、横に長めの黒いリムジンがすっと止まった。
「ん?」
奏介は目を瞬かせる。
と、助手席から、スーツ姿の初老の男性が下りてきた。
「皆様、お初にお目にかかります。僧院家執事の鈴野と申します」
深々とお辞儀。
「お嬢様、遅れてしまい申し訳ございませんでした」
当たり前だが、ヒナに向けて言っているようだ。
「いや、鈴野さん、お迎えは良いって言ったのに」
「いらっしゃるご友人様が多いと聞きましたので、10人乗りを手配致しました」
「も〜。まぁ、でもありがとね。皆、せっかく用意してくれたから乗ってよ」
「おお、凄いな。初めて見た」
真崎が感心したように言う。
「な、長い」
詩音驚愕。
「市塚のお父様も似たような車に乗ってるけど、こんなに長くはないわ」
モモも珍しげに見ている。
中は広く、座席はふわふわ。エンジン音も静かで、乗り心地も最高だった。
さすがとしか言いようがない。
○
僧院家に着くと、客間に通された。丸テーブルに椅子が7脚。それぞれ座ると、すぐに切り分けられたケーキが運ばれてきた。異様にメイドさんが多いのは研修会で集まっていたせいなのだろう。
それぞれいちごショートケーキの皿と紅茶が目の前に置かれたので、皆ヒナへ視線を向ける。
「遠慮せずに食べてね! チョコケーキとかチーズケーキもあるらしいから」
屋敷内に甘い匂いが漂っているので、大量に焼いたのだろう。
「……お店で売ってるケーキと変わらないわね」
わかばが唸る。
「お菓子作りの調理研修まであるなんて、本格的なんだね」
水果が言う。
「メイドさんの育成に力を入れてるのは、うちではないけどね。今日の会場はたまたまうちだっただけ。うちのメイドさんは3人、執事は鈴野さんだけだし」
いつものような雑談をしているうち、他家のメイドさんは帰って行き、3人の使用人が残ったらしい。
それぞれ2、3個つづケーキを食べたところで、奏介が切り出した。
「それで、相談があるってメイドさんは?」
「今呼ぶね」
しばらくして入ってきたのは若い女性だった。メガネをしていて、長い髪を一つに結っている。少し気弱そうな印象。
「あ、あの……お待たせ致しました、お嬢様」
「菅谷君、皆。こっちが大学生でメイドさんのバイトをしてもらってる安曇ユイミさん」
大学3年生で、卒業後には僧院家のメイドとして就職する予定らしい。
「本当に聞いて下さるのですか?」
「はい。僧院にはお世話になってますし、俺が出来るのはそれくらいなので」
執事の鈴野さんの許可を得て、お茶会に参加してもらうことにした。これだけ大勢だと緊張してしまうかも知れないとも思ったが、あまり気にしていないようだ。後から聞いたが、大学の演劇サークル所属とのこと。
「最近、演劇サークルの飲み会に参加した時に、嫌がらせをされたんです。飲み会自体は入学当時から頻繁にあるのですが、最近入った2年生達がその……サークル全体に悪影響を与えていると思います」
新人が入ったことで職場の雰囲気が変わるのは良くあることだ。良くも悪くも。
「その嫌がらせの内容は?」
奏介がそう質問する。
「飲み会の終盤に、私がトイレに立ったんです。それで、戻ってきたら皆帰ってしまっていて、お会計がまだだったんです」
「は!? 嘘、酷い」
わかばが声をあげる。
皆一様に表情を険しくしていた。
「嫌がらせっていうか、いじめなんじゃ」
詩音が言う。
「ああ、嫌がらせのレベルじゃないね」
水果も同調。
「お会計……いくら、だったんですか」
モモが確信をつく。
「演劇サークルのメンバーはほとんど参加していましたから、12万ほどでした」
しゅんとするユイミが痛々しい。それを一人で払わされたというわけだ。
「いや、それ、後から請求出来るだろ。言わなかったんですか?」
真崎が問うと、
「はぐらかされました。結局戻ってきていません。いつの間にかその2年生達がサークルの中心になってしまっていて、皆逆らえないみたいで、助けてくれる人はいませんでした」
「うちの大事なメイドさんになんてことするんだろうね? 消し炭にしてやろうかとも思ったんだけど、菅谷くんに聞いてからにしようかなって思って」
「……何をするつもりなの、僧院」
「菅谷くんなら比較的穏便に済ませてくれそうだし!」
手荒い方法なのは間違いなさそうである。
「……それでたまたま聞いてしまったんです。次の飲み会も私に払わせようって言っているのを」
強く言い返せないユイミが標的になってしまった、と。
「なるほど。欠席するのが一番ですけど、先送りになるだけですしね」
「サークルの飲み会を欠席し続けるって、他の人との人間関係も上手く行かなくなりそうよね」
わかばがそう言って唸る。
「なら……」
奏介は少し考えて、
「俺も一緒に参加して、その場に居合わせてみましょうか」
「あー、手っ取り早いな、それ」
真崎が苦笑気味に言う。
「よし、小型カメラとマイク用意しとくね!」
ヒナがすかさずスマホを取り出す。
こうして、相談への対処方法が決まったのだった。
○
「かんぱーい!」
土澤エレナと五宝睦博は思いっきり声を出した。とあるイタリアン居酒屋の大個室。演劇サークルの総勢三十人が収まっている。
斜め右の真ん中辺りに座っているのは、今回の支払い担当、安曇ユイミ。前回の飲み会で全員分の支払いを押し付けたところ、弱めの抗議しかしてこなかったのだ。しかも、のらりくらりと曖昧に交わしていたら、諦めたようで、結果的に飲み会代が浮いた。
そしてユイミの隣に座っているのは、彼女の友人らしい。
見るからに陰キャオタク。年齢は聞いていないが、他校の大学生か高校生だろう。居酒屋の前で偶然会ったらしく、楽しそうにユイミと話し込んでいたので、飲み会に誘ったのだ。
「なぁ、なぁ、今回はあいつらに割り勘で払わせれば良くね?」
「それいい考え! うーん。どうやって席外させよっか?」
「安曇先輩がトイレに行ったら、なんか声かけてさ」
「重大ミッションじゃん。てか、高いお酒開けちゃわない?」
「お、良いね。無料飲みだもんな。やべー、楽しくなってきた。和牛のステーキ全員分行こうぜ!」
終始大盛り上がりで進んで行き、やがて居酒屋の飲み放題コースのラストオーダーが。
「あ、私トイレに行ってきます」
ユイミが席を立った。それに気づいて目配せをしてくる参加者が何人かいた。土澤と五宝はにんまりと顔を見合わせる。すると、
「俺も行きます」
都合が良いことに、ユイミの友人、菅谷奏介も席を立ったのだ。
さぁ、帰る準備だ。
○
トイレを済ませたユイミと一緒に大個室へ戻ると、
「あ……」
テーブルの上に、大量の食器と空のグラスだけが残されていた。祭りの後というか、妙に哀愁が漂う光景である。
「皆で躊躇いなく帰りましたね」
これで全額支払いが済んでいたら、許せるが……。
「お客様、こちらのお部屋の方ですよね? お支払いが」
歩み寄ってきたのは若いバイトの男性だった。伝票を手に持っている。困ったようにそれを差し出してきた。
「298320円になります」
奏介は顔を引きつらせた。
「……29……万?」
一人一万円の会費だとしたら納得だが、この金額を一人に押しつけるのは中々エグい。
お金は用意してきたが、どう考えても高校生にどうにか出来る金額ではなかった。
「あの……ちなみに何が一番高かったんですか?」
高い酒行っちゃう? などというふざけた会話を聞いた気がする。
「白ワイン、ですね。一本5万のものです。うちの店長が無類のワイン好きでして、揃えてあるのですが、一番高いお酒を、とオーダー頂いたので」
「ワインてそのくらいが普通なんですか?」
「あー……」
店員は少し考えて、
「うちの店にはないだけで、ワインは、10万以上するものもありますからね。安い方かと思います。君は、20歳になったら色々と飲んでみるといいよ」
「ワインて凄いんですね」
奏介は内心で呆れていた。
(大学サークルの飲み会で、そんな酒頼むなよ……)
大分狂ってる。飲んだことがないのでいまいちピンと来ないが、高級な品なのだろう。
「とりあえず、この場は払いましょう。俺も少し出しますよ」
うつむいていた彼女にそう声をかける。
「……いえ、大丈夫です。すみません、コンビニでお金下ろして来ていいですか?」
「え、ああ。はい」
店員もそれ以上かける言葉が見つからないようだ。
サークルの飲み会の代金を貯金から出させる。……鬼畜である。
●
土澤と五宝はギャハハと笑いながら夜道を歩いていた。
「同じ手に引っかかるとかマジでトロい」
「ま、今回は二人で払ったんだからいーだろ。あー、ずっと飲み代払わせてー」
「マジでそれ! まぁでも安曇先輩ってわりとお金もちの家らしいから案外行けるかもよ? 次の演劇の主役やる代わりに、とかさ」
「それ、最高のエサじゃん。他の奴らも今日はノリノリだったしな」
前回は渋る部員が結構いたが、今日は一致団結していた印象がある。
と、土澤のスマホが鳴った。着信のようだ。
「噂をすれば。安曇先輩〜」
にやにやと笑いながら、五宝へ画面を見せる。
「ついに抗議来たー」
土澤はクスクスと笑って、通話に出た。
「はい、もしもーし」
『……土澤さんでしょうか? あの、俺、先程飲み会に誘って頂いた菅谷です』
消え入りそうな、申し訳無さそうな声。飲み会へ飛び入り参加したユイミの友人のようだ。
なるほど、と納得する。自分では言えないからと、抗議を彼に任せたのだろう。だが、完全に力不足だ。
「さっきはどうもー。何かご用意?」
『あの…………』
「どうしたんですかー?」
怖気づいたのだろうか。
土澤の様子に、五宝が首を傾げる。
「ん、どした?」
「いやぁ、安曇先輩のお友達からなんだけど、なんか黙っちゃってー。大丈夫ですかー? 聞こえてますー?」
電話の向こうで溜め息が聞こえた。
『今すぐ店へ戻ってこい』
「……へ?」
感情のこもっていない、冷静な声だった。幼い頃、ちょっとしたイタズラのつもりが、大人にメチャメチャに怒られた時のことを思い出した。
『話があるから、戻って来いっつってんだよ。分かったな?』
ぷつっと通話が途切れた。
土岐afterは書くのに時間がかかるので、通常話挟みます!
申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。




