男性看護師を馬鹿にする老人達に反抗してみた1
27日に更新した最新話(265部)ですが、諸事情で削除させて頂きました。申し訳ございません。
後日調整して掲載致します。よろしくお願い致します。
土曜日、スーパーのバイト終わり、奏介は高平と共に駅に向かっていた。普段より早い時間に上がらせてもらったのはとある病院に行くためである。
「大したことないっつってたけど、心配だよなぁ」
「あぁ」
先日、小川さんと並ぶベテランパートの堀後さんが、勤務中に転んで足を骨折してしまったのだ。労災は下りるものの、入院することになり、交代でお見舞いに行こうという話になったのだ。パート代表で小川さん、バイト代表で高平、なのだが。
「それで、なんで俺がついていかなきゃならないんだよ。堀後さんは心配だけど人数多いと迷惑だろ」
奏介が呆れ顔で言う。
「だって、堀後さん、ちょっと怖えんだよ!」
「怖いっていうか、少し仕事に厳しいだけだろ。まったく」
当たり前だが、新人いじめをしていた頃の高平をよく思っていなかった堀後さんは、彼に厳しいところがあるのは確かだ。
堀後さんが入院しているのは駅近くの総合病院だ。
ナースステーションで病室を聞いて、エレベーターで3階へと上がる。
「病院のこの匂い苦手だわー」
「お前、文句しか言ってないぞ」
奏介は手にしていた紙袋の中身を確認する。中にはいわゆるプリザーブドフラワーの花束と焼き菓子が入っている。生花の持ち込みは出来ないらしい。
3階フロア。広めの6人部屋へと入る。
「こんにちは」
声をかけながら入ると、左奥の窓側に見知った中年女性の姿を見つけた。彼女は白衣姿の男性と何やら楽しそうに会話をしている。やがて、こちらへ向かって歩いてきた。
「お見舞いの方ですか?」
柔らかい声色で、にっこりと笑う。まだ若い。年齢は高平と変わらないのではないだろうか。
「えっと、堀後さんに」
「あちらですよ。ごゆっくり」
彼は会釈をして、出て行った。
すると、途端にひそひそと話し声が聞こえてきた。
「やっと行ったか。絡まれるとめんどうじゃからの」
「本当ですよ。うっとうしい」
何やら不穏な会話が聞こえてくる。入ってすぐ右のベッド2台だ。年配の女性と男性が出て行った白衣の男性について愚痴を言い合っている。
奏介はその様子を横目で見ながら、堀後さんに歩み寄る。
左足が布団から出ていて、包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「こんにちは。お加減どうですか?」
「お、菅谷君。来てくれたのかい。ありがとうね」
パジャマ姿の中年女性が笑顔で迎えてくれた。
普段は朗らかだが、仕事のこととなると少し厳しめになる性格だ。それでも、怒鳴ったり嫌味を言うわけではないが。
「皆心配してましたよ」
「そうかい? ……で、一樹。あんたは何か言わないのかい?」
「え!? いや! オレもめっちゃ心配してたんスよ」
「へぇ? うるさいババアがいなくなって良かったとか思ってたろ?」
「んなわけねぇっスよ! 堀後さんがいないと仕事がスムーズに回らないときがあるっつーか」
奏介はため息を一つ。
「俺の後ろに隠れながら言うなよ」
「あっはっはっ。一樹の口から仕事が回らないなんて言葉が出るとはね!」
元気そうで何よりだ。
「これお見舞いです」
「ありがとう」
紙袋を渡すと、入口近くの老人達が、まだ愚痴愚痴言っている。余程、あの医師が気に食わないのだろうか。
「さっきの人は担当のお医者さんですか?」
「あれは担当の看護師さんだよ」
「へぇ、珍しい……いや、今どきはそうでもねぇか? 男の看護師って」
「看護師職につく男の人も増えてきたってテレビで見たことあるな」
男女関係ない職業になりつつあるのは良いことだろう。
すると、堀後さんが眉を寄せる。小声で、
「そのことなんだけどね、あそこのじーさん、ばーさん。あの看護師さん……大津君のことを馬鹿にしてるんだよ」
なんとなく察していたが、案の定だ。高平も何か気づいたようだ。
「まさか、男が看護師やってるからってか?」
「馬鹿みたいだろ? 世話してもらってるのにね。こっちまで不快になるよ、まったく」
堀後さんがふんと鼻を鳴らす。
「なるほど」
頭が固い人間はどこにでもいる。看護師は女性の職業という先入観が抜けないのだろう。
と、噂をしていると、大津看護師が入ってきた。
「堀後さん、借りてきましたよ。これでどうですか」
持ってきたのは、丸いクッションだった。
「ありがとねー。今夜使ってみるよ」
夜間に足がつることがあるらしい。クッションを使って足の位置を高くしてみようということになったそうだ。
「これで解決すれば良いんですけどね」
困ったように言う大津看護師。彼の細かい気遣いや患者との接し方は確かに看護師のそれだ。
と、その時。
「げほっ! ゲホゲホゲホッ」
凄い勢いの咳が聞こえてきた。
「! 大丈夫ですか?」
大津看護師が例の老人達のところへ歩み寄る。
「天部さん、風邪引かれてましたよね? 風邪薬を処方してもらいましょうか?」
そんな声かけをしたにも関わらず、
「!」
パシャンという音がして、コップの水が大津看護師にかかった。かけたのは男性の方、天部という老人だ。
「うるさい。医者になれんかった出来損ないが。知ったような口を聞くな」
「そうですよ。女でも出来るような仕事をして、堂々としていられる精神を疑いますわ」
酷すぎる偏見である。
「……すみません」
ぽつりと呟く大津看護師はうつむいていた。
「!」
奏介は思わず、彼の元へ歩み寄る「大津さん、風邪引いちゃいますよ」
これ以上何か言われる前に、連れ出した方が良い。奏介は病室のドアを開けた。
「うあっちゃー、髪までびっしょりっすね。着替えた方が良いっスよ」
高平も加勢に来てくれたらしい。
この悪害老人ズから引き離さなければ、彼のメンタルが心配だ。
しかし、
「うおっ! 冷てえっ」
見ると、天部が高平にまで残ったコップの水をかけていた。もはや迷惑老人である。
「いや、何すんだよ、じーさん。オレなんもしてねぇだろ!」
「うるさいんじゃ、貴様ら」
「これだから、若い人達は好きじゃないんですよ」
天部に加勢するのは伊角という年配女性だ。結託して大津に嫌味を言っていたのだろう。
「はぁ? うるさいからって他人に水かけるとかあり得ねぇだろ」
「ふん。医者になれない出来損ないの男を庇う輩など、水をかけられて当然じゃ」
奏介は表情を消して、天部の前へ立った。
「あなたは医者なんですか?」
「何を言っとるんじゃ? わしは患者で」
「ただの患者のくせにうるさい。医者になってから言って下さいよ。無理でしょうけど」
終盤部分を修正しました。
録画しないパターンです。




