パーティに気に食わない先輩と彼氏を呼んで馬鹿にする社長令嬢に反抗してみた1
最初だけ姫さん制裁の続きになってます!
崩れ落ちた女子高生を見て、その中の一人が激高したように表情を歪めた。
「この、いきなり何すんだよっ」
蹴りを繰り出してきた彼女の足首を掴む姫。ギリリと力を入れる。
「あっ……うぐぅ」
「襲いかかってきたわりには動きが遅いわね」
さらに爪を食い込ませ、締め上げる。
「い、痛いっ、痛いぃ」
「さっきの威勢はどこへ行ったのよ」
冷たい口調で言うと近くの女子高生が自分の鞄を振り上げた。
「この、暴力女ぁー!」
姫は足を離して彼女の脇腹に蹴りを入れて突き飛ばし、
「がっふ」
仕掛けてきた女子高生の鞄を手刀で横へぶっ飛ばした。
「きゃっ」
すかさず丸腰になった彼女の胸ぐらを掴む。
「あ……」
一瞬で表情が凍った。
「今なんて?」
氷のような姫の声に女子高生の動きが止まる。
「う……あ……」
瞳に涙を溜め始めた。姫はちらりと倒れ込んでいる全裸の少年を見、
「あなたに泣く資格ないでしょうっ」
鳩尾に拳が喰い込んだ。
「ぐっ……あ」
「それで? あなた達はどうするの」
5人中残りの2人はぶるぶる震えながら固まっている。
「どうするの? やる? わたしは構わないわよ。来なさいよ」
その威圧感にどうしようもなくなったのか、彼女達がその場に座り込んだ。
姫も一緒に地面に膝をつく。二人の胸ぐらを同時に掴む。
「下らないことして喜んでんじゃないわよ。次見かけたら、本気で、ヤるわよ」
「ご、ごめんなさ」
「そこのお友達連れて消えなさい」
2人は残り3人をどうにか抱えて、路地の奥へ去って行った。
「……姉さんにしては抑えたね」
制服のブレザーを脱ぎながら、奏介が歩み寄る。
「一応街中だからよ。これでも大人だし、遠慮なくボコボコにしたらまずいでしょ」
「姫さん……凄い……!」
モモは深刻な表情をしながらも、尊敬の眼差しを注いでいる。
「ふふ、ありがと。でも、こういうことしなくて済む方が良いけどね」
奏介は少年を起こし、ブレザーをかけてあげた。
「大丈夫か? 怪我は?」
少年は恐らく中学生か高校生だ。傷だらけで、なんなら肌に落書きまでされている。
「……全身が、痛いです」
虚ろな目には涙が乾いた跡が見られた。
「姉さん、救急車呼んだ方が良いかも」
「そうね。病院が親御さんに連絡してくれるだろうし」
奏介達は119番をして、駆けつけた救急隊員に状況を説明してからその場を離れたのだった。
○
翌日。昼休み。
奏介は風紀委員会議室にヒナと2人。すぐに他のメンバーも来るだろう。
「ほうほう。社長令嬢ね。次の土曜日までに調べとくよ」
祠アイの相談の件の下調べは前回に引き続きヒナにお願いすることになった。
「悪いな。短い間に何回も」
「良いよ。君の頼みなら何度でも手を貸すよ」
親指を立てて見せるヒナは頼もしく見えた。奏介は苦笑を浮かべる。
「ありがとね」
ヒナは首を傾げた。
「なんかさぁ、今日元気ないね? どうかした?」
「昨日のこと、須貝から聞いた?」
「姫さんがいじめっ子ボコった話?」
奏介は頷く。
「あれ見てたらさ、やっぱり物理的な力っていうのは一番良いのかなって思った。俺はすぐに助けに入れなかったから」
「あー、そういうことかぁ。まぁでも、暴力はその一瞬だけど、君のやり方はいじめっ子のその後の後まで響いて行くじゃん? そっちの方が良いに決まってるよ。クズには良い未来なんて必要ない。良くしたいなら、自分で気づいて努力すべきだからね」
「そう、か」
と、奏介とヒナのそばにわかばが立った。
「あんた、定期的に弱気になるわね」
奏介はため息を1つ。
「……弱気っていうか、うちの姉さんはいじめられてた人を最速で助け出せたからな。それが、一番良いんじゃないかって思ったんだ」
「ちょっと準備に時間かかっても良いから、今後一切いじめられない方が良いに決まってるじゃない」
「……あぁ、うん。でもお前、いじめっ子側だったよな」
「もう忘れてっ!」
慌てた様子で声を荒げるわかば。
「あはは。もう随分前の話なような気がするよね。ボクも反省してるからね?」
真面目な顔で言われ、奏介は頷いた。
「ああ、分かってる。ありがとう、二人とも」
わかばは視線をそらした。
「なんか素直にお礼言われると調子狂うわね」
「え? なら…………橋間のくせに生意気なこと言うなよ?」
「いや、なんでわざわざ蔑んだ目で辛辣に言うのよ!」
と、詩音と水果が入ってきた。
「なんかわかばちゃん嬉しそう?」
「はは、わかばはいつも通りのやり取りが好きなのかい?」
奏介は顔を引きつらせた。
「え、お前ドM? 俺何やらされてるの」
「バカなんじゃないの!?」
わかばは顔を真っ赤にしている。
「お、なんか楽しそうだな。どうした?」
やり取りを聞いていなかったらしい真崎と、
「もしかして、昨日の話?」
モモが入ってきた。
「ん? 昨日何かあったのか」
モモが真崎に簡単に説明する。
「あぁ、姫さんか。誤解とはいえ、ガチ勝負でボコボコにされたからな、おれ」
その場が凍りつくのが分かった。
モモが深刻な表情で考え込む。
「柔道部か空手部の見学行こうかしら」
「いや、須貝。影響されすぎだよ。演劇部頑張ってるんだから」
「あ……そうね。せっかく始めたのに中途半端にするのは良くないわ」
どうやら納得してくれたらしい。
「いやぁ、菅谷姉弟最強説あり。ボク、弟子入りしていい?」
「取ってないから」
時間がなくなってしまう。昼食を摂り始めることにした。
○
祠アイとの約束の日曜日。
奏介はスーツ姿で駅に来ていた。
「お、お待たせー」
駆けてきた祠アイは薄い水色のワンピース姿だった。ロングヘアを右の肩に流している。
「ごめんね、遅れて。はぁはぁ」
バスを降りてきただけなのに、随分と息が切れている。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。……今の会社ってアタシにとって敵が多いから緊張しちゃって」
アウェイな場所へ乗り込むのは確かに辛いかもしれない。
「大丈夫ですよ。そういうパーティでの対処法は心得てますから」
先日の上嶺とのことを思い出す。立食パーティーらしいので席がない云々はないだろうが、相手がこちらをなめきっていればなめきっているほど効き目がある。
「……ところで、祠さんはこれからもその会社で働いていきたいんですか? 出来るだけ俺にヘイトが向くようにしますけど、気まずくなったりして結局退職することに」
「うん、構わない」
即答だった。
「もうね、我慢の限界だったの。姫ちに聞いてもらって分かった。アタシ、かなり無理してたみたい」
アイは困ったように笑った。
「だから、お願い」
奏介はこくりと頷いた。
「じゃあ、俺の言った通りに。お願いしますね」
「うん。……彼氏に全部内緒なのはちょっと後ろめたいけどね」
とある高級ホテルにて。
今日は一階にある大ホールが貸し切りになっていた。フカフカの絨毯が敷かれ、控えめなシャンデリアが下がっている。丸テーブルがいくつも並び、パーティ参加者が思い思いに料理やアルコールを楽しんでいる。
岸見リユは淡いグリーンのドレスに身を包み、パーティ参加者に挨拶回りをしていた。今日は小規模の集まりなので、すぐに終わり、雑談をしながら料理を楽しむ時間に。もう少しで父である岸見社長のスピーチが入る。
と、入口に部署の先輩であり、気に食わない社員、祠アイが現れた。
不細工な彼氏と一緒にいるところを見つけて煽ったら、イケメンとパーティへ参加すると挑発に乗ってきたのだ。
(1人みたいだけど?)
内心で笑いながら、歩み寄る。
「祠先輩。こんばんは。来てくださったんですね」
「こ、こんばんは。招待ありがとう」
不細工彼氏を見られたくなくて、1人で来たといったところだろうか、
同じ部署で岸見の味方をしてくれている同僚や先輩達もアイの姿を見てくすくすと笑っている。
「ところで、祠先輩の彼氏さんは?」
「い、今来るよ。すぐに」
と、入口から入ってきたのは、
「ぷっ」
思わず吹き出してしまった。スーツ姿ではあるが、見た目が完全にオタクだった。アイドルやアニメ系が好きそうである。先日の不細工系デブといい勝負だろう。某電気街をリュックを背負って歩いていそうだ。
「はじめまして。菅谷と申します。この度は」
奏介の挨拶を遮って、
「あっはは。個性的な彼氏さんですね、先輩? こんな面白い顔がイケメンに見えるなんて、先輩の目、どうかしてますよ」
周りからくすくすと笑う声が聞こえ始める。
「……」
アイはうつむいて、縮こまってしまう。馬鹿にするような視線、嘲笑に耐えられなくなったのか震え始めた。
「おい」
この華やかな場所に不釣り合いな低くて唸るような声に岸見はぽかんとして、奏介を見る。
「お前、初対面の人間の顔見て何笑ってんだよ。ふざけてんのか?」
入口付近の空気が凍りつく。
「……え」
「え、じゃねえんだよ。てか、誰だお前。挨拶も出来ないのか? あぁ?」
岸見はしばらくして、顔をぴくりと引きつらせた。




