接客態度最低最悪な店員after
170部更新しました。野久保つかさ、一村、東城のプロフィールです。
一村はオフィスビルを出て、ため息を吐いた。就職活動を始めて5回目の面接である。手応えはあまりない。後日メールで採用か不採用か送ってくれるとのことだ。
「まじで見つからねー……」
奏介にボロクソに罵られ、店長に怒られた上に社長の耳に入り、実質クビになったのだ。
それから職につくために面接を受けまくっているが、現在内定はゼロである。
「あのオタク野郎が。ガキのくせにっ」
思い出しただけでも腹が立つ。
「ん」
手に持っていたスマホのバイブが鳴った気がして、画面を見ると、
「東城か」
一緒にクビになった東城からのメッセージである。今日飲まないか? というお誘いだった。
「うっし」
明日の予定はない。今日は全力で現実逃避だ。
小さな居酒屋である。提灯の明かりに照らされる店内は非日常感がある。
奥の座敷席でスーツ姿の東城が待っていた。
とりあえずビールとやきとりを頼み、乾杯をする。
「で、どう?」
東城に問うと彼女はひらひらと手を振る。
「今のとこ全滅。もう、ほんとに嫌になっちゃう」
「あー、オレもまだだ」
東城はジョッキのビールを飲み干して、テーブルに置いた。
「ねぇ、こんな目に遭うのはあいつのせいよね? しかも高校生の言うことを聞く会社もバカなんじゃない?」
「あぁ、腹立つよな。オレらよりあのデブお嬢の友達優遇かよって。……クソが」
「思い出したらまた腹が立ってきた。てか普通、ただの悪口でこんな大袈裟になる?」
「ねえだろ。悪口言い合うなんて、どこでもあることだしよ」
「だよねー。過剰反応しすぎ」
一村は少し考えて、
「なぁ、大袈裟にされたなら、こっちも大袈裟にしてやらねぇか?」
「何、どーいうこと?」
「オレら大人なんだからさ、高校生がどうにか出来る範囲を越えてやろうぜ
」
ピンとこないらしい東城に、一村はにやりと笑う。
「不当解雇を会社と争って、金払わせるんだよ」
数日後
とあるファミレスにて。
ヒナとつかさはソファ席で向かい合っていた。平日だが、放課後に買い物をする約束をしていたのだ。
「え、労働、審判?」
ヒナはオレンジジュースのグラスに刺したストローをくわえたまま、目を瞬かせた。
つかさは頷いた。
「不当解雇されたとかて言うてきて、裁判所に申し立てたらしいんよ。労働審判ていうのは、第三者を挟んで話し合いをするみたいな感じなんやて。うちの会社からお金取るのが目的なんやろな」
「えー……? だってお店で悪口言いまくって、営業妨害してたじゃん。菅谷くんは録音してたし、ボクも録画してたよ?」
「うちの父が言うにはその理由だけじゃ弱いって言うんよ」
「まぁ、確かに悪口で解雇って言っちゃうと」
ヒナが眉を寄せた時。
「なんか、大変なことになってるんだね」
近づいて来た奏介が複雑そうな顔をしていた。
「あ、菅谷くん。突然呼び出して悪かったね」
ヒナが困ったように言う。
「いや、大丈夫だけど」
「ちょっと不安になってもうて。わざわざ来てもらってありがとうね」
奏介はヒナの隣に座った。
「不当解雇か……」
「そうなんよ。……私がいけないんやろか。悪口くらいでお父さんに告げ口して……」
「いや、野久保が我慢してれば上手くいったなんて考えは違うよ。ちなみに、あの二人って他に何かやってた?」
「私への悪口の他に……っていうこと?」
奏介は頷く。
「確かにやらかしてそう。調子に乗ってたし」
ヒナがむぅっと唸る。
するとつかさは少し考えて、
「そういえば、一度だけ接客態度を注意したことがあるんやけど、その日から悪口言われ始めたんやったわ」
「それがきっかけだったんだ。んん? ていうことは、元々接客態度悪かったってこと?」
「悪かったと思う。店長には上手く隠してたみたいやけど、岩舘さんとかは嫌がらせもされたらしいしな。お客さんがいても構わずペラペラペラペラしゃべっとったていう話も聞いたわ。というか、私は社長の娘っていうだけで指導出来る立場やないんやけど、注意せなあかんくらい酷い態度をとってたんや」
「なら、お客さんから証言を得た方が良いかもな。後は、監視カメラあったろ? そこに客そっちのけでお喋りしてる様子が映ってれば」
ヒナが何度か頷く。
「確かに、証言はしてくれそうだよね。接客態度が悪かった店員をかばう人なんてそうそういないし」
「監視カメラ……3ヶ月前くらいならバックアップしてあるし、いけそうやわ」
「3ヶ月か。なら、出来るだけ多く集めると証拠になりやすいから、大変だろうけど、やってみて」
つかさは、少しだけ笑顔を見せ、しっかりと頷いた。
●
数日後。
自信満々で臨んだ労働審判。会社社長はつかさへの暴言音声や録画、監視カメラのサボり動画など、10点以上の証拠を持参し、徹底的にこちらの証言を潰してきたのだ。
その日の夕方、居酒屋にて。
東城はビールジョッキをテーブルに叩きつけた。
「なんっなの! ちょっとの愚痴くらいで解雇は不当だって言おうとしたのにあんなに証拠持って来てさっ」
「あの動画、あのクソガキが撮ったものじゃねえか。あいつが噛んでやがるのか」
一村は心底悔しそうに言う。
と、テーブルの横に誰かが立った。
「……え」
それは、今まさに話していた『クソガキ』だったのだ。
「お前らさ。大人だったら職見つけて働けよ」
奏介のこの上なく冷たい視線が二人を射抜く。
一村と東城は呆然とするしかない。
「下らないことを考える暇があったら就活してろ。……次はないからな」
と、カウンターの店主が顔を出す。
「おーい、そこの坊主。一人か? この店はな、酒を出してるから」
困ったように言ってくる。
「あ、すみません。ちょっとこちらのお兄さん達に用事があって」
笑顔で言って、
「それじゃ、一村さん、東城さん。良いお仕事先が見つかることを祈ってます」
奏介は頭を下げて、去って行った。
二人はうつむいたまま向かい合った。
「……明日、ハロワ行くわ」
「……あたしも行く」
居酒屋を出るとヒナが壁に背を凭れて立っていた。
「お疲れ。これで復讐心がボキボキになればいいけど」
「どうだろうな。でも、次はない」
「その時はボクも協力するよ! ……さて、帰ろっ!」
直接文句を言いに行く奏介、一緒に来ないほうが良いと言うことで、つかさを近くの駅で待たせている。
これで真面目になれば良いのだが。
奏介は、労働審判が行われた場所から尾行(出てきたところを待ち伏せ)していたので偶然じゃないです……!
※労働審判に関しては経験したことがないので、間違った表現があるかもしれません! 詳しい方がいらっしゃれば是非教えて下さいませ。




