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新人バイトをいじめてみた1

 一週間前に新人が入った。高校生らしい。気弱そうで、真っ先にいじめられそうなタイプだ。

 駅前スーパーのバイトリーダーを務める高平一樹(たかひらいつき)は少しぎこちない動きでレジを打つ、菅谷奏介というバイトへ視線を向ける。

「ふふ」

 バーコードのついていない商品の処理の仕方が分からず、隣のパートの女性に聞きに行った。一樹は教育係を任されているが、実のところ彼を放置している。つまり、仕事のやり方をほとんど教えていないのだ。初日からだが、一樹の奏介への対応は完全無視。話しかけられても空気のように扱っている。

「あー、キレられてんじゃん」

 客とパートの女性からあまり良い顔をされていない。なんで覚えられないの? とでも言われているのだろう。覚えられないも何も教えていないのだから当然だ。

 奏介はひたすら謝っている。

「バーカ」

 一樹はくすくすと笑いながら裏手へ入った。ストレス解消にはもってこいの人材だ。いちいち泣きそうな顔になるのも笑える。

「言えねーだろうな。おれが教えてないって」

 一樹はこのスーパーの経営者の息子であり、店長や皆から一目置かれる存在だ。初日にそれをこれでもかとアピールしてやったので奏介も店長に文句を言えないのだろう。



 奏介がバイトを上がる時間、休憩室で出くわしてしまった。

「あの、高平さん、レジのレシートのことなんですが」

 一樹は舌打ちをして休憩室の椅子に座る。タバコをふかした。

「俺、何かしましたか? あの、すみません、仕事を教えて頂きたいのですが」

 無視。

 しばらくして奏介は泣きそうな顔になりながら休憩室を出て行った。

「ぷっ、あはははっ、やべ、わらっちまうわ。あー、すっきりする」

 奏介はそのまま帰ったらしかった。



 翌日も何度か仕事を教えてくれと頼まれたが一切対応をしない。そしてまた仕事が出来ずに怒られる悪循環、沈んでいく彼の様子は快感だ。



 翌々日、出勤すると、すでに来ていた奏介が店長に説教をされていた。仕事が出来ないことに対するものか。

 くすくすと笑いながら着替えて自分の仕事につく。

 その日、奏介は声をかけてこなかった。



 翌々々日。

 従業員用の入り口から中へ入ると丁度休憩室から奏介が出てきた。

 舌打ちをする。もちろん無視だ。また泣きそうな顔をするのだろう、そう思っていたのだが。

「にやけ顔気持ち悪」

 と、一言。

「……へ?」

 思わず奏介を見ると、彼はニヤニヤと笑っていた。

「こっち見んなよ。不細工男。あ、聞こえないんだったな。じゃあ良いか」

 そう言って店の方へ消えていった。

「…………へあ?」

 まるで頭を思いっきり殴られたような衝撃が走った。

 その日の仕事は落ち着かなかった。奏介をちらちらと目で追ってしまう。彼はいつの間にかパートの女性と仲良くなったらしく、仕事を教えてもらっていたのだ。

「……今朝のはなんだったんだ? 空耳? いや、だってあいつがあんな言葉を口にするはずは……え、あ? なんだ、どういうことだ」

 まだ混乱している。

 その日は奏介と休憩室ですれ違った。我慢出来ずに声をかけた。

「おい、お前」

「声かけてくんなよ。無能男」

 奏介はそう言って顔だけで振り返る。やはりニヤニヤと笑っている。

「なんだと!?」

 奏介は去って行った。

「な……な……」

 あの奏介が信じられない。

「くっ、見てろよ」

 一樹は店長に、奏介が暴言を吐いたと告げ口をした。



 その日のうちに店長の事務室に呼ばれた奏介。彼は事務机の前に立たされている。

 そんな様子を一樹はこっそりと覗いていた。

「へへ、おれに逆らうからだ」

 以下、彼らの会話。


「でね、暴言を吐いたって彼が言ってたんだけど」

「え……。俺がですか? 覚えがないです」

 奏介は困惑気味に首を横に振った。

「それに昨日言いましたけど、高平さんに何か悪いことをしてしまったらしくて、仕事を教えてもらえていないんです。いえ、高平さんは悪くないんです。俺が仕事が出来ないから呆れられてるんだと思うんですけど」

「そ、そっか。ああ、わかった。そう落ち込まないで。高平君には言っておくから」


「なっ!?」

 直後、呼び出されて奏介に対する態度を窘められた。



「クッソッ、なんだよっ、どういうことだよっ、あいつなんなんだ」

 倉庫で一人、在庫チェックをしていると入り口に気配が立った。

「!」

 振り返ると、奏介が壁に背中をつけ、腕組みをしながら立っていた。

「お前、人望ないな」

 ニヤニヤとあの笑みを浮かべながら。

「っ! てめっ」

「無視いじめ、前から新人にやってたろ? 店長やパートさんも呆れてたしな。今さら菅谷奏介が暴言を吐いたなんて言って信じる奴いるわけないだろ」

 ぞくりと背筋に冷たいものが触れた気がした。何かわからないが、とんでもないものを敵に回してしまったかのような。とてつもない恐怖に襲われる。

「お、お前、何者だよっ」

 思わず、一樹は叫んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 俺、昔職場イジメされたから辞めたけど、めっちゃくちゃ忙しい状況で他人を虐めて追い込むって馬鹿だよねぇ…… 他人でストレス発散すんなっつーの! ちなみにその職場は数年後に倒産しました
[一言] この小説全国の虐められっ子達に読ませればいじめ減りそう、もしくは道徳の授業とかに教材として取り入れるとか。 必須文房具にボイスレコーダーが入る日も近いね
[一言] 自分の親の経営している店で足を引っ張るなんて無能どころじゃ無いなwwww
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