アレルギーがあると分かっている友達にアレルギー物質を摂取させた女子高生達after
第170話の登場人物更新しました。
猪原、四季折、東牙。
101話に登場してます。
四季折ユメハは真っ暗な自室のベッドで布団に包まっていた。スマホの画面を注視する。
「……アレルギー……アナフィラキシーショック……死亡率」
『アレルギー』と検索するだけで不穏な単語が並んでいる。と、ユメハ達が関わった事件の記事が出てきてしまい、
「やめてよっ」
慌ててスマホをベッド向かいのソファへ投げつけた。
同級生だった猪原への傷害罪で学校は退学、家庭裁判所で裁判などもして、保護観察がついた。そして、親が被害家族への賠償金を支払ったことで示談が成立したのだが。貯蓄がほとんどなくなったと親が嘆いていた。昔からコツコツと貯金をするタイプだった両親に感謝しかないが、今までで一番怒られたと思う。
母に叩かれたのは初めてだし、父親に口汚く罵られたのも初めてだ。
「はぁ……なんでこんなことになるのよ。……知らなかっただけなのに」
そう言い訳を呟くと、決まって頭に響くのはスーパーのバイト店員の言葉だ。
『なあ、俺は最初に言ったよな?
知らなかったら仕方ないって。それで責任を感じたなら、あの子のために出来ることがあるだろって』
ユメハはギュッと布団を握りしめた。
悔しいがあの日の対応を間違ったのはユメハ達だ。連れの友達、東牙ハナメも同じ処分を受けたが、あれから連絡をとっていない。仲良く付き合う気にはなれなかった。
ユメハはノロノロとベッドから起き上がった。目に入るのは、スマホ画面に映し出されたアレルギー関連の記事である。
「……」
思い出されるのは猪原がもがき苦しみ、倒れる姿だ。彼女は助かったと聞いている。もし亡くなっていたら、ここにいられなかった可能性もある。
ユメハは嫌な考えを振り払って、部屋を出た。リビングにいた母親が何か声をかけてきたが、無視した。家を飛び出す。部屋に籠もっていると、嫌な考えがループして頭がどうにかなりそうだった。
家を離れたところで歩き始めるが、うつむき加減になってしまう。
(……ごめん。軽い気持ちであんなことして)
どう言い訳しても、自分達のせいだ。それで猪原が死にかけたのは間違いない。唐突に、そう思った。
ふと、顔をあげると現場となったスーパーの前に立っていた。あの事件について考えていたせいか
無意識にここへ来てしまったらしい。
「っ……! なに考えてんのよ、あたしは」
歩き出そうとした時。
目があった。
「……」
例のバイト店員、もとい菅谷奏介がこちらを見ていた。どきりとする。どうやら彼は、店外に置かれたワゴンの中の商品を補充していたようだ。
「え、あ……」
奏介はすっと目を細めた。
「こんにちは。釈放されたんですね。あなたも文句を言いに来たんですか?」
まだ何も言っていないのに喧嘩腰だった。
「あなたもって……?」
「東牙さん、お友達でしょ? この前、親御さんと乗り込んで来たんですよ。アレルギーの食品を提供したのは店なんだから責任取れって。これでもかっていうくらい営業妨害してきたので警察呼んだんです」
「え……東牙が?」
ぽかんとしてしまった。どうやら彼女は逆ギレして親とともにクレームを入れたらしい。
「聞きます?」
奏介はスマホの画面をタップした。
『試飲配ってた店員が悪いんじゃない! なんであたし達のせいにされなきゃならないわけ!?』
『賠償するのは店側です。うちの娘は試飲用の飲み物を猪原さんに渡しただけ。確認もしないでドリンクを渡しておいて、こちらのせいにするんですか?』
ハナメと、母親の声だろう。怒鳴り声だった。
次に入っていたのは、冷静な奏介の声である。
『いや、うちの店員はヨーグルトのドリンクだと一人一人に伝えてましたよ。ヨーグルトが入ってるとなれば猪原さんは自衛出来たと思います。手渡した時に何も伝えなかったのは娘さんでしょ』
その後もギャーギャー騒いでいたが、最終的に警察に連行されたそう。
「……」
ある意味尊敬する。今のユメハにそんな気力はない。学校も退学になり、両親からも冷たい目で見られ、SNSは大炎上(すべて削除済み)。気持ちが疲弊している。
すると奏介は首を傾げた。
「なんか、違うみたいですね。うちの店に用事があるわけじゃないんですか?」
態度が少し柔らかくなる。
「ううん。別にないわ。あなた……あの子がどうしてるか知ってる?」
「猪原さんですか? この前挨拶に来ましたよ。退院されて元気そうでしたけど」
心底ほっとした。アナフィラキシーショックは死亡率が高いと言う。
「……そう」
やはり謝るべきなのだろう。しかし、どの面下げていけばいいのかまったく分からない。
「反省してるなら、一歩前進ですね」
「え」
「東牙さんと態度が全然違うので。悪いことをしたと思うなら、手紙でも書いて謝罪したらどうですか」
「……ええ」
ユメハはそう返事をして、駆け出した。
奏介は何も言わなかった。引き止めもされなかった。
(手紙……)
文房具屋にでもよって行こうか。走りながら、そんなことを考えた。
第170話の登場人物更新しました。
猪原、四季折、東牙。




