自殺をしようとした青年に説教してみた2
中年サラリーマン、大類はやや動揺した。
「何故、そういう話になるんだ。彼は自ら命を絶とうとしたんだぞ。それを止めた。何か間違っているかね?」
「それは間違っていないと思いますし、あなたが正しいです。正直、こんなところで身投げされたら大変ですしね」
飛び降り自殺をして、巻き添えを食らい、亡くなった被害者がいたという話も聞く。それに関しては自殺者の行動が腹立たしく思う。
「だったら」
「そうじゃなくて、彼は理由を語ったじゃないですか。それに対して『それくらいのこと』って言いませんでした?」
「ん?」
大類は眉を寄せる。
「真剣に悩んでいることに対して、『それくらいのこと』で済ませるんですか?」
「む……」
「個人的な話になってしまって申し訳ないですが、俺も自殺を考えたことがあります。真剣に悩んで、死んでしまいたいと思っていることを『それくらいのこと』と言われたら、彼はどう思いますか? 追い詰められている人をさらに追い詰めて良いことはないです」
大類は黙った。
「自殺に対して説教するのはもちろん良いと思います。大勢に迷惑をかける行為です。ただ、この人が抱える悩みだけは蔑ろにしないで下さい」
奏介は息を吐いた。
「だから、彼の借金を肩代わりして、彼の悩みを解消してくださいと言ったんです。本当にやれとは言ってません。でも人の悩みをバカにするのは止めて下さい。本当に真剣に悩んでるんですよ」
奏介は拳を握り締めた。
「バ、バカにはしていない」
奏介は少しの間黙って、
「それ以外は、あなたがすべて正しいですよ。考え方も間違っていないです。……失礼しました」
奏介は頭を下げ、そのままホームを歩いて行ってしまった。
大類は去って行った彼を見、息を吐いた。少し頭が冷えた。
「立てるか?」
手を差しのべる。
「あ……」
青年は恐る恐る手を握った。
「悪かった。悩みに関しては」
「……はい」
「しかしな、自殺はいかんぞっ」
「は、はいっ」
「命は尊いものなんだ。それを簡単に投げ出す奴があるか。相談になら乗ろう。だから、もうこういうことはするんじゃない」
青年はうつむいた。
「でも」
「借金に関しては、君が背負わなくても良くなるかも知れないぞ」
「え!? そんなこと」
「子供だな。法律を知らんのか」
「う……」
「今日の夜は暇か? うまいラーメン屋がある」
そして、大類は指を指した。
「良いか、それまでにまた飛び込もうとでもしたら許さんぞ」
「は、はいっ」
青年は背筋を伸ばした。
「よし」
大類は大きく頷いた。
このあと番号交換しました。




