女の子の顔の傷をからかって酷い言葉をぶつける小学生達に対抗してみた2
彼らの表情が変わる。
「は……? なんだお前」
「いきなりなんなんだよ」
見た目で嘗めているのか、高校生相手に強気だ。
「だから、その年齢で火傷を知らないとか、頭空っぽ過ぎだなって」
奏介は挑発するように人差し指で頭を指さす。
「は!? そんなの知ってるに決まってるじゃん」
「あ、言葉は知ってるのか。でも意味は知らないんだな。電源が入ってるストーブに触っちゃう赤ちゃんか?」
「ふざんけんなよっ」
奏介は高士を見る。
「火傷は知ってるよな?」
「え、うん。熱いものに触ると、赤くなって、水ぶくれが出来るんだよね。俺もなったことあるし」
奏介は動揺する小学生達をバカにしたように見る。
「これくらいのことも知らないのかよ」
水果と詩音は苦笑ぎみだ。
「確かにそれは、ちょっと勉強不足だね」
「うん……。この子達高学年みたいだし、ね」
彼らは顔を真っ赤にしていた。
「てめぇっ、バカにしてるとただじゃ置かねぇぞ」
「なんだ、自分達が頭空っぽだって言われて図星か? 随分と必死だな」
彼らはさらに激昂した様子。面白いくらいだ。
「知ってるって言ってんだろっ」
「そんなの知らないわけないじゃん」
「てか、そう思い込む奴がバカなんじゃね?」
奏介は鼻を鳴らした。
「思い込むって、真鍋さんをゾンビ女とか言ってなかったか? ゾンビって言うのは肌が腐ってる化け物だろ。真鍋さんは火傷をして爛れてこうなってるんだよ。火傷したらゾンビになんのか? なると思い込んでるんだろ? バカなのはどっちなんだろうな」
「っ!」
彼らが一様に動揺したので攻める。
「それに移るってなんだよ。火傷は病気じゃないだろ。風邪と同じとでも思ってんのか? そうだとしたらほんとにヤバイよな。熱いものに触れたらゾンビになんのか? んなわけないだろ。どんだけものを知らないんだよ。よく人にバカとか言えるな。常識勉強してこい」
「な、なんだこいつ。きもっ」
顔が引きつっている。そう言い返すのが精一杯のよう。しかし、彼らの中の一人が奏介を睨んだ。
「つーかさ、真面目な話、そんなのオレら知ってるから。見た目で言ってんだよ。そいつ、化け物みたいじゃん」
奏介が軽蔑の視線を向ける。
「真鍋さんをからかって笑い者にしてた奴が、何真剣に真面目な話し始めてるんだ?」
「そ、そうだよっ、さっきまで笑ってたのに何冷静に言ってんだよっ、真鍋さんは悲しんでるって言ってんだよっ、泣いてる時もあるんだぞっ」
高士がそう叫ぶ。
「真鍋さんは事故で火傷したのにそれを笑いながらバカにして、それを指摘されたら真面目ぶるのか? 友達同士でじゃれあってたのならともかく、真鍋さんと仲良いようには見えないよな?」
言い返せないようで黙る彼ら。
「女の子だし、顔の火傷をしてショックなのに、お前らからゾンビなんて言われたらどう思うか分かんないのか? お前らがこの子の立場だったら、ゾンビ扱い喜ぶのかよ? まぁ、人の気持ちなんて分からないだろうな。ゾンビ女~とか言って楽しそうだったし。そしていきなり真面目なお話を始めてドヤ顔、必死だな」
「うざっ、ほんとになんなんだよっ、こいつ。化け物みたいだから言ってるだけだろ? つーか、皆思ってるっつーの」
「そう見えるんだから、言っても良いじゃんか。正義の味方気取りかよ」
「別に思うのは自由だ。でも、常識ある人は気を遣えるんだよ。口には出さない。お前らみたいに口に出さずにいられない、我慢出来ない……おもらし集団だな」
これ以上は勝てないと判断したのだろう、彼らは逃げる姿勢を見せる。
「付き合ってらんねっ」
「ごちゃごちゃうるさ過ぎだしっ」
「なんだ、もう逃げるのか? どうせ、真鍋さんが一人になったところを狙って言ってくるんだろ? この負け犬のおもらし集団が」
すると、彼らは何も言わずに走り去って行った。
なゆは終始、ぽかんである。
「あれは中々効いたね」
水果が何度か頷きながら言う。
「奏ちゃんの不意討ち先制パンチ、さすが……!」
「やっぱ兄ちゃん凄いっ、俺が何か言ってもダメだったのに」
「問題とは別のところからダメージを叩き込むのは基本なんだよ」
するとなゆが、
「あ、あの」
おずおずと奏介を見る。
「ありがとう、ございました。こんなにスムーズに言い返す人は初めてです。私も何度か反論したんですが、さらにバカにされただけだったので。……すっきりしました」
「まぁ、またあいつら言ってくると思うけどね。その時は俺は言ってあげられないけど、大丈夫?」
「……はい。菅谷さんの反論を参考にします」
なゆは勇気が出たと言って笑ったので大丈夫だと思いたい。一応、「この前の高校生に言いつける」と脅しても良いと伝えておいた。
なゆを自宅に送り四人で歩く。
「ちょっと元気になったみたいで良かったねっ」
「あぁ、それにしても菅谷は上手いね。こんな風に味方をしてくれたら誰だって勇気が出るよ」
高士が何度も頷く。
「言われっぱなしで黙ってることしか出来ない人はたくさんいるからな。それに人が傷つくことをそう思わずにやってる奴もいる。助けてほしいって言われれば出来るだけなんとかしてあげたいと、最近思うんだ」
風紀委員の相談を受けるようになってからだろうか。
「それはそれとして奏ちゃんに悪口を言うと反論が鋭くなるよね……」
「当たり前だろ。バカにされてだまってるとか俺には無理だよ」
「菅谷らしいね」
「兄ちゃんありがと。俺も真鍋さんに味方するよ。ちゃんと言ってやるから」
「ああ、そうだな。高士に任せるよ」
と、水果が顎に手を当てた。
「でもまさか、高士に仲の良い女の子が出来るなんてね。少し前までは想像もつかなかったよ」
高士は大慌てである。
「違うんだって、水果姉ちゃん。真鍋さんは友達なんだ」
と、詩音が奏介に近づいた。
「ねぇねぇ、もしかして高士君、水果ちゃんのこと」
「ああ、まぁ……そういうことだね」
分かりやすすぎたようだ。
「そっかぁ。絶対水果ちゃん意識してないよね。頑張れとしか」
完全に弟扱いだろう。
きっとこれからが彼の頑張りどころだ。




