告白詐欺after
放課後。
その日は真崎に誘われて、ラーメン屋に行くことになった。新しい店を見つけたらしい。
「それで、店主が目茶苦茶頑固オヤジでな。今時、珍しいんだ」
「そういう店って、美味しいイメージだね」
「ああ、評判良いぞ。騒いだりすると怒られるけど」
真崎に連れていかれたのは、細い路地にある、見た目小さなラーメン屋だった。とは言っても、カウンター席のみで二十席以上ある。店舗の奥行きがあるのだろう。
「いらっしゃい」
無愛想な白髪の店主が迎えてくれた。隣で鍋をかき回しているのは、奥さんだろうか。
真崎がおすすめだというチャーシュー麺を頼んで、カウンター席に並んで座る。その瞬間、二つ空けて隣の席に座っていた女子がびくりと肩を揺らした。
「……?」
見ると、檜森リリスが目を見開いてこちらを見ていた。一緒にいた味澤、宇津見、長池の姿もある。
奏介はため息をついた。
「あ、あの、お疲れ様ですっ」
「お、お疲れですっ」
「うっす、菅谷、さん」
「ど、どもっす」
怯えた様子で挨拶をされた。お疲れってなんだよと思ったものの、無視したからと言って何か言うつもりはなかったのかだが。
「……お疲れ」
そう呟いて奏介はため息を吐いた。
「ん、なんだ、知り合い?」
「うん、小学校の同級生」
「小学校って……」
真崎は四人の様子を見る。
「調教済みか」
「いや、誤解を生むような言い方しないでよ」
と、店主の奥さんが声をかけてきた。
「君ら、ごめんね。ちょっと店長、席外したから、少し出るの遅くなるね」
「あー、別に大丈夫っすよ」
真崎が笑って声をかける。
ちらりと横を見ると、四人とも青い顔でラーメンをすすっている。
「……」
ここまで怯えられるとかわいそうになってくる。せめて真崎と席を替わった方がいいだろうか。
なんとなくそんなことを考えていると、
「でなー?」
「へぇ、そうかぁ」
チャラそうな男二人組がしゃべりながら入ってきた。制服はリリス達の高校と同じだ。
「おっとー? こりゃラッキー。恋愛詐欺集団じゃん」
バカにしたように言う。
「ど、ども。先輩」
長池が顔を引きつらせて頭を下げる。
「ここ、お前らの奢りな」
「え?」
リリスが目を見開く。
「月に何人も付き合ってたんだから金持ってんだろ?」
すると、味澤がおずおずと、
「あの、最近は先輩達に毎日購買でパン買って行ってますし、むしろ金欠で」
「それとは別だろ。恋愛詐欺とかいう最低なことしといて、言い訳か?」
「だよなぁ!」
下品な笑い声を上げる。
「針ケ谷」
「どした?」
「いるよね。悪いことした奴らになら何やっても良いって思い込んでる大バカ」
「あー、よくいるな」
途端にぎろりと彼らに睨まれる。
「あ? んだ、てめぇ。嘗めた口聞いてんじゃねぇぞっ」
かなりの短気らしく、いきなり胸ぐらを掴まれた。
奏介はため息をついた。大声を出さないよう、彼に聞こえるように口を開く。
「関係ない癖に何偉そうに味澤達ディスってんだ? やってること、恐喝だろ。こいつらが恋愛詐欺したからってなんでお前らにラーメン奢らなきゃならないんだ? 意味分からないんだよ」
奏介の言葉に味澤達が驚いたように目を見開いた。
「ぶっ殺すぞ、てめぇっ」
その大声に他の客達がざわついたところで、
「おおい、坊主、何してんだ?」
見ると、青筋をたてた店主が腕組みをして立っていた。
奏介が慌てるふりをする。
「た、助けて下さい、いきなりこの人が絡んできて」
店主が味澤達の先輩を睨み付ける。
「その制服、近くの高校か。うちの店でよくもいざこざ起こしてくれたなぁ?」
先輩が顔をひきつらせる。
「い、いや、こいつが」
「名を名乗れ。学校に連絡してやる」
彼らは怯えた様子で、
「か、帰るぞっ」
逃げるように店を出て行った。
「まったく。マナーも守れんのかっ」
「まぁまぁ、お客さん待ってるから早くしてちょうだいよ」
店主と奥さんの会話を聞きつつ、
「あいつら、顔見たことあるな。うーん。後でしめといてやろうか?」
「この店に何かしてきたらで良いんじゃない?」
その後、評判通り美味しいラーメンを頂き、店を出たのだが。
何故か先に食べていたはずの彼らと同時だった。
「毎度ありー」
外へ出ると味澤が頭を下げてきた。
「さっきは、ありがとう。最近、あの先輩達に奢らされまくっててさ。でもおれらに拒否する権利なくて」
それから口々にお礼を言われる。あの件以来、自分達のやらかしで苦労しているようだ。
「人をバカにしてると、いつか返ってくるんだよ。身を以て知れただろ?」
「そう、ですよね」
リリスが呟く。
「あ、あのっ、菅谷君。私小学生の頃、あなたに酷いこと言ったことがあるの。……ごめんなさい」
宇津見が言う。
「おれも、石田に騙されたとは言え、悪かった。本当に」
と、長池。
奏介は目を瞬かせた。
「なんでこの前土下座して謝ったのにまた謝るの? 回数重ねたからって許さないって言ってんだろ」
全員涙目である。
「まぁ、反省するのは良いんじゃないか。あの便乗恐喝野郎の言うことは聞かなくていいけど」
「はは。じゃあ、恐喝に困ったら俺がしめてやるよ」
真崎が言う。
「え、ああ、うん?」
ポカンとしている四人を残し、真崎と帰宅することにした。
奏介は珍しく腹立たしげだ。
「まったく、何がラーメン奢れだ。俺が制裁したのに」
「なんだ? その怒りポイント」
「あいつら叩きのめすのに結構手間をかけたんだよ。ようやく反省させたのに、横からかっさらうような真似をしたでしょ」
「あー分かるようなわからないような。……感情が複雑だな」
真崎は苦笑を浮かべた。




