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見た目いじめられっ子の俺は喧嘩売られたので反抗してみた  作者: たかしろひと
第3章 続・だらだら日常編(波乱あり)
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学校で賭け事をしている女子に反抗してみた5

 放課後、ユウキは兄の橋人に先に帰る、と連絡を入れてから学校を出た。

「寄り道しないでさっさと帰ろ」

 橋人とのんびり下校するのも良いが、落ち着くまで最速で家へ着きたい。

 その途中、橋人に送ったメッセージを見たが、未読のままだった。いつもならすぐに読んでくれるのだが。

「うーん?」

 何故か今日は妙に気になる。

 と、細い通りに入った時である。

 隣にすっと黒塗りの車が停まった。

「!」

 後部席の窓が開く。

「こんにちは、津倉さん」

 顔を出したのは、例のネットで知り合った小泉という男だった。ひょろっとしていて眼鏡をかけている。

「あ、こんにちは小泉さん」

 思わず立ち止まって頭を下げる。

「今帰りですか?」

 にっこりと笑う。常々、雰囲気が兄に似ていると思う。

「はい」

「家まで送りますよ。『カフェルル』の件についても少し話しましょう」

「はいっ」

 ドアを開けようとした時である。

「あれ、津倉さん」

 見ると、奏介が不思議そうな顔をして立っていた。

「あ……」

 視界の端で、小泉の表情が険しくなったような気がしたが、

「お友達ですか。では今度にしましょう。また連絡しますよ。それでは」

「え、別にあいつは」

 小泉は窓を閉めると、車は逃げるように去って行った。

 奏介が歩いて来る。

「ごめん、取り込み中だった?」

 能天気な問いにユウキは怒りを覚えた。

「気安く呼ばないでよ。もうあなたと話すことなんて、な」

 再び彼の体を突き飛ばそうとして、その手首を掴まれた。

「俺はあるんだよ」

 低い声、睨むような視線。

「え……」

「無理矢理巻き込んでおいてなんだそのふざけた態度は。調子に乗るのも大概にしろよ」

「え、え?」

 過去にいじめられていたという話と、気弱そうな態度。そのイメージが砕けて、ぞくりと背筋が震えた。

「あのカフェに連れ込んだの、俺だけじゃないだろ? 騙して脅して犯罪を犯させて笑ってたんだろ? どうしようもないクズだよな? お前みたいなのがいると、周りの人間が迷惑するんだよ。存在自体が悪害だな。消えれば良いのに」

 あからさまな挑発。ユウキはカッとなった。

「はぁ!? なんでそんなこと言われなきゃなんないの? てか、クズはあなたでしょ? お兄ちゃんから土岐先生のこと聞いてるんだから」

「賭博は犯罪で、やったことがバレたら最悪逮捕だ」

 奏介は静かに言った。

「お前が無理矢理やらせた人が警察に捕まったら学校や会社は退学だしクビになる。そうしたら家族も犯罪者扱いだ。ネットでも叩かれるだろうし、噂に尾ひれがついてやった以上のことが噂として出回る。前科がついて再就職が難しくなるかもしれない。俺はここまで考えて土岐の人生潰したんだ。自分は殴られても死んでも良いから、過去のいじめの復讐であいつを陥れてやろうってな。……で、お前は? カフェに連れ込んだ奴らのことはそんなに恨んでたのか? ここまで考えてやったんだろうな? そいつらを一生苦しめてやろうと思ってやったってことだよな?」

 ユウキは冷や汗を掻いていた。考えているわけがない。ただ、面白いから、とか、脅して言うことを聞かせようとか軽い気持ちだった。

「何黙ってんだよ。まさか面白そうだからとかそういう理由で連れ込んでたのか? 無差別に他人の人生潰そうとしてるのか?」

「……」

 冷や汗が止まらない。

「そういえば前に、目についたサラリーマンに痴漢冤罪をなすり付けてる女共がいたんだよ。そいつらと変わらないな。通り魔かよ」

 奏介は吐き捨てるように言って、

「そんな奴にクズなんて言われる筋合いはない。クズはお前だ。自分の行いを見直して、出直して来い」

 何も言えない。言い返せなかった。

「そういえばあの店、ヤーさんが関わってるらしいよな。……さっきの男は」

「適当なこと言わないでよっ、さっきから偉そうにグチグチと」

「あぁ? 巻き込んでおいて偉そうにってなんだよ。こっちは危うく犯罪犯すところだったんだぞ。絡まれたくなきゃ、巻き込むんじゃねぇよっ」

「っ……!」

 何を言っても反論が飛んでくる上に、言い返しづらい言い方をされる。そこでふと気づく。

 ユウキはにやりと笑った。

「そういえばさぁ、あなたが賭博してるところ、ばっちり写真に撮ったんだよね。警察に提出するよ?」

「じゃあ、捕まったら津倉ユウキとさっきの小泉って男の名前だしてあることないこと警察に言ってやるよ。それでもいいならやってみろ」

「ひ、卑怯よっ、小泉さんまで巻き込むなんて」

 奏介は鼻を鳴らした。

「よく卑怯なんて言えるな。まぁいいや。今回のこと、お前の兄貴に全部チクったからさ。二人なり家族なりで話し合って出頭するかしないか決めろよ。後、悪い大人には気を付けた方が良いぞ」

「お、お兄ちゃんに……?」

 すぅっと血の気が引く。

「反省しとけよ」

 奏介はそう言って、その場を去って行った。





 一週間後の昼休み。

 奏介は珍しく学食にいた。真崎と一緒だ。

「津倉兄、転校したらしいよな」

「らしいね」

 お互いラーメンをすする。

「仕方ねぇよな。妹逮捕だろ? うちの生徒も結構やってた奴多いらしいし」

「ああ、津倉妹の賭けブログ?」

「そうそう」

 ユウキがあのカフェに関わってることが警察にバレるのにそんなに時間はかからなかったらしい。出頭したのか、警察がとんでもなく優秀だったのかわからないが。

「お、来た来た」

 そういえば会わせたいやつがいる、と学食に連れ出されたのだった。

「お、お待たせっス!」

 駆けてきて、テーブルの横に立ったのは桃華学園中学の制服を来た女子だった。ショートヘアでかなりの小柄だ。肩で息をしている。中学校舎は大分離れているのでダッシュしてきたのだろう。

「よう。こっちが菅谷奏介」

「あ、ども。先輩」

 頭を下げる中学生女子。針ヶ谷ミフユと名乗った。真崎の隣に座る。

「あ、もしかして従妹の」

「ああ、都祭とは知り合いだったんだとさ」

「なんか、ハヤ先輩の暴走を止めてくれたんですよね? いや、ほんとありっす」

 頭を下げる。体育会系なのだろうか。

「いや、都祭さんが物分かりがよかったから、説得は簡単だったんだ」

「そうっすか? まぁ、何はともあれ、津倉先輩の悪事が公になって良かったっすよ」

「確か、中学の頃からやらかしてたんだろ?」

「そうそう、最初はお菓子やジュース賭けたりしてたんすけど、段々お金になってきて」

 ミフユはあきれ顔で肩をすくめる。

「ハヤ先輩って結構流され易いからターゲットにされちゃったんすよね。年下のあたしじゃ説得しても効果薄いし。あ、まさ兄ちゃん、あたしお昼食べてないから奢って」

「自分で買ってこいよ」

「お、ご、り! お、ご、り!」

 耳元で音頭を取られ、真崎は手をひらひらと振った。

「分かったわかった。ほら、六百円やるから」

「やった。行ってきまーす」

 中々騒がしい子だ。

「わりぃな。一言お礼が言いたいって言うんで」

「ああ、大丈夫だよ」

 ふと思う。津倉橋人は転校先でどんな生活をしているのだろう。知ったことではないのだが、今でもあの偽善者の言葉を口にするのだろうか?

車でやって来た小泉との会話後、奏介が声をかけなかったルートの掌編を今日中に更新します……!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自首:まだ発覚していない事件において、犯人が警察へ告白すること。 出頭:既に事件として扱われているもので、犯人が警察へ告白すること。 [一言] 【妄想劇場:ユウキ逮捕のその後】 ユウ…
[一言] なんか、今回はあっさりしてたなぁ。 まぁ、直接虐められてた相手でもなかったからこその温情かな?
[一言] この妹は兄の名前出すまで反省の色一切見せなかったのは本当にヤバいですね。下手したらあの場でヤの字にパクられてた可能性があるのに奏介を責めるのはお門違いでしかないという。 そして妹逮捕後に津倉…
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