学校で賭け事をしている女子に反抗してみた2
翌日、放課後。
ユウキは教室でスマホをいじっていた。
「うーん」
と、隣の女子に声をかけられる。
「ねぇ、ユウちゃん、あの子どうなったの? 漫画家さんにアタックしちゃってた子」
目を輝かせ、わくわくした様子で。彼女も賭けに参加している一人だ。
ユウキは肩をすくめる。
「もう最悪。諦めエンドって奴。今日、ブログで発表するね」
「あー、諦めエンドかぁ。ちょっと残念かも」
彼女は声を潜める。
「逮捕エンドなら面白かったのにね!」
ユウキはクスクスと笑う。
「ほんとほんと。『結婚しないなら死ね』とか手紙で送っちゃったから行けると思ったんだけどなぁ」
「また何かある?」
「えへへ、今考え中。また参加してよね」
「もちろん」
退屈な高校生活のちょっとした刺激。参加者の期待も高い。やはり菅谷奏介を利用しよう。
その日、ユウキは校門前で菅谷奏介を待っていた。兄の話によると、風紀委員に所属しているらしいのだ。
と、校舎の方から歩いてくるオタク系の男子生徒の姿が。
「来た来た」
今日は都合よく一人のようだ。
校門を抜けた辺りで、ユウキは彼の前に飛び出した。
「こんにちはっ」
「あ」
驚いたように目を瞬かせる奏介。
「昨日の」
彼は自信なさげにそう言いかけた。
「あの時はごめんね。ちょっと急いでて。怪我なかった?」
「ああ、うん。特には」
「そっか、よかった。ところで、菅谷奏介君だよね」
「! 会ったことあったっけ?」
慌てたように言って顔を赤らめる。女子に慣れていないのか挙動不審だ。
「うーん、菅谷君は知らないだろうけど、わたし同じ小学校だったんだよ。津倉橋人はわたしのお兄ちゃんなの」
「津倉君の、妹さん? あ、双子の」
「知ってた? うちの学年で双子ってわたし達だけだから有名だったよね」
「そう、なんだ。えーと、わざわざありがとう。謝りに来てくれたんだよね」
「うん、まぁね」
「そんなに気にしないでよ。じゃ、じゃあまた」
奏介がそう言ったので、彼の行く手を塞いだ。
「お詫びにこれ上げる」
差し出したのはとあるカフェのドリンク無料券だった。
「……?」
「知り合いのお店なんだ。ケーキも一皿無料にしておいてって頼むから、よかったら行ってみて」
「え、あ、ありがとう」
戸惑っているようだが悪い気はしないはずだ。
「それじゃ」
ユウキはにっこりと笑って、その場を去った。
日曜日のこと。正午を過ぎてからユウキの元に連絡が入った。
「来た来た」
リビングで兄とテレビを見ていたユウキはスマホを操作する。
『菅谷様、来店しました』
メッセージはそれだけだ。
「どうした? ニヤニヤして」
「ちょっとね。わたし、出かけて来るね」
身支度を整え、向かうは奏介に知り合いの店と伝えたカフェだ。
(都祭の後を継いで、ストーカーになってもらおっかな。目指せ逮捕エンドってね)
駅近くのオフィスビル。入り口から地下へ下り、鉄の扉につけられている暗証番号のパネルをタッチするとすぐに開いた。プレートには『カフェルル』と表記されていた。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのはタキシード姿の男性である。薄暗い廊下が奥へ伸びている。
「で、彼は?」
「奥へ通しました。帰ると言っていますので、津倉様がお相手をした方がよろしいかと」
「オッケー」
廊下を歩き、奥のドアを開く。
薄暗い店内はほとんどカフェと変わらないが、それぞれのテーブルを数人ずつ男性が囲んでおり、麻雀をしている。別のテーブルでは古風にも花札が行われている。ここは賭場といい、違法賭博が行われる場所だ。
「いたいた」
奥のソファ席で縮こまっているのは菅谷奏介だ。この異様な雰囲気に怯えているようだ。
「菅谷君っ」
彼の目の前には紅茶とケーキが置かれている。
「つ、津倉さん!? あ、あの、ここは……カフェなの!?」
泣き出しそうな顔で聞いてくる。
「そうそう。そんな怖がらなくても大丈夫だって。お金をかけて、麻雀したり、花札やったりする娯楽施設だから」
「え」
彼が青ざめる。
「か、帰っても良いかな? 俺、ちょっと」
「まぁまぁ、二、三回やっていこうよ。じゃあ、トランプにしよ。お互い千円だけ賭ける、でどう?」
「それって、やっちゃ行けないことなんじゃ」
「かもねー。でももう菅谷君も同罪だから」
「あ……」
「このお店に入った時点でね。だから楽しまないと」
それから奏介は流されるままだった。トランプ賭博の後に麻雀や花札にも手を出させる。
そして、二人揃って賭場を出た。奏介は青い顔をしてうつむいている。
「大丈夫だってバレないよ」
「で、でもっ」
「そういえばさ、菅谷君が賭け事やってるところ何枚か撮ったんだよね。記念に」
「な!?」
「もし、これが出回ったら多分退学になるんだけどー……。どうしよっか?」
「や、やだよっ、俺は津倉さんに言われたから」
「じゃあさ、ちょっとやって欲しいことがあるの、良い?」
内容は適当なマイナーアイドルへのストーカー行為だ。ファンとして過激な行動を繰り返させる。
提案すると、奏介は文句も言えず頷いた。
(どこのアイドルにしよっかなぁ)
最近売り出し中のアイドルでもターゲットにしようか。そう考えていた。
その夜。
兄とリビングのソファにて。
「なんでそんなにくっついてくるんだ」
「お兄ちゃんの隣が良いからだよー」
と、テレビでニュースが流れ始めた。
『次のニュースです。桃中駅前の賭場が摘発されました。中にいた従業員及び客を逮捕したとのことです。また、この施設を利用していた関係者を捜索すると共に』
ユウキはその場で固まった。
「え……?」
テレビに映ったのはついさっきまでいた賭場カフェ『カフェルル』だったのだ。
※この物語は完全なフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。また、作者独自の解釈も含まれております。
ご意見は大歓迎です!




