謎のヤンデレ系ストーカー女の後ろ楯に反抗してみた2
連火と真崎を待機させていたファミレスに着いて後ろを確認すると、やはり逃げずに付いてきていた。素直である。
二人と合流し、ハヤと連火を向い合わせで座らせる。
「じゃあ、俺から。さっきも言いましたけど、菅谷奏介です」
「おれは針ケ谷真崎だ。菅谷と同じクラスで連火の……まぁ、友達だ」
そして、奏介と真崎は二人の自己紹介のために黙った。
しかし、
「……」
「……」
二人ともうつむいたまま、口を開こうとしない。
連火はだらだらと汗をかき、ハヤは小刻みに震えている。
「連火、見合いじゃねぇんだから、名前くらい名乗れって」
「う、うっス。壱時連火っす。よろしくお願いしまっスっ」
「よろしくじゃねぇだろ……」
真崎は呆れ顔で言う。
「都祭さん、ここまで付いて来たんですし、あなたも自己紹介しましょう」
「と……とま……つ……は、はや……ですっ」
「都祭ハヤさんだそうです」
奏介が言って、そしてまた四人のテーブルがシンとなった。
「都祭さんはともかく連火、お前は喋れって」
「そ、そっスよね! えーと、なんでオレなんかに、その、結婚とかって。あ、あの、初対面っスよね?」
ハヤは震えながら頷いて、
「ま……漫画、『フラデ』が大好きで、それで作者の人も一緒に……すきに、なっちゃって、だ、だって! 四条先輩とは結婚出来ないですしっ」
顔を上げたハヤの顔は湯だっているかのように真っ赤だ。
四条先輩は『フラクタデイズ』のメインキャラである。
「あ、ありっス」
お礼を言うタイミングではない気がする。
「はあ。じゃあおれから聞くけど、都祭さんはなんでこういう過激な手紙や婚姻届けなんかを送ってきたんだ? 婚姻届けはともかく、この手紙の内容は脅迫だぞ」
真崎がテーブルの上に赤文字の例の手紙を出す。
ハヤはびくりと肩を揺らし、
「……やっぱり、そうなんですか?」
「殺害予告ですからね」
奏介はそう言って、
「都祭さん見てると、こういうことやらなさそうですけど」
「私、凄く引っ込み事案で、やりたいことがあっても諦めることが多いんです。今回は友達が励ましてくれたから……アピールの仕方は全部友達が教えてくれました」
「その友達、やべえな」
本気なのか、ハヤをからかっているのか。
「じゃあ、結婚しなきゃ殺す、なんてことは実際には思ってないってことでいいですか?」
ハヤは頷いた。
「大袈裟に言った方が効果あるって言われたんです。手紙も婚姻届けを送るのも全部友達に提案されて」
真崎の言う通り、やべえ友達で間違いなさそうだ。
と、スマホの着信がなった。
「あ」
ハヤはスマホの画面を見、眉を寄せた。
「もしかしてその友達ですか?」
「いえ。……止めた方が良いって言ってた中学の後輩からです。私がこういうことをしてるって知ってから頻繁に連絡くれて。この子の意見が正しいんですかね」
「その後輩さん大事にして下さい」
奏介はそう言って、少し考える。気弱な子をそそのかして犯罪まがいなことをやらせるとは。その様子を見て笑っているに違いない。
貴嶋と同じ輩だろうか。
「あ、出なくて大丈夫ですか?」
「……ちょっと出てきます」
ハヤはそう言って、席を離れた。
真崎を見ると、腕を組んでいた。じっとハヤの様子を見ている。
「どうしたの?」
「いや、気になることがあってな。うちの従妹が中学生なんだけど」
「へえ、近くに住んでるの?」
「近いっちゃ近い。それで、去年までヤバい先輩がいたらしい」
「どんな?」
「後輩とか同級生を利用して、賭け事してたんだってさ」
「か、賭け事?」
「喜嶋だっけ? あいつみたいに誰かをそそのかして成功するかどうかで金かけてたらしい」
「は? 中学生が学校で?」
「賭ける側に誘われたらしいんだけど、色々理由つけて断ったんだと。まぁ、学年違うから詳しくは分からないってさ。なんとなーく今思い出して」
「喜嶋は頭弱かったけど、それが本当ならヤバいね」
「さらっと喜嶋ディスるのな」
真崎が苦笑を浮かべる。
「まぁ、とにかく、うちの従妹は桃華学園中学だから、うちの高校の生徒だろうな」
「まぁ、今回注意して都祭さんが止めてくれれば、それ以上関わることじゃないよね」
「風紀委員的には良いのか?」
「問題に上がってないからね」
噂だけでわざわざ首を突っ込むのはどうかと思うのだ。
「あ、あの兄貴達。オレは告白されたってことっスかね? どうしたら」
「普通にファンに接する感じで良いだろ。あんまり仲良くなっても他のファンに失礼だ。過激な手紙を送ればお近づきになれるとか思う奴いそうだしな」
「そ、そっスね。うっス。マジで兄貴達には頭上がらねぇっス」
と、ハヤが戻ってきた。
「すみません、ちょっと話し込んじゃって。あの、色々すみませんでした。もう壱連先生に迷惑はかけません」
「わ、分かればもう大丈夫っス。こ、これからも、都祭さんに読んでもらえるとうれしいっス」
連火が頭を下げると嬉しそうに、しかし控えめに彼女は笑った。
「都祭さん、その励ましてくれた友達ってクラス同じですか?」
「あ、いえ、違います。でも、中学の同級生です。……後輩にも言われたんですけど、その子、あんまり良い噂がないんです。わたしには優しいんですけど、後輩は関わらない方が良いって言ってました」
「なんか当たりっぽいな」
真崎が唸る。
「その人、不良なんスか?」
「いえ、普通の子です。ただ、中学生の頃に悪いことをして先生に叱られて、しばらく休んでた時期がありました。詳しくは分かりません。……あんまり友達いないので」
ハヤは申し訳なさそうにする。
「その人の名前聞いても良いですか」
「津倉さんです。津倉ユウキさん」
奏介は無表情になった。
「……へぇ、津倉か」
「あの、壱連先生、応援してます。お二人もすみませんでした。それでは」
これから後輩に会うということで、彼女は帰って行った。
「めっちゃ話が分かる子だったな」
「ま、真崎の兄貴、奏介の兄貴はどうしたんスか」
真崎は息をつく。
「まさか、津倉って」
「さっき言ってた奴の双子の妹。そっかそっか、あいつ、妹が人を利用して賭け事やってんのに偉そうに良くないと言ってたわけだ」
「ひっ!」
連火が顔を引きつらせる。奏介の手の中でスマホがみしみしと音を立てたのだ。
「おいおい、ケースひび入ったぞ」
奏介は目を細め、薄く笑った。




