表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/392

昔の教え子の問題児に教育的指導をすることにした1

「うぐっ、ひっく」

 目の前で泣きじゃくる男子児童に対し、心を鬼にする。

「泣いて許されることじゃないわよ」

「やって、ないです。石田くんがカッターを向けてきたから怖くなって」

「結果的に石田くんが怪我をしたんでしょ!? 何言い訳してるの?」

「ひっ」

 男子児童は喉の奥から声を漏らした。

「親御さんに連絡しますからね。その前に、ちゃんと認めて石田くんに謝りなさい」

「僕じゃないですっ、カッターは石田くんが持ってきて」

「うるさいっ、やられた方の気持ちにもなりなさいっ」

 当時、石田春木は土岐のお気に入りだった。イケメンだし、少し悪ガキっぽいところも良いと思っていた。その石田が怪我をさせられたのだ。

 彼、菅谷奏介にはきちんと教育をしなくてはならない。

「これは犯罪よ。あなたが大人だったら警察に捕まるのよ」

「なん、僕、上履きとかも隠されて、殴られたこともあって」

「一体なんの話をしているのっ」

 バンッと机を叩く。

「うっ」

「認めるまで、帰しませんよ」

 その後、三時間ほど説教をしてようやく認めた菅谷奏介は石田に謝罪をし、この件は丸く収まったのだった。



 菅谷奏介が悪事を働いた当時のことを思い出し、小学校教師十五年目、三十代後半になる土岐ゆうこは彼女の手の甲を叩いた。

「痛っ!?」

 叩かれた伊崎詩音はこちらを睨み付けてくる。

「教えたところが出来てないじゃない。ダンスをする役柄を嘗めてるんじゃないの」

「あなたの言った通りにやりましたけど」

「教えたように出来ていないと言ってるのよ」

 非常に生意気な態度である。

「まぁ、良いわ。今日はここまで。それにしてもあなたの才能のなさは格別ね。それと先生に対してもう少し従順な態度をとったら?」

 詩音は土岐を睨み付けたまま、無言で背中を向け、体育館を出て行った。彼女は菅谷奏介と仲がよかった。彼はこの学校に通っているらしい。また何か事件を起こそうものなら制裁が必要だろう。

 しかし、菅谷奏介より今は反抗的な態度をとる伊崎詩音の教育優先だ。



 翌日のこと。

 五限目の休み時間に出勤した土岐は挨拶のため、職員室へと向かっていた。

 すると、

「!」

 前方から菅谷奏介が歩いてきたのだ。小学生の頃からまったく変わっていない。気弱そうな見た目の癖に石田に怪我をさせた問題児。そして先日、またしても石田と関わって、彼が逮捕されてしまったのだ。

 土岐は通りすぎようとする奏介の前に立ちはだかった。

「待ちなさい。あなた、菅谷君でしょう?」

 驚いた後に不思議そうにこちらを見てきた彼だが、

「!」

 表情が歪んだ。

 土岐だとわかったのだろう。

「よくのうのうと学校へ通えるわね」

「え……あの」

「石田君に罪を擦り付けて逮捕させるなんて卑劣極まりないわ」

「ち、違いますっ、罪を擦り付けるなんてそんな」

「いいえ、間違いないわ。……校長先生に頼んで処分してもらわなきゃ。とにかく、問題を起こすのはやめなさい。高校生にもなって昔と何も変わらないわね」

 土岐はそう言い捨てて、その場を去った。



 その日の放課後、土岐は校内を歩いていた。もうすぐ授業が終わり、生徒達が廊下に出てくるだろう。

 土岐は決意していた。校長に問題児、菅谷奏介の悪行を話し、処分を強く求めることにしたのだ。

「早く手を打たないと、石田君の二の舞よ」

 カッター切りつけ事件はニュースにまでなったのだ。学校名や子ども達の名前はもちろん出ないが、切りつけた児童がいたとしてテレビで報道された。菅谷奏介がいるだけでこの学園は危険だ。

 と、職員室へ向かう途中、一年の女子更衣室の前を通りかかったのだが、

「ん……?」

 更衣室のドアが内側からトントンと叩かれていた。

 何かの手違いで閉じ込められでもしたのだろうか。

 何気なく土岐は近づき、更衣室のドアを開けた。窓のない空間で、暗闇にぼんやりと見えるのは並んでいるロッカーだけ。

 音の主が見当たらない。

「ちょっと、何をしているの?」

 電気をつけようとしたその瞬間、壁に伸ばした手を掴まれた。

「きゃっ」

 悲鳴をあげる前に引っ張られ、床に倒される。

「あっ」

 痛くはなかった柔らかい素材の敷物が敷いてあるためだ。

「うう、何……」

 見上げると、入り口の前に髪の長い女子生徒が立っていた。顔は非常によく整ってて、かなりの美人だった。冷たい瞳がこちらを見下ろしている。

「え、誰」

 彼女は制服姿だが、ブラウスの前がはだけ、ボタンが取れかかり、つけている薄水色の下着が見えてしまっている。

「……! やっ!?」

 彼女が土岐に何やら布を投げつけてきたのだ。

 それから、薄闇に浮かぶ彼女がにやりと笑った。

 カチッという音がした瞬間、


『きゃああああぁっ』


 ノイズ混じりの悲鳴が辺りに響き渡った。

「え、え……!?」

 少なくとも目の前の彼女の悲鳴ではないだろう。

「なんなの、あなた」

 女子生徒はくるりと向きを変えると、更衣室の電気をつけ、ドアを開け放った。

 廊下にはすでに授業終わりの生徒や教師達が行き交っている。

 飛び出して行った女子生徒はそばにいた教員の元に駆け寄って、土岐を指で指す。

 前を隠しながら、怯えた表情で。

 ざわざわし始める生徒達。

 そしてようやく気づいた。更衣室内には女子の下着が散らかっており、土岐は黒のパンツを頭に乗せていたのだ。



 翌日の、桃華学園での会話。

「え!? 演劇部のせんせーが!?」

「そうそう、女子更衣室荒らして女の子襲ったんだってっ」

「うわぁ……どういう趣味よ」

「やってないとか言ってるけど、見た人たくさんいるんだから。その女の子もブラウスとか破られてたらしいよ。可哀想だったって。でもすぐ逃げちゃって名乗り出てきてないみたい」

「うちの高校生徒多いから……でもさぁ、私ですなんて言えないよね。怖すぎるし恥ずかしいし……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 精神的な攻撃から仕掛けてきましたね。 とりあえずここから土岐が破滅への一方通行を向かうのが楽しみです。 それにしてもこんな頭の構造をしているやつがよく15年も教員やってこれたなと。
[一言] 珍しく、冤罪を作り出して嵌めているが(石田ほかは罠を張ったので冤罪という訳ではない解釈) 意趣返しなんだろうな。 しかしさあ。このバカ。 まだ奏介をクズと思い込んでどうこうは1光年譲ってわ…
[一言] 仮にも教師が教え子のこと彼氏選ぶ見たく顔で判断すんなよf(^_^; ショタコン教師だったんだね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ