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準備

 自宅マンションへ向かう道、肩を落として歩く詩音を気にしていた奏介はため息を吐いた。

「無理矢理聞き出して問い詰めたのは悪かったよ」

「奏ちゃんのバカ。わたしの努力が水の泡だよ。これじゃあ、一週間、ただ土岐先生に罵倒され続けただけじゃんっ」

「さっさと俺に言えばこんなことにならなかっただろ。お前がやられた分も返してやるよ」

 詩音は両手で顔を覆った。

「もう何も言わないよ! ただ人殺しするのだけはやめてっ」

「するわけないだろ。まったく」

 ちらりと横の詩音を見ると、少しだけくまが出来ていた。眠れてもいないのだろうか。一体どんな仕打ちを受けていたのだろう。

「しお」

「……何?」

「ありがとな。俺のために一人で我慢してたんだろ?」

 詩音の瞳が一瞬だけ潤んだ。

「奏ちゃん今、楽しそうだからさ。あんまり昔を思い出して欲しくないんだよ。お節介だって分かってるけど」

「その通り、お節介過ぎる」

「……はい」


 そんなやり取りをした翌日の昼休みのこと。

 奏介は風紀委員室にいた。いつものランチメンバーだがモモと水果の姿はない。

 詩音がげっそりしていた。

「しおちゃん、大丈夫?」

 ヒナが顔を覗き込む。

「朝練がちょっとキツくて」

「詩音、いっそ役を下りちゃえば? 後二週間くらいあるでしょ? 代役くらい見つかるわよ」

「……ここまで来てそれはダメだよ。さすがに迷惑かかるよ」

 もっともだ。

「で、菅谷は先に仕掛けんのか?」

「しおの話を聞く限り、俺に敵意向けて来そうだからね。まず軽く先制攻撃してあっちの出方を見ようかなと思う」

「はぁ……」

 詩音が深いため息をつく。

「諦めよ、しおちゃん」

「そうそう、あいつはもう止められないわよ」

 奏介は少し考えて、

「僧院、橋間。申し訳ないんだけどちょっと頼みたいことがあるんだ。良いか?」

「何々、闇討ち?」

 ヒナが言うと、わかばが軽くヒナの頭を叩く。

「買い物だ」

 奏介は五千円札二枚をテーブルに置いた。

「なんだ、女子限定か?」

「あぁ、俺や針ケ谷だとちょっと買いづらいもので。……今回は色んな人の手を借りることになって悪いな。あ、しおは別ね。奴の存在を隠してた罰としてあの人にちゃんと頼んで来いよ」

「はい。わかってます。何も言わずに協力します」

「あの人?」

 ヒナが問うが、奏介と詩音に曖昧にされてしまった。

 五千円を受け取ったわかばがそれをひらひらと扇ぐように揺らす。

「ていうか、別に改まって頼まなくても協力してあげるわよ」

「みずくさいよ? 菅谷くん。それで、何を買ってくればいいの?」

 奏介はゆっくりと口を開いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「もう何も言わないよ! ただ人殺しするのだけはやめてっ」 >「するわけないだろ。まったく」 奏「しお、後でオレの部屋な。オレへの認識、あらいざらい吐いてもらうぞ」 詩「ひうっ!?」 奏(…
[良い点] >>もう何も言わないよ! ただ人殺しするのだけはやめてっ ある意味で安定した信頼感(笑) ifでなくて本編でヒロインが詩音になっても良いのですよ?w
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