人の迷惑を考えない中学生after2
勇気母は拳を握り締め、ブルブルと震える。
「うちの子は怪我をして意識不明だったんですよ!?」
「だから、立ち入り禁止エリアに入ったからでしょ? 危ないって行ってる場所に入ったらそうなっても仕方ないです。同情の余地なんか少しもありません。自業自得です。悠平と勇気君の立場は入れ替わっていてもおかしくないでしょ」
「ど、同罪ですって? 怪我をしたのに」
奏介は悠平の頭に拳を置いた。
「怪我をした怪我をしたってしつこいですね。こいつも相当バカなことをしましたけど、お宅の勇気君も同じです。うちの悠平や他の友達に対して裁判を起こすとか言っているらしいですが、その前に遊園地の関係者やレスキュー隊、警察にお礼と謝罪でしょう。どれだけ迷惑かけたと思ってるんですか」
「お、お礼なんて。子供を助けるのは当たり前」
「税金の無駄遣いですね」
「……え?」
「警察の方は国民の税金がお給料なんですよね。警察から出る救助隊の方々もそうです。大人が払ってる税金をこんな自業自得の悪ガキ達のために消費されてると思うと頭が痛くなりますよね。やらなくても良いことをやらされてる警察の方々が可哀想です。もう一度言いますけど、自分から立ち入り禁止エリアに入った悪ガキを助けることは、本来、やらなくて良いことです」
「くっ……」
「その様子だと、勇気君を叱ってないのでは? 全部悠平達のせいにして、被害者気取りですか」
「勇気は……勇気はいじめられてたんですよ!? だから無理矢理連れていかれて」
奏介はため息を一つ。
「勇気君、学校の屋上の貯水タンクの管理室でお菓子食べてるところを見つかって、親呼び出しになったことがあったそうですね?」
勇気母の表情が固まる。
「え……」
「後、学校の真冬のプールに侵入して、これまた怒られたとか。その時は悠平も一緒だったんだっけ?」
「う、うん」
悠平が勇気母の様子をうかがいながら頷く。
「な、なんでそんなことを」
「調べました。勇気君がどんな子なのか気になったので。随分とやんちゃのようですね」
「はぁ!? そんなことして良いと思ってるんですか!? プライバシーの侵害じゃないですかっ」
その場がしんとなる。少々声が大きくなってきた。早めに決着をつけなければさらに揉め事が起こりそうだ。
「プライバシーの侵害と言われても、あなたは悠平を訴えるつもりなんでしょう? 堂々と宣戦布告しといて、こっちが黙っているわけないじゃないですか。訴えてきた相手の身辺調査くらいするでしょ。弁護士と相談もしなくちゃいけないし。勘違いしてるみたいですけど、裁判を起こしたからってそっちが勝つとは限らないですよ? まぁ、自信満々のようなので、勇気君がいじめられてた決定的な証拠でもあるんでしょうね」
「っっ!」
「あ、なくても捏造するのかな? やりそうですね、あなたは」
「このっ」
勇気母が我を忘れて怒鳴ろうとした時、
「里っ!」
母親の後ろから少年の声が聞こえた。
「あ」
悠平が目を見開く。
パジャマ姿の少年だった。ぼんやりと見覚えがあるが、悠平の様子からして彼が麻生勇気なのだろう。
「な、勇気、病室にいなさいって」
勇気は母親を無視して、悠平に駆け寄った。
「ごめんっ、オレのせいで」
勢いよく頭を下げた。
「オレのせいで死ぬとこだったんだよな!? いつもの探検のつもりでさ、こんなことになると思わなくて」
「麻生」
悠平は浮かんできた涙を腕で拭う。
「ほんと、だよ。お前、だからってずっと意識不明になることないだろ!?」
「ごめん。……気づいたら一ヶ月以上経ってるとか信じられなくて、怖くて引きこもってたんだ。でもやっと自分がやったことがわかってきて。なぁ、他の奴らは」
「……皆元気だ。でも、色々あったから」
「元気……そっか、また全員で顔合わせよう」
感動の再会を睨み付け、歩み寄ろうとする勇気母の前に奏介が立った。すると、
「そこを退いて下さい。勇気に悪い影響が出ます」
「勇気君、良い子じゃないですか。状況が母親より分かってますね」
「あの子はまだ子供で何も分かってないのよっ」
「子どもを使って裁判で金を踏んだくろうとしてる奴は黙ってて下さい」
「! ……何を言ってるんです? 私は、勇気のために」
「お母さん」
勇気が困ったように母親を見る。
「ごめん、危ないところに入ろうって言ったのオレなんだ。だから、お金のために裁判やるのは止めてよ。悠平達は友達なんだ」
勇気母は唇を震わせたかと思うと、その場に座り込んでしまった。放心状態。味方のはずの息子に言われたのでは無理もない。
「さて」
奏介は二人に向き直る。
「お前ら、今回のことで反省したか?」
悠平はこくりと頷いたのだが、勇気は眉を寄せた。
「ああ? なんだよ、お前。いきなり偉そうに」
奏介は彼の頭に手を置いて、指に力を込めた。
「いだだだだっ!?」
「偉そうにか、そういえばお前、意識不明で運ばれたんだったな」
奏介は勇気に顔を近づける。
「俺はあの時、救急車や警察を呼んでやったんだよ」
「え」
「悠平達が助けて欲しいって言うから呼んでやったのになんだ、その態度は? なめてんのか?」
「あ、や……その……」
「お前、調子に乗ってんじゃねぇぞ」
悠平が慌てて、止めに入る。
「麻生っ、菅谷さんは命の恩人だし、オレの話を聞いてくれてさ、おばさんのことも説得してくれて、だから」
最終的に悠平が勇気の頭を強引に下げさせたのだった。
○
病院からの帰り道、 奏介は悠平と並んで歩いていた。
「まったく、親子そろってどういうことだよ」
「麻生、喧嘩っ早いから。気にしないでよ。オレがちゃんと言っとくからさ。ありがとう、菅谷さん」
「あぁ。もうバカなことするなよ」
「…………うん。もう絶対しない」
神妙な面持ちで頷くものの、悠平の表情はどこか晴れやかだった。
ついに100部……!
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