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箱庭

入り口が開いている!

味方の誰もが待ち望んだ、その事実に気がついている者はオレ以外には居ないようだった。

皆それどころではないようだ。

声を張り上げて味方にそれを伝えようとするが、振り返る者は誰も居ない。


しかも、見ると入口は再び閉じようとしていた。

仕方が無い。オレだけでも・・・。

オレを乗せている翼獣に入口に向かってくれるように頼む。言葉が通じると良いんだけど・・・。


「えっ!入り口が?あー!本当だ!ジューシさんに伝えなくっちゃぁ」


翼獣が屈強な見た目に似つかわしくない、間延びした声を上げる。

この口調は聞き覚えがある。前にギムギムと戦っていたオーランドという獣だ。


「もしかして、オーランド?」

「そうーですよぉ。ジューゴさん、覚えてくれてたんですねぇ」

「あぁ、いや、姿が変わってたから声を聞くまで分からなかったよ」

「あれから、何度か進化したんですよぉ」


そんなやり取りをしていたが、それどころではない事に気が付く。


「あっ、そんなことを言ってる場合じゃない!入り口が閉じてしまう!オーランド、急いであそこへ」

「え?ジューシさん達に伝えなくていいんですかぁ?」

「そんな余裕はなさそうだ。オレ達だけでも行って、入り口が閉まらないようにするべきだ」

「あ、なるほど。それじゃあ、急ぎますよぉ!」


オーランドの背の上で少しずつ閉じようとしている入り口を睨む。

オーランドは急いでくれているが、間に合うか微妙な所だ。

ようやく入り口の前に着いた時には人一人が何とか入れる程度しか開いていなかった。

何とか閉じるのを止めて開こうと、空間に突如現れた裂け目のような入り口の淵に手を掛けるが、手ごたえが無い。

普通の扉の様に手で押さえておけるものではないようだ。何とか閉じるのを阻止しようと色々と試したが、どうすることもできない。


「どうしましょうジューゴさん・・・やっぱり誰か呼んだ方が良いんじゃ・・・」

「いや・・・そんな暇はないって」

「でも、このままじゃ・・・」

「お・・・オレだけでも中に入る。オーランドはジューシ姉ちゃんに伝えてくれ」

「え。危ないですって!」

「もしかしたら内側からもう一度、入り口を開くことが出来るかもしれないだろ?ジューシ姉ちゃんと、出来ればイチ兄に伝えてくれよ。オーランド!」


そう言ってオレは入り口に飛び込んだ。

背後からの「わ、分かりました!必ず・・・」というオーランドの声が遠くなる。




気が付くとオレは薄暗い回廊に倒れていた。

石造りの広い回廊だ。歩を進めると、自分の足音が反響して響く。


「六花姉さんの言う事が本当なら、ここが宇宙人の住処ってことになるのかなぁ?想像と少し違うけど・・・あ、いや、異世界人だったかな?」


飾り気のない回廊を進むと扉に突き当たった。

恐る恐る扉を開く。


「いらっしゃいませ。ジューゴ様」


オレを出迎えた声は女性のものだった。聞き覚えがある。

部屋の中心に慎ましやかな女性が立っている。キュレーターだ。

何処からともなく現れて、箱庭についての知識を与える謎の存在。彼女も異世界人なのだろうか。


「どうやら紛れ込んだのは一人のようですね。どうですか?必死になって呼び込んだのが、こんな頼りない坊やだけだったというのは・・・」


キュレーターが部屋の一角に視線を流す。

誘われるようにその方向を見ると、壁に昆虫標本の様に磔になっている立花さんが居た。


「ふ。心強いね。ジューゴ君は意外とやる子なんだよ」

「そうですか。その過度な期待が自分自身を死に追いやっているというのに反省は無いようですね」

「期待じゃないさ。確信だよ」

「気に入りませんね」


呆然と2人のやり取りを眺めていたが、いつの間にかキュレーターの姿が消えている事に気が付いたオレは反射的に加速能力を発動した。

加速しながらキュレーターを探す。

振り返るとオレに向かって大剣を振り下しているキュレーターの姿が有った。

躱せない!と判断したオレは盾で受け止めるが、キュレーターの華奢な姿からは想像も付かない強撃に盾ごと吹き飛ばされてしまう。


「ふむ。反応だけは良いようですね。ですが、今程度の攻撃でその様では・・・」


品定めをするようにオレを見るキュレーターが手にしていた大剣をオレに投げつけてきた。

それを叩き落として安心したのも束の間、剣や槍が次々と飛んでくる。

見ればキュレーターは何もない所から手品のように武具を生み出して投擲している。


「ほらほら、逃げてばかりでは勝てませんよ。反撃しないのですか?つまらないですね」

良いように言われているが腹を立てる暇も無い。

こちらは加速能力を使って、やっとの事で躱しているのだ。

反撃する余裕はおろか、このままだと限界が来て加速できなくなってしまう。

そうなったら立花さんの様に壁に磔にされてしまうだろう。

なんとかして立花さんだけでも助けれないかと考えた時だった。

キュレーターの攻撃が止んだ。


「あら、もう尽きてしまったようですね。立花さんとの戦いで思ったよりも力を使っていたのでしょうか」


キュレーターはそう言うと何ごとも無かったかのようにオレの横をすり抜けて、部屋の奥に進む。部屋の奥には樹木のようなものが立っていた。

オレが知る樹木とは違うが、それ以外に形容しようがない。

いくつか果実のようなものをぶら下げているのも、それを樹木のようだと印象付けていた。

キュレーターが、その果実の一つに手を伸ばした瞬間、「止めろ!」と声が響いた。

それは立花さんの叫びだった。


「あら、それはもうこれ以上、自分たちの立場を不利にさせないための懇願ですか?それとも・・・先ほどから訴え続けている訳のわからない主張でしょうか?」


キュレーターが果実をもぎ取る。と、同時に立花さんが悔やむように項垂れる。


「ま、どちらにしても私が、それを受け入れる理由は有りませんが」


そう言って果実を一齧りして、残りは不要とばかりに床に投げ捨てる。

そして何もない虚空に手をかざして、なにやらブツブツと呟いている。

何をしようとしているのか分からないが、オレはこの隙に立花さんに駆け寄り、立花さんを串刺しにしている槍に手を掛けた。


「大丈夫ですか!?今、助けますから」

「あぁ、ありがとう。なんとかして、もう一度、扉を開ければいいんだけど・・・」

「どうすれば扉を開けるんですか?」

「ボクが箱庭システムの所に行ければいいんだけど・・・」


立花さんはそう言って、キュレーターの背後にある樹木のようなものを指さした。

キュレーターの方を見ると、いつの間にかキュレーターの周りに鎧を着こんだ兵士たちが立っていた。そのまま見ていると、キュレーターがかざした手から新たな兵士が生み出される。キュレーターは兵士の数を更に増やそうとしているようだ。


「一体、どれだけ召喚するつもりなんだ?」

「召喚じゃない。何もない所から生み出しているんだ。その為に生まれるはずだった世界を犠牲にして・・・」

「・・・犠牲?」

「そう・・・キュレーターが口にしたのは、箱庭の元となる生まれたばかりの異世界だ。彼女は、それを取り込むことで無から有を生み出す力を行使している」


12体目の兵士を生み出した所でキュレーターは「ちょっと張り切り過ぎましたかね」と言って作業を打ち切った。

そして、床に落ちている果実を足で蹴って、こちらに寄越す。


「立花さんもそれを摂取しないと。ほら、床に這いつくばってそこに落ちている朽ちかけの世界を平らげて下さい。そうすれば、まだ戦えるでしょう?」


そう言われた立花さんは憎々しげにキュレーターを睨むだけで言う通りにはしない。キュレーターは「気に入りませんね」と言うと、兵士たちにオレ達を殺すように命じた。


ガシャガシャと鎧を鳴らしながらオレ達に駆け寄る兵士たち。

その動きは精細さに欠けるが、無機質に恐れを知らない兵士たちは数も多いせいもあって厄介だ。


「さて、思い直すことは出来ませんか?アニューヤ・・・いや、人間に身を窶した時の名は立花でしたか。人と一緒に居る時間が長すぎるせいで貴方はおかしくなってしまったのです。私が本国と掛け合って、少し長い休暇を取れるようにしてあげましょう。どうですか?」


キュレーターが立花さんに問いかける。

オレと立花さんは兵士たちの相手で手一杯だというのに、キュレーターは小さいテーブルとイスを出し、ティーセットでお茶を楽しみながら、片手間にオレ達が兵士たちを倒すたびに補充している。


「レーニア。おかしいのはボク達の方だよ。自分たちでは何も生み出せず、常に犠牲を必要としている。君は人と関わりあっていて、それに気付かないのかい?」

「良い面を見過ぎなのです。貴方は。人類だって我々以上に犠牲を必要としています。そして加速度的に進化を続けている。その速度は驚異的と言ってもいい。だから、滅ぼさねばならないのです。我々の脅威となる前に。この世界の資源を食いつぶす前に」


いつの間にか偽名ではなく本名でお互いの主張をぶつけ合う立花さんとキュレーター。


「だけどね、レーニア。ボクは見たくなってしまったんだ。ボクの友人たちが、この先、どんなことを成し遂げるのか。だから、滅ぼすなんて見過ごせない!それに、同じく可能性を秘めている箱庭を使い捨てにする事も!」

「その可能性の先には破滅が待っているのかもしれないのにですか?」

「それを決めるのはボク達じゃない」

「気に入りません。貴方はおかしくなってしまっている。そんな貴方を見るのは忍びない・・・もう消えて下さい」


オレ達を滅ぼすというキュレーター。

オレ達の可能性とやらに賭けてくれている立花さん。

この場に居るのがイチ兄や他のランキング上位者だったら、その力を示してキュレーターを黙らせる事も出来るだろうが、今のオレではキュレーターが生み出す兵士たちを退けるのが精一杯だ。

しかも、先ほどまで生かさず殺さずと言ったペースで兵士を生み出していたキュレーターも本腰を入れて、次々と刺客を生み出し続けている。


「殆どの戦力を本国に送ってしまった時を狙ったのは上策でしたが、ここまでのようですね」


元々、深手を負っていた立花さんが膝をつく。


「さて、先ほどまでのやり取りを聞いていましたね?ジューゴさん。人類代表で何かコメントしてくれませんか?これで終わりにするのは何とも味気ないですから」


不意にオレへの質問が飛ぶ。

それと同時に周りの兵士たちが操り糸が切れたようにガクンと動きを止める。


「ほら、何か言ってくださいよ」

「何かって・・・何をだ・・・」この暇に乱れた息を整えながらオレが答える。

「そうですねぇ・・・例えば、狂ったように進化を続ける自分たちに何か違和感など覚えませんか?周りを見渡してみて下さい。同じ地球上に有って、そんな異常な生物はいないでしょう?」

「別に、異常だなんて思わない。それに、進化なんて仰々しいものはオレは知らない。

でも、負けっぱなしの相手に勝ったり、目標にしている人に少しでも近づいたと感じた時は何か・・・いいなって思う」


オレの回答に不愉快そうな顔をするキュレーター。

「くっくっ」と笑いを堪える立花さんの態度を見て、更に不快感を募らせる。


「さて、外の様子はどうでしょうか・・・そろそろ決着がついているでしょう。なにせ12体ものガードナーを送り込んだのですから・・・」


話を逸らすキュレーター。

何もない空間に四角い枠が浮かび、外の様子が映し出された。

キュレーターの言う通り、すでに決着がついた後のようだ。

静寂が流れる中、映像は勝者を探して移動する。

そのうち、人影が映し出され、徐々にそれが鮮明になってゆく。

それはイチ兄とオーランドだった。映像のみで2人が語っている言葉は届かないが、どうやらイチ兄がオーランドを労っている。そう言う風に見えた。

その後も映像は周囲を移し続ける。そこには安堵の表情を浮かべる仲間たちとモノ言わぬガラクタと化した敵・・・ガードナーの姿が有った。


「・・・おのれ・・・」


キュレーターが再び箱庭システムに向かって歩き出す。

そして、再び果実に手を伸ばす。恐らく再び果実を口にして強力な戦力を生みだし、オレと立花さん、そして外の仲間たちを一掃するつもりなのだろう。

そんな事はさせられない。

それに、立花さんが言っていた。あれは箱庭の元となる生まれたばかりの世界だと。

シルキスやレヴェイン達のような者達が必死に息づく世界がそこに有るのだ。

それが片手で終わらせられようとしているなんて黙って見てられるはずも無かった。


オレは自分の影からキュレーターの影に移動し、キュレーターの前に飛び出し、魔剣を突き出した。咄嗟な行動だったが、思った以上の結果が得られた。

魔剣はキュレーターの腹部に深々と突き刺さり、キュレーターは驚きの表情を浮かべている。当然、反撃されるものと考えていたオレも驚いたものの、瞬時に頭を切り替える。

盾を捨て、魔剣を両手で握りしめ、箱庭のシステムから遠ざけ、先ほどまでの立花さんの様に壁に磔にする。


キュレーターはオレを冷徹な目で見下しながら言う。


「なるほど、これが可能性ですか。ここまでやるとは思っていませんでした。ですが、これからどうしますか?この程度の傷・・・私にとっては何とも無いのですよ」


キュレーターは苦痛を感じている様子も無く、何事も無かったかのように魔剣を押し返してくる。


「何だったら、このまま殺してあげましょう。立花さんも私が直接手を下してもいい。それで終わりです。あっけないですが、まぁ、それもいいでしょう」


必死に抵抗するが、魔剣を押し返すことが出来ない。焦りを感じながらも踏ん張っていると「ジューゴ君!」と立花さんが叫び声を上げた。

続けて「そのまま時間を稼いでくれ!少しでも長く!」と叫び声を上げる。


「アニューヤ・・・何をする気・・・あの朽ちかけの箱庭を口にしたのですね」


キュレーターが驚きと歓喜が入り混じった複雑な感情を表す。

見れば立花さんが周りの敵たちを蹴散らして箱庭システムに向かっている。

その為の力をキュレーターが放ってよこした喰いかけの箱庭の果実から得たようだ。


「ですが、好きにはさせません」


キュレーターが、もはやオレに興味が無いかのようにオレを押し退けようとする。

何とか立花さんの言う通り、時間を稼ぎたいが、もう少しで魔剣が完全に抜けてしまう。自由になったキュレーターは立花さんの所に向かうだろう。

何としても、それを阻止したい。

オレに何が出来る・・・?

自分に出来る事を順番に頭に浮かべる。もう、それを端から試すくらいしか思いつかなかった。最初に選んだのはベインザクト。シルキスの父親から譲り受けた苦痛を与える力。その苦痛の度合いを5つのレベルから選べる。

最大のレベル5ならば死に至る苦痛を与えることが出来る。しかし、それは効果範囲内に居る自分も受ける事になる。

最初は相打ち覚悟で、それを使おうかとも思った。だが、魔剣が刺さっても眉一つ動かさないキュレーターに効果がある保証はない。

ここでレベル5のベインザクトを発動して自分だけショック死したら無駄死ににも程がある。だが、何もしないわけにいかない。オレは先ずはレベル3を発動して様子を見る事にした。


「ぐぅ!」


効いてる!キュレーターは不意に襲われた苦痛に気を取られている。

その隙にオレは押し返されていた魔剣を再び深く突き刺した。


「な、なんだ!今のは!」

「知らないのか?今のは苦痛ってやつだ」


まさか、苦痛を知らない生物が居るとは思ってなかった。

苦痛を知らないから進歩もしないのか・・・?まぁ、そんな事はオレに走った事ではない。オレはキュレーターが何か抵抗するそぶりを見せる度にベインザクトをお見舞いしてやった。当然、苦痛はオレにも降りかかるがレベル3なら耐えられない事もない。


2,3分程度は時間が稼げただろうか。

キュレーターがオレを見る目が今までのような冷徹なモノから憎々しげなモノに代わっているのが誇らしかった。やっと、オレを見たな。

だが、そう思った次の瞬間、キュレーターは目に狡猾な笑みを浮かべた。


背中に焼き鏝を押し当てられたような熱い苦痛を感じる。

あれ?ベインザクトはまだ発動させていないのに。などと間抜けな考えを浮かべながら振り返ると、キュレーターが生み出した兵士の1人がオレに剣を突き刺していた。


「いつまで私の邪魔をしているつもりだ、この下等生物め」


キュレーターはそう言ってオレを跳ね飛ばした。

そして足早に立花さんの方に向かう。


「行かせるかよっ・・・!」


オレはベインザクトを発動させる。だが、物理的なレベル3では足止めにならない。

オレに剣を突き刺している兵士には苦痛は存在しないらしく、一度抜いた剣を再びオレの体に突き刺している。


「駄目だ!行くなっ!」


オレはベインザクトをレベル4で発動させた。

今度は「うぅっ!」とうめき声をあげて歩みを止めるキュレーター。

オレはその足に縋りつき、ベインザクトを発動し続けた。

兵士はその間もオレに剣を突き立て続けている。



次第に薄くなってゆく意識の中、箱庭システムの前で何やら操作をしていた立花さんにも兵士たちが群がるのが見えた・・・。







「箱庭って何なんだろう」


そう立花さんに何気なく聞いた事がある。

あれはいつだったか・・・。六花姉さんに負けたあとだったかもしれない。


「ふふ。重くなったかい?箱庭が」

「いや、そうじゃないけど・・・」


・・・いや、実は少しそう感じていた。オレみたいなガキが1つの世界を背負うなんて重すぎる。でも、そんな事を口にするのは憚れた。


「ジューゴ君は”実存的交わり”って知ってるかい?」

「なにそれ」

「哲学用語さ。他者との実存的交わり。限界を超える為にはそれが必要なんだそうだよ」

六花姉さんとの再戦。

そして、その戦いに勝利した時、立花さんが言っていた事を何となく思い出した。


末っ子で兄や姉の後ろばかり追いかけていたオレがマグレでも六花姉さんに勝つことが出来たのは箱庭の仲間たちとの関わりで少しは成長できたからなのかもしれない。

その時から少なからず重荷に考えていた箱庭が逆にオレを助けてくれるモノだと思うようになれた。


・・・立花さんはオレ達と交わったから変わったのだろうか。


「異世界の扉を開いたり、新たな世界を生み出すことが出来るようになった我々の祖先は栄光ある未来に胸を膨らませたそうだよ・・・だけど、自分たちの力に慢心したせいだろうか。我々は随分と長い間、足踏みを続ける羽目になったわけだ・・・」


「けっ!そんな足踏み連中にとっ捕まったってわけか。オレは」

「でも、無事で良かった・・・四郎兄さん」

「おい、そんなにベタベタくっつくなよ六花」

「あん。待ってよ四郎兄さん」

「ちょっと六花、キャラ変わり過ぎじゃない?」

「いいじゃないかジューシ。ジューシも、この兄に甘えてもいいんだぞ?」

「嫌よ、そんなに甘やかしたい相手が欲しいなら彼女でも作ればいいのよ。イチ兄は」

「そんなこと言うなよ。ジュンコ君は甘やかしたいって感じじゃないからなぁ・・・」

「うぇっ!?ジュンコさんと付き合ってるの!?イチ兄!」

「あぁ、つい一昨日からね」

「・・・おい、ジューゴが目を覚ましてるぞ」


オレはキョトンとした顔で兄弟たちを見つめていたと思う。


「オレ・・・何で生きてるの?」

「そりゃ、作戦が成功したからだろうが」

「あ・・・四郎兄ちゃん・・・?」

「あぁ、オレだよ。まんまと捕まっちまったオレを助けてくれてありがとな」

「・・・立花さんも無事だったんだ」

「そうだよ。君が時間を稼いでくれたから、”入り口”を開くことが出来た」

「一人で勝手な事をして・・・と言いたい所だが、ジューゴのおかげで私も助かったよ。よくやったな。ジューゴ・・・」

「イチ兄・・・」


イチ兄には「また無茶をして」と叱られるとばかり思っていた。

だから、頭上にイチ兄の手が伸びた時、思わず体をすくめてしまったが、イチ兄の手はオレの頭をくしゃくしゃに撫でるのだった。


「ねぇ、これから箱庭ってどうなるの?」


ジューシ姉ちゃんが何気なく口にした疑問に立花さんは笑みを浮かべながら「これからはキミたち人類に委ねられる」と答えた。


「・・・上手くやっていかなきゃいけないね・・・」

とイチ兄が苦々しく呟く。

「これでお終いってわけじゃ無いしな。連中だってオレ達を放っておかねえだろうし」

四郎兄さんが指の関節をポキポキと鳴らしながら言う。


そこはかとなく不安がよぎるが、それは別の考えに打ち消された。


「そうだ!オレの仲間たちは?オレの箱庭の!」


イチ兄が微笑みながらオレの後ろを指さす。

振り返ると仲間たちが立っているのが見えた。誰一人欠けることなく無事なようだ。

安堵の溜息をついてから仲間たちの方に走り出す。

きっと一人で勝手に入り口に向かった事を皆に説教されるんだろうな。なんてことを思いながら、それを少なからず嬉しく感じていた。



「猫も杓子も異世界に行きやがって。たまにはそっちから来やがれ」という思いつきと勢いだけで始めた本作品ですが、ようやく完結と相成りました。

勢いだけで始めたものですから、途中で墜落しそうになったりもしたのですが、「見てくれている人が居る」という思いを原動力に、なんとか不時着・・・いや軟着陸・・・いや胴体着陸?する事が出来ました。

この場を借りて、読んでくださった方、感想をくれた方、文章校正してくださった方に感謝を申し上げたいと思います。

ありがとうございました。

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