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双子の小人

後日、ギムギムが作った装備が届けられた。


装備は全員分揃っており、なんとスピーネル用の武器もあった。

野球のボールと同じくらいの大きさのトゲトゲのついた球体で、最初は何だか分からなかったが、それは炸裂弾だった。


試しに実演してもらう。

スピーネルがペッと吐き出した銀色の炸裂弾は暫くして爆発する。

鉄片が周囲にまき散らされ、地面を抉るが、勿論、スピーネルは無傷だ。

だが、飛んできた鉄片の一部がスピーネルの体に埋没しており、それを嫌そうに吐き出していた。敵には効果的なようだがスピーネルには不評だったようだ。


他にもディーバスの鎧にも興味を惹かれた。

鎧には肩のあたりに鉤爪がついており、バネの様なギミックで飛び出すようだ。

それはディーバスの望んだタイミングで飛び出し、自動的に元に戻るようで、4本の腕から繰り出される攻撃に加わる事で絶え間ない連続攻撃を可能としていた。


オレの装備は重厚なフルプレートアーマーと全身を覆えそうなほどに大きいタワーシールドだった。想像した以上の重装備に面食らっているとギムギムがやってきた。


「どうした?着けてみろ」


戸惑いながら鎧を手にしてみると、見た目を上回る重量が手にかかる。

こんなモノを全身に着けていたら身動きが取れそうもない。

ギムギムは急所であるオレを守る鎧は分厚ければ分厚いほど良いと考えたのかもしれない。その気持ちは嬉しいが、敵の攻撃は防ぐ以外にも避けるという選択肢もあるはずだ。

加速能力やディーバスとの訓練で、その能力に多少の自負を得ていたオレは、少しギムギムに失望の念を感じずにはいられなかった。


そんな事を考えながら一つ一つのパーツをギムギムに言われる通りに装着する。

やはり重い・・・。歩くのがやっとだ。

だが、鎧の内部から駆動音が聞こえたかと思うと、身動きが楽になった。

重さが無くなったわけではないのに、鎧を着ける前よりも機敏に動くことが出来る。

不思議に思っているとギムギムが答えを教えてくれた。


「そいつにはパワーアシストがついておるんだ。どうだ?動きに違和感はないか?」


鎧は動かす方向が分かっているかのようにひとりでに動き、オレの動きを助けてくれていた。ギムギムの事を信じきれなかった自分に気恥しさを感じながら「動きやすいです。ありがとうございました」と言うと、ギムギムは「おう!」と満足そうに応えた。


どの装備にも個性的なギミックが搭載されているようだ。

それを説明して回っているのが、リムリムとリグリグだった。

今回、主に装備の設計をしたのが、この2人だそうだ。

装備の説明をしつつ、使ってみた感想などを熱心に聞いている。

ディーバスのように気に入った者も居れば、微妙な反応もあった。

全体的には半々と言った所だ。

リムリムとリグリグの浮き沈みの激しい表情を眺めているとジュンコさんがやってきた。


「どう?気に入った?」

「はい!どうなってるのか全然わからないんですけど、凄いですね」

「実はね、アタシも全然わからないんだ」そう言ってジュンコさんは笑った。


リムリムとリグリグも説明が終わったのか集まってくるとギムギムは、どこからかキセルを取り出して煙を吐き始めた。そんなギムギムを眺めていると「モノは相談なんだけど」とジュンコさんが言い出した。


「相談?」

「そう、リムリムとリグリグなんだけど、ジューゴ君の所で預かってもらえないかな?」

「え?2人を?どうしてですか?」


その疑問には2人自らが答えた。


「今回の装備はアッタシ達が初めて設計を任されたんだ!」

「そうなの!初めて親方が、やってみるか。って言ってくれたのよー」

「だから、その具合を間近で見ておきたいんだっ」

「そうなのー、おねがいー」


交互に詰め寄る2人に後退りしながらギムギムの方を見ると明らかに「面白くない」と言った表情で相変わらずキセルをふかしている。

しかし、いくら待っても口を挟んでこない所を見ると、面白くないが了承済みなようだ。


「お、オレはいいけど・・・」

「やったね、リグリグ」

「あぁ!言ってみるもんだな、リムリム!」

「まったく!どいつもこいつも、そうやって外に飛び出したがるから、ウチの工房は万年人不足だ」

「そう言うなって!腕を磨いて帰ってくるからさ!爺ちゃん!」

「えぇい!社長と呼ばんか!」


3人のやり取りを圧倒されながら眺めていると、ギムギムが目の前までやってきてペコリと頭を下げた。


「2人とも若いが腕は確かだ。世話を掛けると思うが勉強させてやってくれ」

「・・・分かりました。お預かりします」


断る理由を見つけられなかったオレは頭を下げたままのギムギムの前で頭を下げた。

こうして双子の小人が仲間に加わった。




・・・数日後、オレと双子はサービアの街に来ていた。

最初は魔王の城で預かってもらっていたのだが、好奇心の塊である2人に、すっかり困り果てたレヴェインから遂に受け取り拒否を申し渡されたためだ。


「リムリムッ!あっち!あっちから良い匂いがする!」

「ほんとだー」


少し目を離すと、どこに行くか分からない2人に振り回されて疲れ切ったオレは早くも2人の返還を考え始めていた。

サービアの街だって善人ばかりという訳ではない。

人間の子供よりも小柄な2人の双子の安全の為、2人の後を追いかけた。


「きゃぁぁぁぁっ!」

「うわぁっ!」


2人の叫び声だ。

一日中、2人に振り回されて疲れ切っていた足に力が入る。

路地を抜け広場に出ると、そこには茶髪から奪ったゴーレム達が立っていた。

2人の叫び声はゴーレムを見た感動の叫びだったのだ。


「なんでここに・・・」


ゴーレム達は魔王城に預けていたはずだ。

その疑問には、いつの間にかやってきたアンリエッタが答えた。

いつまで待っても約束の場所に現れないオレ達を探していたというアンリエッタはオレ達を追って随分と走らされたらしく、すっかり息が上がっていた。


「復興作業に使ってくれって、レヴェインさんが貸してくれたんです」


瓦礫を片づけるゴーレム達の周りを興味深そうにチョロチョロと走り回る2人は何とも危なっかしくて見ていられない。

2人をやっとの事で捕まえた後も、2人は悪びれる事もなく興奮した様子でゴーレムについて語り合っていた。


ようやく約束していた場所に辿り着くと、クーデルが待っていた。

隙を見て逃げ出そうとする2人の監視をクーデルに任せて、改めて2人の事をアンリエッタに頼む。


「あの通り、手を焼くと思うけど頼むよ」

「私の手には負えなそうですが、クーデルも居るから大丈夫です・・・多分」

「ありがとう、助かるよ。さすがに魔王城でチョロチョロされるわけにはいかなくてさ・・・2人とも頼むから大人しくしてくれ・・・よ?」


2人の姿が見えない。クーデルもだ。

暫くするとクーデルだけが戻ってきた。


「ゴメン・・・逃げられタ」


クーデルの手から逃れるとは、思った以上に厄介な2人だ。

その2人は、やはりというかゴーレムの所に居た。


「もう、いっそのこと2人の為にゴーレムを安全な場所に移しましょう。1体くらいなら空いてるはずですし」

「・・・そうしてくれ。悪いけど約束があるから、そろそろ戻るよ」



箱庭を出て白石さんの家に向かう。向坂さんが待つ神社の周辺は人通りも少ないので念のため一緒に行く事にしているのだ。

箱庭を出れば肉体的な疲労は無いはずなのに、何だか足取りが重い気がする。

精神的な疲労が体にも影響しているのだろう。


「おー。来たのう。毎日時間通りで感心な子たちじゃ」

「はいっ、今日も宜しくお願いします。健一郎さん」


白石さんが深々と頭を下げる。

それを眺める向坂さんの顔が緩む。まるで、孫でも愛でるかのような表情だ。


「じゃあ、早速始めるかのう」


向坂さんは子供の頃、親の仕事の都合で中国に住んでいて、そこで拳法を学んだらしい。

その話を聞いて、てっきり最初はワックスを塗ったり取ったりしたり、ジャケットをハンガーに掛ける動作を何度もやらされるのかと思っていたが、そんなことは無く、惜しげも無く拳法の理論や動作を教えてくれた。

それは白石さんの存在や初めに持ってきた手土産(どら焼き)が功を奏しているのだろうか。


向坂さんは実に様々な事を教えてくれたが、特に重点をおかれたのが化勁という敵の攻撃を逸らす方法だった。

その化勁を学ぶ方法として推手という模擬戦を白石さん相手に何度も繰り返した。

これは白石さんの方が適正があったようで、彼女の方が上手だった。


だが、言い訳をさせてほしい。

オレが駄目だったわけではなく、白石さんの方が特に才能があったのだ。

向坂さんもオレの出来栄えは”並み”と言っていた。

白石さんの方が”人並み以上”だっただけだ。


箱庭の中では更に顕著に差が出た。

歌声によるエコーロケーションで相手の動きを読むことが、更に化勁の成功に役立ったのだ。歌声を上げている白石さんには、だれも触れることが出来ないような有様だ。


変幻自在の攻撃を繰り出すディーバスを前にしても、まるで鼻歌交じりに見知った家の中を歩くように攻撃を掻い潜り、ディーバスの懐に辿り着くことが出来た。


だが、オレにも意地がある。白石さんに負けたままでは格好がつかないオレは更に功夫を積んだ。向坂さんも感心するような速さで上達することが出来たのは白石さんのお陰と言っていいだろう。


「ふむ。2人とも随分上達したものじゃ。特に結衣ちゃんは思いも寄らぬ逸材じゃった。ワシ、ビックリしちゃった」

「そんな・・・向坂さんの教え方が分かりやすかったからです・・・」

「ジューゴ君も頑張ったのう」

「あ、ありがとうございます」


才能ある人と並べられて、ぞんざいに扱われるのは慣れている。

特に優秀な兄や姉のお陰で。


「元々、護身のために教えてほしいという話だったじゃろう?だから化勁だけのつもりだったのじゃが・・・2人の才能、特に結衣ちゃんのじゃが・・・に触発されてのう、もう少し色々と教えてくなってしもうた。お二人さんには、もう少し付き合ってもらいたいのじゃが、良いかの?」

「勿論です!宜しくお願いします」

「そう言ってくれるかね。嬉しいのう。君らに功夫を教えるのが日課になってから調子が良くてのう。やはり若者と過ごす時間が老人には何よりの薬じゃて」


向坂健一郎の名は武術の世界では有名らしかった。

表舞台からは姿を消して久しいが、ジュンコさんが通う空手の道場でも語り草な人物、それが目の前の老人だった。

そんな人物に出会い、教えを受けられたのは、これ以上ない幸運と言えた。



その幸運を実感できたのはジュンコさんとの対戦の時だった。


「ジューゴ君・・・すごく強くなってない?」


無鉄砲な2人の孫が心配なギムギムに頼まれる形でオレの元に足を運ぶ機会が増えたジュンコさん。孫の様子を見るついでの箱庭対戦だ。

オレにとっても位置情報を隠したままにする事も出来るので有り難い。


「やっぱり向坂さんのお陰なのよね・・・アタシも教わろうかしら・・・」

「いいですね。ジュンコさんは美人だし、甘いお菓子でも手土産に持っていけば、きっと教えてくれますよ」


そんな会話を交わしながら、ジュンコさんの攻撃を躱す。

ジュンコさんの攻撃や話に気を取られている訳にはいかない。

ジュンコさんの他にも3人の騎士姿の小人がオレを取り囲んでいるのだ。


背後からの槍の攻撃を逸らして、その刃先を右から斬りかかってくる別の騎士に向くように仕向ける。

左側の騎士・・・ギムギムの攻撃をいなしながら、ジュンコさんの駆る巨人の右足を寸断する。


体勢を崩した巨人の中からジュンコさんの声が響く。


「あー!もう、やめやめ!四人がかりでかすりもしないんじゃ、勝ち目がないわ!アタシの負けよ」


ジュンコさんが負けを宣言すると、対戦の中で傷ついた装備が元に戻る。


「もうアタシじゃ練習相手にもならないわね。悔しいわー」

「そんな事ないです。結構必死で避けてますよ?当たったら痛そうだし・・・」

「ふーん・・・。下手な謙遜は相手を傷つけるだけよ?」

「い、いや、そんなつもりは・・・」

「でも、もうアタシが力不足なのは事実ね・・・そうだ、ジューゴ君、立花さんの所に行ってみたら?」

「立花さんって・・・立会人の?」

「そうよ。彼の元には色々な箱庭の管理者が集まるわ。ジューゴ君も腕試ししてもいい頃合いじゃない?」

「でも・・・危なくないですか?」

「大丈夫よ。最初はアタシもハジメさんも一緒に立ち会うから。これで本格的に箱庭ランカーとしてデビューするというわけね」

「・・・大丈夫かなぁ」

「ハジメさんは少し過保護なのよ。ジューゴ君なら色んな管理者と対戦すれば、どんどん強くなれるんじゃないかしら。もしかしたら・・・ハジメさんにも勝てたりして」


ジュンコさんがドキリとしたことを言う。


「あら?どうしたの2人とも」


その時、ジュンコさんがリムリムとリグリグの存在に気がついた。

オレに声を掛けようとタイミングを伺っていたようだ。


「ジューゴ兄ちゃんっ!後でサービアの街に来てくれよ!見せたいものがあるんだ」

「あのー・・・怒らないでね?」


嫌な予感がするが、これは見に行かない訳にはいかないだろう。


「わかった、わかった。ジュンコさん、今日はありがとうございました」

「うん。こちらこそ。ギムギムが孫離れできなくてゴメンね。立会人の所に行く日程はアタシがハジメさんに聞いて調整しておくから」



ジュンコさんに別れを告げ、早速サービアの街に向かうと、そこには2人の小人によって魔改造されたゴーレム達が待っていた。


「じゃじゃーん!」

「勝手に改造しちゃってゴメンねー」


2人によって様々な改造が成されたゴーレム達。

しかし、アンリエッタはゴーレムたちのお陰で2人の双子に手を焼かされることが少なくなったと言う。

アンリエッタとクーデルの心労が減って、ゴーレム達が更に役立つようになったのなら文句は無い。どういう風に改造したのかは事細かく聞く必要がありそうだ。


「ヨロシク、マスター」


不意に頭上から声が聞こえた。


「ん?誰か何か言ったか?」

「うん!2号がヨロシクってさ!」

「そうそう。2号って良く喋るんだよねー」

「2号って・・・このゴーレムか!?」


見上げると鉄で出来た巨人の胸には大きく「2」と書かれていた。

他のゴーレムにもナンバーが振ってある。


「なんで、喋ったり・・・」


ゴーレムをマジマジと見ると、胸に見覚えの有るモノがはめ込まれていた。

魔剣を魔剣足らしめる石・・・吸魂石だ。


「この世界に来て吸魂石の事を初めて知った時は驚いたけど、まさかゴーレムに付けたら喋るようになるとは思わなかったよー」


得意げに話すリムリム。ゴーレムに吸魂石を取り付けることを思いついたのは彼女らしかった。吸魂石を取り付けたゴーレムが敵(今でも街を襲うモンスターは時折いるらしい)を倒すたびに、魔剣のように強くなるのを発見したのもリムリムだと言う。


「でも、何でまた喋ったりできるように・・・」


ゴーレムには元々、意思のようなものはあったから、それが吸魂石の効果と相まって・・・?

なんて、考えても分かるはずがないか。


「どう?どう?凄いでしょっ?」

「気付いたのはアッタシだよー?褒めてもいいんだよー?」


何はともあれ、戦力アップに役立つのは間違いなさそうだ。

リムリムとリグリグの頭をポンポンと撫でながら、驚きのあまり返すのを忘れていた挨拶を返す事にした。


「ヨロシク2号」


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