捜索
魔王城の一室に作戦メンバーが集められた。
ドラゴン達の代表として、人化したシルキスも来ている。
皆の視線の集まる先に一つのテーブルが有り、街の地図が広げられている。
レヴェインが説明するアンデッド殲滅作戦の概要はこうだ。
まずは街を占拠しているアンデッド達を街の外に出さなければならない。
しかし、街に生き残っている者が残っている限り、全てのアンデッド達が街の外に出る事は無いだろう。
そこで、街の中に突入し、生き残っている者を助け出し、街の外にアンデッド達を誘き出して、そこをリーディアの極大魔法で殲滅する。と言うものだった。
「ただし、無理は禁物だ。いざとなったら街ごと焼き払う。いいね」
「分かった。でも、何とか助けだしたい。生存者の居場所に心当たりはないのか?」
レヴェインは街の地図の2か所に印を付けた。
「避難した街の者から聞いた話によると、取り残された者が居るとしたら罪人を入れておく留置場か、病院に居る可能性があるらしい」
「病人を見捨てて逃げたのか!?」
レヴェインの説明にシルキスが口を挟む。
「落ち着いてくれ、街の者も残してきた者は居ないはずだと言っていた。もし、居たとしても故意にではないんだよ」
「むぅ・・・」
「それでは、説明を続けるよ。役割の分担だけど、まずシルキス達は街の上空を舞う有翼のアンデッドたちを抑えてほしい。そして、ボクとディーバス、レイスゲイルは本命の病院を探索する。ジューゴとクーデル、そしてブランゼル達は留置場を探索してくれ」
それぞれ納得したように頷く。
「最後にもう1つ、先代の魔王に出会ったら迷わず逃げてくれ。とても危険だし、出来ればボクの手で葬りたい」
作戦の説明が終わり「では行こうか」と言うと、レヴェインとリーディアの足元に魔法陣が広がり、街を一望できる場所に転移する。
暫く待っていると、ザーバンスとイリアがやってきた。
その他にも魔王軍の精鋭だという者達も続々と集まってくる。
人狼族の英雄、巨人族の頭目、ラミアの女王と、その護衛・・・
どれも並みのアンデッドならば目を瞑っていても屠ることが出来る程の強者だそうだ。
彼らの役目はリーディアの護衛だ。
極大魔法を使うためには精神の集中が必要なためだった。
「揃ったな。我からはいう事は1つだけだ。奴らに敗れてアンデッドの仲間入りする事だけは許さん」
魔王の仮面を付けたリーディアが魔王らしい声で演説をする。
それに口を挟むものが居た。肌の浅黒い銀髪の女性だ。しかし、良く見ると耳がとがっている。ダークエルフと言うやつか?
「なぜここに人間が居るのです?」
「彼らは協力者だ」
「人間などの協力は不要です!人間の手など借りなくても、我らが代わりを果たして見せます!」
しばしの沈黙の後、リーディアが口を開いた。
「・・・我も少し前は同じ気持ちだった」
「では何故!?」
「彼らの協力が無くては、此度の作戦は有り得なかった。我は学んだのだ。一つの事にこだわっていては進歩は無いという事をな・・・そして、我は力を得た。
その力でアンデッドどもを一掃して見せよう。それが成らなかった時は・・・我は魔王の座を退こう」
「・・・その御言葉、お忘れなきよう・・・」
やはり、人間への恨みや憎しみは深いものなんだろう。
リーディアがそう言った後も、オレ達に対する突き刺さるような視線は緩まることは無かった。
しかし、この作戦が成功してリーディアの力を見た者達は、その圧倒的な力に負の感情すら押さえつけられてしまうだろう。
その為にも頑張らなくては。
「それでは行こうか」
レヴェインが先頭に立ち、街に向かう。
街が近づいてくると早速、有翼のアンデッド達が、こちらに群がってきた。
しかし、それらをシルキスの雷が一掃する。
「さぁ、行けジューゴ!貴様がアンデッドになったらワシが火葬してやる。それが嫌なら、ちゃんと戻ってくるんだぞ!」
そう言い残しアンデッド達の群れに飛び込むシルキス。
彼女に3匹のドラゴンゾンビが群がるが、それを一瞬で引き裂き、叩き落とし、焼き尽くす。狂化のコトワリで得た力はシルキスを元の何倍にも強化していた。
シルキス達が叩き落したアンデット達を躱しながら走る。
アンリエッタはついて来ているか心配になったオレは、後ろを振り返った。
・・・あぁ、大丈夫だ。クーデルが抱きかかえて運んでくれている。
上空からの攻撃の心配が無くなったオレ達は、正面の敵に集中する。
オレはケンタウルスのゾンビをすれ違いざまに一刀両断にする。
オレは以前はあんなにてこずったケンタウルスを倒したことで、自身の成長を感じていた。
もしかしたら、以前戦ったケンタウルスが特別強かっただけかもしれないが、それだけではないだろう。
オレ達は走る速度を緩めることなく街に入る。
街に入ると直ぐに広場が広がっていた。
その円形の広場から放射状に道が伸びている。
「ボク達は、こっちだ。ジューゴたちは、そっちの一番向こうの道を真っ直ぐ行った先に留置場があるはずだ。では、ここで一旦お別れだ、気を付けてね」
「あぁ!レヴェインもね!」
「おいジューゴ!」
意外な人物がオレに声を掛けてきた。ディーバスだ。
「・・・貴様が死んだりすれば、鍛錬に付き合っていた俺が無能という事になる。だから死んだりしたら許さんからな!」
「お・・・おう、ディーバスも気を付けてな」
「んな!なにを!?笑わせるな!俺がアンデッド共相手に後れを取るなど有り得ん!」
そう言いながらディーバスが迫るオーガのアンデッドを一刀のもとに斬り伏せる。
その様子を見る限り、心配は杞憂だと分かった。
目的地を目指すオレ達。
元狂戦士のブランゼル達が円陣を組み、アンデッド達を駆逐する。
伸びきった雑草を薙ぎながら野原を進むかのように、大量のアンデッド達を倒しながら街道を進む。見た事もない数のアンデッドに怯えているアンリエッタを守るのが、オレとクーデルの仕事だ。とはいっても、ブランゼル達が討ち漏らすアンデッドは数える程度しか居ない。
大した苦労も無く、目的地である留置場のある建物に着いた。
しかし、中には誰もおらず無駄足である事が直ぐに分かった。
留置場に向かって進めば進むほど、明らかにアンデッドの数が減っていき、これから向かう先がハズレである事を、オレ達は肌で感じていたのだ。
「だとすれば、アンデッドが集まる場所が当たりという事でしょうか」
「じゃあ、やっぱり病院か?レヴェイン達の加勢に行こうか?」
「うーん・・・。病院とは違う方向のような・・・」
「まぁ、考えていても仕方ない。どの道レヴェイン達とは合流するつもりだったし、広場まで戻ろうか」
今度は広場を目指してアンデッド達を蹴散らしながら街を進んでいくうちに、なんとなくだがアンデッド達の流れというか、集まっている方向の検討がついてきた。
それは明らかに病院の方角とは違っていた。
「どう思いますブランゼルさん?」
「・・・ふむ。ここは行くしかないでしょう。じきにレヴェイン殿の方も同じ事に気付くはずです」
これから行く方向は今までよりもアンデッド達の密度が濃い、レヴェイン達との合流を先に果たした方が良いかとも思ったが、しかし、誰かが助けを待っているかもしれないと思うと、レヴェイン達を待っているのはもどかしかった。
それにブランゼルさんを始め、オレ達にはまだ少し余裕があるように感じられたのだ。
だが、奥に進めば進むほど、アンデッド達の数が増えてゆく。
オレは休みなく剣を振るい、温存していたスピーネルも戦いに参加していた。
スピーネルが分裂しながらアンデッド達を、その体内に取り込んで消化してゆく。
その時、元狂戦士のメンバーの一人が手傷を負った。
アンリエッタが治癒の為に、その者の元へと急ぐ。
「今いきます!クーデル!援護して!」
「ワカリましタ!」
負傷したメンバーの方に向かってクーデルが大剣を振り回して突き進む。
そして、アンリエッタが負傷者の元に辿り着くと、癒しのスキルによって負傷者に応急手当てを施した。
「少々苦しくなってきたな・・・」
目の前のミノタウルスに止めをさしながら、オレはそう呟いた。
その時、目の前に群がるアンデッドの群れの真ん中に火球が撃ち込まれた。
それも一発だけでなく、何発も。
轟音と共に吹き飛ぶアンデッド達。
「大丈夫ですか!?ジューゴさん!」
声の主はイリアだった。上空での戦いもけっして余裕があるようには見えなかったが、無理を押して援護に来てくれたのだ。
オレ達はイリアの爆撃によって出来た道を走る。
イリア達の為にも早く生存者を見つけなければ!
オレ達が進む先に明らかにアンデッド達が群がる建物が見えてきた。
きっとあそこだ。あそこに逃げ遅れた生存者が居るのだ。
ゴールが見えてきたオレは溜まってきた疲労が、幾分か和らぐのを感じた。
その時、アンデッドの群れの向こう・・・丁度建物の入り口辺りでアンデッドの一匹が何かに吹き飛ばされた様に宙を舞うのが見えた。
何だ?何かが居る?もしかしてレヴェインか?
更に進むと、その正体が見えてきた。
群がるアンデッドたちより頭一つ大きいソレは、手にした大剣でアンデッド達を薙ぎ払っていた。
「何だあれは?」
「あれもアンデッドでしょうか?」
「何でアンデッドとアンデッドが戦ってるんだ?」
アンリエッタに聞いてみるが、ソレをアンデッドだと言ったアンリエッタ自身にもよく分からないという様子だった。
しかし、それを見れば見る程、アンリエッタの言う事が納得できる。
体にはつぎはぎが目立ち、目には生気が感じられない。
しかし、アンデッド達が群がっている以上、この建物の中に生者が居るのは間違い無い。ならば、こちらの声に反応するかもしれない。
「誰か居ませんかー!?オレ達は逃げ遅れた生存者を捜索に来た者です!」
オレやアンリエッタが声を張り上げていると、建物の中から何者かが姿を現した。
それは杖を持った魔法使い風の男だった。




