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与えられた意外なモノ

レヴェインとリーディアの協力を得ることが出来たオレは、管理者の世界で石碑に2人の名前が刻まれているのを確認した後で田崎の家に向かった。

田崎の家についたはいいが、問題はどうやって田崎との再戦に漕ぎ着けるかだった。


田崎の家はアパートの一室だ。

とにかくダメ元だ。田崎が部屋から出てこなかったり、再戦を断られたら、窓をぶち破って部屋に侵入してやろう。

壁に埋め込まれたインターフォンのボタンを押してみると、のんきな電子音が鳴り響く。緊張しながら暫く待ってみたが、応答が無い。

諦めようとした時、部屋のドアが勢いよく開け放たれた。


「先輩!早かったで・・・すね・・・って、お前かよ」


田崎がドアを閉めようとするが、すかさず足を挟んで妨害する。


「待てって!もう一度!もう一度勝負だ!」

「はぁ?俺は忙しいんだ。これから大事な人が来るんだから、お前の相手なんかしてる暇は無いんだよ。大体、駒も無いお前がどうやって・・・まさか、お前・・・新しい駒を手に入れたのか?」

「駒とか言うな!」

「ふーん・・・。この短時間に大したもんだ・・・よっぽど悔しかったんだな。いいよ。入りな」


部屋に入ると早速、オレは家主を放って箱庭のある部屋に向かった。


「さぁ、暇が無いんだろう?さっさとやろうぜ」

「まぁ、そこまで言うなら相手してやらないでもない。戦利品は多いに越したことは無いからな。けど、戦うかどうか決めるのは戦利品を見てからだ。いいな?」

「あぁ、勝手にしろ」


オレは田崎の腕を掴み、反対の手で箱庭に魔法のピンを刺した。

管理者の世界に移動すると、嫌でも敗北の記憶が掘り起こされる。

オレはそれを払拭するように、早足で石碑に向かい、レヴェインとリーディアを呼び出した。


召喚された2人と軽く会話を交わしていると、2人を値踏みするように眺めていた田崎が近づいてきた。


「なんだよ、普通の人間じゃないか。これじゃあ、勝負は無しだね。また、出直してきな」


その言葉にオレよりも早く反応したのはリーディアだった。


「我がただの人間に見えるのか。この愚か者め!」


リーディアが手をかざすと、田崎はいつかのオレの様に吹き飛ばされた。

田崎が吹き飛ばされた先には田崎の石碑があり、潰れたカエルの様に石碑に叩きつけられる。その後、地面に落下した田崎は暫く伏せたままだったが気味の悪い笑い声と共にガバッと顔を上げた。


「それは魔法か?ジューゴ君!君は随分と恵まれた箱庭を持っているようだね。

いいだろう!勝負しようじゃないか!今度は根こそぎ奪ってあげるよ!」


そう言い放つと、そのまま石碑に手を当てて自分の箱庭の者たちを呼び出した。

その中にシルキス達が居ない事にオレは少なからず安堵する。

しかし、屈強な狂戦士の一団と、その中で異色を放つ巨大な剣を携えた少女が放つ威圧感にオレは圧倒されていた。


本当に2人だけで勝てるのだろうか。

当の2人を見てみると、リーディアは涼しい顔をしており、レヴェインは少女の方に釘付けと言った感じだった。

ここまできたら2人を信じる他無さそうだ。


「じゃあ、始めようか。・・・箱庭対戦を開始する。総力戦だ。ジューゴ君と俺の箱庭のね」


前回はシルキスの雷による激しい幕開けだったが、今回は静かなものだった。

狂戦士たちは、その名にそぐわず無言のまま2人を取り囲み始めた。

その様子は2人の魔王が放つプレッシャーに押されているようにも見える。

静寂を破ったのは1人の狂戦士だった。


雄叫びを上げながら飛び掛かる狂戦士。それに狙われた本人・・・レヴェインは襲い掛かる狂戦士に目もくれない。狂戦士はレヴェインに代わってリーディアが、その手から放った光弾で撃退する。

レヴェインの視線の先には例の少女が立っていた。


何も言わずに少女の方に歩みを進めるレヴェイン。

恐怖という感情を失っている筈の狂戦士たちが、その行く先を阻まなかったのは、僅かに残った生存本能だろうか。


呆けたままレヴェインを見送る狂戦士たちにリーディアが放つ光弾が突き刺さる。


「オヌシらの相手は我がしてやろう。さぁ、かかってくるが良い」


我に返った狂戦士たちがリーディアを取り囲む。

その間にも歩を進ていたレヴェインがとうとう少女・・・クーデルという名の最強の狂戦士の前に到達した。


「こんにちわ。キミって強いんだってね」


無言で剣を振るうクーデル。


「なるほど、ジューゴの言う話は本当だったようだね。しかし、挨拶くらいは出来ないものかな?」


こうして狂戦士たちとリーディア、クーデルとレヴェインという、構図が出来上がった。


・・・狂戦士たちは、それぞれ剣や槍を振りかざしてリーディアに襲い掛かる。

しかし、誰一人としてリーディアの傍に近づくことは出来ない。


・・・クーデルは身の丈を超す大剣を振り回す。

しかし、目の前の相手が近すぎて、その威力を十分に発揮することが出来ない。

距離を取ろうとしても、目に見えない力で引き寄せられてしまう。


・・・双子の魔王。レヴェインとリーディアには生来のスキルが備わっていた。

レヴェインの引力のスキル。

リーデイアの斥力のスキル。


レヴェインはクーデルの間合いの内側に入り、クーデルの驚異的な攻撃を完全に封じている。

リーディアは斥力によって狂戦士たち弾き飛ばし、魔法の光弾によって止めをさす。


戦いはオレの目からも優勢に見えた。

恐る恐る田崎の方に視線を移す。

その顔には明らかな焦りが浮かんでいる!


「なっ、何をしているクーデル!貴様にどれだけ駒を費やしたと思うんだ!負けるなんて許さないぞっ!早くその男を血祭りにあげてしまえ!」


・・・駒を費やしただと?

それって、あの女の子の手で誰かを・・・?

オレの脳裏に嫌な光景が思い出される。

処刑場・・・命を浪費して魔剣を鍛えていた場所。

田崎は、あんな小さな女の子に、それと同じような事をさせてたっていうのか!?


「田崎・・・おまえっ!」

「クーデル!これ以上、手こずるようなら、またあの場所へ逆戻りだ。

もっと、もっと貴様を狂化してやる!それが嫌なら戦えッ!その男を殺せっ!」


田崎は胸ぐらを掴むオレに構わず叫び声をあげる。

クーデルが、その声に反応したように体をビクッと震わせた。


何かを察したようにレヴェインが距離を詰める。それは安全な間合いへの退避と早期決着を狙った為だった。

だが、クーデルの懐に入ったはずのレヴェインの体が何かに弾かれた様に吹き飛ばされた。

クーデルは大剣の柄の部分でレヴェインを弾き飛ばしたのだ、レヴェインは胸の辺りを押さえながら呻いている。


少女の口から発せられたとは到底思えないような咆哮が辺りに響き渡り、クーデルの猛攻が始まった。

鉄の塊のような大剣を、まるで初めから重さなどないかのように振り回し、突き、振り下ろす。

レヴェインは何とか致命傷は避けているものの、決して浅くは無い手傷が刻まれてゆく。リーディアは弟を助けに向おうとするが、決して少なくない敵が行く手を阻む。


「そうだ!それでいい」


田崎が満足そうに呟く。

オレは一抹の不安を感じながら、まだ負けたと決まったわけじゃないと自分に言い聞かせた。

それはレヴェインは依然として笑みを浮かべていたのに気付いたからだ。

オレは2人を信じて見守る事にした。


「えぇい!どけい!この雑兵どもがっ!」


リーディアのが放つ光弾は明らかに威力が落ちていた。

始めの頃は一撃で狂戦士を屠っていた光弾が、今は少し身動ぎさせる程度だ。


「ふん!口惜しいが、その死をも厭わぬ気位と頑強さだけは認めてやろう」


狂戦士に向けていた手を降ろすリーディア。

それを降伏の合図と見た狂戦士たちは一斉にリーディアに飛び掛かる。


「だが、所詮は雑兵」


そう言ってリーディアが魔剣を抜き放った。

彼女の手にあるのは魔剣アバドン。

遥か昔から仇敵である人間たちの血肉を貪り食ってきた魔剣である。


狂戦士たちに向けた魔剣の刀身が銀色の風船のように大きく膨らんだかと思うと、それは巨大な口となった。鋭そうな牙がゾロリと並び、獲物を欲して涎を垂らしている。


先ず始めに飛び掛かってきた3人の狂戦士の内、1人を噛み砕いた。

難を逃れた2人が果敢に斬りかかるが、銀色の大口は何事も無い様に、その攻撃を弾き返し、2人目の獲物に喰らいつく。そして、3人目も成す術無く同じ運命を辿る。


その魔剣は自分の意思を持っているかのように、次々と獲物を喰らってゆく。

魔剣への攻撃を諦め、その持ち手であるリーディアに挑もうとするが、斥力と光弾によって近づくことが出来ない。そうしていると、獲物を求めて魔剣が迫る。

魔剣を抜いた後は一方的だった。


「相変わらず凄惨だな。趣味の悪い魔剣だよ・・・アバドンは。

それに比べて、この魔剣は素晴らしいんだよ?・・・って君は、そんな話は興味ないか」

そう言って魔剣を抜き、気怠そうに溜息をつく。


「キミは強かった。このボクよりもね。だけど、この戦いに負ける訳にはいかない。だから、この魔剣でケリを付けさせてもらう」


クーデルはレヴェインの口上に構わず斬りかかった。

それをあえて避けずに左腕で受け止めるレヴェイン。

クーデルの斬撃により左腕は斬り飛ばされ、肩口まで刃が達している。

レヴェインは力なく膝をついた。


「全ての力を防御に回したのに、この有様か・・・本当に流石だよ。機会が有ったら、また戦いたいね」


レヴェインの右手の魔剣はクーデルの胸に深く突き刺さっていた。


「この魔剣で傷つけられた者は、その者が最も望まない結果が押し付けられる。

大抵の場合は速やかな死が与えられる。これで不本意ながらも、ボクの勝ち・・・って、あれ?」


魔剣を引き抜くと、そこには傷一つない。

しかし、クーデルは大きく肩で息をしており、レヴェインの言う”速やかな死”を迎えるようには見えない。


「あれ?そんな馬鹿な・・・」

「うあぁぁぁぁぁぁああ!」


クーデルが絶叫と共に大剣を横なぎにする。

弾き飛ばされるレヴェイン。


「あ、あれ?何も起きないなんて・・・そんなはずは・・・」


だが、クーデルは何やら苦しんでいる様子だった。


「ふぅー・・・考えていてもしょうがないか」


レヴェインは右手で魔剣を持ち直して、クーデルに改めて挑む。

クーデルの斬撃は先ほどまでの鋭さが無く、レヴェインは傷ついた体でも何とか魔剣による一撃を与えることが出来た。

しかし、またもクーデルの体に目に見えた変化はない。

だが、クーデルは明らかに苦しみながら絶叫を続けていた。


2度3度とクーデルの体に魔剣が沈み込む。

その度に明らかな変化がクーデルに現れていた。

それは何度目だったか、クーデルの口から何らかの言葉が吐かれた。


「タザキ・・・」

そう呟くとクーデルは、目の前のレヴェインではなく、オレの隣の男を睨みつけた。

その眼には明らかな意思の光が戻っていた。


「タザキィィッ!!!ヨクモォォォォ!」


クーデルが叫びながら、こちらに突進してくる。ターゲットは田崎だ。

目には明らかな殺意が浮かんでいる。

タザキは咄嗟に逃げ出そうとしたが、成す術無くクーデルに斬り伏せられた。


「なるほど・・・魔剣ヴォルテイルが与えたのは”死”ではなく、”正気”だったのか・・・。よほど辛い目にあったんだろうね。最も望まないモノが死ではなく、正気に戻る事だったなんて」

「だが、狂気を与えた張本人に復讐できるのだから良いではないか」


全ての狂戦士を片づけたリーディアとレヴェインが戻ってきた。

レヴェインは満身創痍といって良い程の傷を負っており、リーディアに支えられて何とか立っている状態だ。


「パパのカタキ・・・タザキ・・・うらギッタ・・・よくも・・・」

「ま、ままま、待てクーデル、たす、たす・・・たすけ・・・」


オレ達3人の前で、クーデルが命乞いをする田崎に止めをさす。

すると、田崎の亡骸とクーデルは光の粒となり次第に消えて行った。

他の狂戦士たちも同様だ。

リーディアとレヴェインの傷も、いつの間にか無くなっている。


それは、この戦いの勝利を意味していた。



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