1つ目の街マントーネ
マントーネの街の代官エウファノは焦っている。
「何でテソットなんかで蜂起するんだ。王都からの応援が間に合わないではないか」
「そう申されましても。ただ、所詮は貧乏貴族の寄せ集め。我々の精鋭部隊に比べたら地力が違いますぞ」
「敵は3,000人に増えたそうではないか」
「はい。ただこちらは、主街道の主要都市としての防衛隊500人に、徴兵した1,000人がおります」
「冒険者は居なくていいのか?」
「確かに徴兵より戦力にはなりますが費用がかかりますので勿体ないかと。我らには虎の子の中級魔法使いが2人も居りますし」
「そうだな。分かった、任せたぞ」
「おい、副官!奴らが主街道とマントーネの間に陣をはったから、うちの街は封鎖されてしまったぞ!」
「大丈夫ですよ。奴らは墓穴を掘っただけです。王都からの援軍と挟み撃ちになるわけですから」
「そうか。安心と分かると、今度は我々の手柄を援軍に渡すのが惜しくなるな」
「かしこまりました。我らの精鋭部隊で少し脅かしてやることにしましょう」
一方、スクゥーレ達のクーデター軍の陣営にて。
「敵の騎兵100騎程が城門から飛び出してきましたぞ!」
「もっと居るはずなのに、まずは様子見ということか。なめられているな。よし、こちらは全力で当たることで、劣勢を巻き返す広告とするぞ。レオたち魔法使いをフル活用するのだ!」
街への最前線の柵の手前から、従騎士・従士、衛兵、冒険者などの弓を扱える者たちが一斉射撃を行うが、足止めをできたのは1割ほどである。しかも仕留めたというより落馬させたぐらいである。陣に接近してくるまでの引き続く射撃によりさらに1割ほど足止めはできるが、まだ8割ほど残っている。
敵騎兵たちがスクゥーレ達の本陣を目指しているのが明らかになるほど近づいたとき、レオたちによる魔法攻撃を開始する。レオたち3人以外の魔法使いは中級が1人、初級が4人だが初級の1人は≪治癒≫のみであり、彼らだけで≪火炎≫≪火球≫≪火球≫≪水球≫が飛んでいく。それだけでは手前の何騎かの馬を驚かせることでの足止めが主になるだけである。しかし、レオたち3人が≪豪炎≫≪火槍≫≪火槍≫を複数発動させた上でのレオの≪炎壁≫により、馬は足を止めてしまう。何十騎もが柵の向こう側で立ち往生となり、あらためて柵の手前から矢や魔法を打ちこまれる的になる。
「逃げろ!何としても街まで逃げろ!」
慌てて逃げようとはするものの、騎兵たちは混乱した馬を制御することはできず、次々と討たれて行き、残った者たちは降参することになった。
途中で落馬していた者たちへも柵の内側からこちらの騎馬隊が駆けだして捕縛していく。
結果として街から出陣した100騎は1騎たりとも街に帰ることは無く、陣の内側での怪我人は1人も発生しなかった。
その様子を見ていたスクゥーレ達の陣営からは盛大な勝どきがあがり、逆に街の護衛隊たちは士気が下がり切るのであった。
「おい、副官!どうするのだ!」
「……あんな上級魔法使いが複数いるなんて……しかし、相手の手の内はこれで全てでしょう。こちらは無理に攻める必要は無いのです。王都からの援軍を待てば良いのですから」
「そうか、そうだな」
しかしその夜、街から脱走兵が次々と北のスクゥーレ達の陣に駆け込んでいく。兵糧を抱えるだけ持ち出したり、最後には兵糧に火をつけたりして行く。本来は脱走を見張るはずの門番たちまで一緒に脱走したのである。
「今の国王たちにはついていけない。ここの代官もその一派で、俺たち市民を使い捨てと思っていやがる」
「俺たち下級兵の扱いもそうだ。徴兵した奴らと一緒に火魔法の盾にすれば良いと言ってやがった」
「分かった。我々の旗印、スクゥーレ様は国民を大事にされる。そのために蜂起されたのだ。まずはゆっくりすると良い」
翌日の昼間も街からの出陣は無いが、スクゥーレ達からの投降の呼びかけが盛大にされ、夜になると大量な脱走兵が発生してしまった。徴兵された1,000人からだけでなく、突撃して来た騎兵100人を除いた残り400人の防衛隊からも。しかも下級兵だけでなく、勝ち目が無いと見切った者たちも次々とである。
街側の虎の子と言われた中級魔法使い2人も脱走兵に含まれていた。
明け方には代官の屋敷が静まりかえっており、代官の寝起きにも使用人たちが誰も来ず朝食の用意等もされることなく人気が無いままである。出庁して来た副官も身だしなみが中途半端であった。
「これはどういうことだ?」
「我が家の使用人たちも居なくなっています。皆が一斉に逃げだしたのでしょうか」
混乱している2人に喚声が聞こえてくる。
「代官たちを外に差し出すんだ!俺たちは彼らの犠牲になる必要は無い!」
静まりかえった代官の屋敷に住民たちが適当な武器を手に押し寄せて来たのである。こうなると手の打ちようが無く、民衆に縛り上げられ城門から運び出されて行くことになった代官と副官であった。




