真っ黒の仲間
落ち着いてお茶を飲んでいる中で、母娘の話を聞く。
「この子の父親も冒険者だったんですが、あるとき大怪我をして続けられなくなり、このスラム街に。その後はこのスラムのなかでのいざこざに巻き込まれて死にました。形見のうち売らずに残せているのはこの短剣ダガーだけですね」
と特に変わったところもない短剣を出してくる。
「また、フィロも8歳にはなりましたが、普通の職業訓練の場所を探しても、住所がココということでなかなか採用して貰うことができず……」
「ねぇ、私でも冒険者になれないかな?」
「これフィロ!」
「うーん、冒険者には誰でもなれるが、成功できるかは。それに魔物と戦うのは怖いよ」
「私、この短剣で冒険者に成りたい。もう少し歳を取らないと夜の仕事もできないし、お母さんにこれ以上苦労をさせたくない……」
甘いと思いつつも答える。
「最初から魔物と戦うのではなく、薬草採取からやってみるか?」
「え!?良いの?」
「良いのですか?」
「まぁ、俺が教えられる範囲でなら……」
自分と一緒に行動することで目を付けられることもあるかもしれないから、仮面をあげるか、ならばいっそのこと同じように真っ黒に?とレオも悪乗りして、スラム街からの帰り道、執事がレオの黒仮面や黒ローブを買ったという店で、フィロのサイズに合わせた物を購入する。
翌朝、その黒仮面と黒ローブを持ってフィロを迎えに行くと、なぜか親子2人とも大うけして喜ぶので、そのまま冒険者ギルドに行き、フィロの名前で登録をさせる。スラム街に暮らしていたフィロは所持していなかった身分証の入手でもある。もちろん最初は木級、父の形見と言う短剣とレオのお古の盾を持ち、背負袋を持った新人冒険者である。革鎧もなく、もともと持っていた厚めの服を黒ローブの下に着ているだけである。
貸し馬で、自分の前にフィロを乗せて草原に移動し、日当たりの良いところに生息する傷回復薬になる薬草の特徴や採取の仕方を教える。取り過ぎると後で生えてこなくなるので適度にという共通事項と、この薬草は葉のみが必要なので、大きな葉のみを丁寧に短剣やナイフで切り取ることを教える。この場所であれば、周りをみて角兎さえいなければ安全に採取できるはずである。他にも森の中の魔力回復薬になる薬草の生息地なども知っていたが、万が一魔物に遭遇した場合に逃げ切れないであろうから、まだ教えられない。
フィロが筋肉をつけて盾も最低限扱えるようになるまでは、角兎から逃げるときにも邪魔になるであろうから、訓練時以外はスラム街の家に置いておくように指示する。その他には、父の形見と言うダガーについて、簡単な素振り等をそのまま草原で指導し、盾と合わせて自主訓練するように伝える。
いつもいつも同行するわけにはいかないが、たまに様子を見るぐらいなら良いか、もし上達して一緒に冒険できるようになればソロ冒険者も卒業か?などと思いながらスラム街まで送る。妹が居ればこんな感じだったのだろうか、と同じ歳で恐怖の対象であったルネを思い出す。かぶりを振って、長らくしていない薬草の調合もせっかく師匠ロドに教わったことなので再開するか、それもフィロに教えるか、など楽しい方に思考を切り替えるのであった。
公女にそれらの経緯を話す機会があったとき、レオは公女が不機嫌になった気がした。戦闘力向上で許可された勤務中の冒険者業務であるので、フィロの指導などは休日にした方が良いと考えるのであった。
それもあり、レオは自身をさらに鍛えるためにEランク魔物のゴブリン狩りからDランク魔物であるオーク狩りに獲物を変える。本当は銅級に成ったのであるからCランク魔物でも良いはずだが、護衛業務を考えると複数の人型への安定した対応として、Dランク複数から始めることにする。
公都ルンガル北西の魔の森を奥に進むと、冒険者ギルドで聞いたようにオークを見かけるようになった。まずは2体の群れに対して、乗っていた馬を後ろに下げさせておいて戦闘を開始する。森への延焼が怖いので火魔法は避けて、≪氷刃≫で先制攻撃をした瞬間に≪光爆≫で目くらましをして再度≪氷刃≫を連発する。接近してくるまでには1体しとめることができ、1対1になると魔法は無くても≪連撃≫や≪盾叩≫等の武技でも対応できることを確認できた。やはりCランクのハイオークに比べるとDランクのオークは耐久力が低いようである。後から体術の≪肉体強化≫を忘れていたことを思い出し、やはり緊張していたのかと反省する。
2体の魔石と討伐証明の右耳は回収するが、これからの追加戦闘を踏まえると、ほとんどの肉は諦めることになる。太もも部分の骨を取り除いたところだけ馬に縛って行くことにした。その日のうちはまだ慣れないから安全を見て2体もしくは1体のみのオークに攻撃をすることにした。2回目以降は先制攻撃をする前に≪肉体強化≫をして、できるだけ武器での訓練をすることで、魔力を温存する戦い方も試す。
今日はこれで終わると思ったときのオーク2体のみを馬に載せ、さきまでのもも肉をその上に重ねて縛り付け街に帰る。捨てて行くことになった肉がもったいない。実際の容量よりもたくさん入れられるという魔道具の魔法の袋が欲しくなる。冒険者だけでなく商人など欲しい人はたくさん居て、非常に高価と聞いており、かなりな数の金貨が必要なのだろうと想像する。お金を稼ぐためにもなおさら無駄にせず持ち帰りたい。冒険者ギルドで納品をすると、オーク1体の討伐報酬と魔石で0.5銀貨、肉は全身で1銀貨とのこと。もも肉は人気部位で効率が良かったようだが、全身には劣る。
貨幣を受け取って悩んでいると、冒険者ギルド内で他のパーティーも報酬の受け取り、分配をしているのが聞こえてきた。ポーターだからこれだけな、という言葉が聞こえて、あ、と思いつく。戦闘能力は無いが荷運び人として一緒についてくるのがポーターであり、戦闘には参加しないので分配割合はかなり低くされる。フィロにポーターを任せられないだろうか、森に入らず街道に近いところで荷馬と一緒に待たせておけば、と考えたのである。だが、荷馬でも1頭当たりせいぜいオーク3体程度しか運べない。荷馬が1日1銀貨だが、荷馬車は5銀貨。それでオークは20体でも積める。
誰も居ないまま荷馬車を置いておくと盗難の心配もあるが荷物番で居れば。ただ、子供が1人よりいっそ母親イザベッラも頼めたら。さっそく、納品しなかったもも肉を持ってスラム街に向かう。
フィロは薬草だけでも1日数十銅貨稼げることに満足はしていたが、それ以上の手当てをと言うと喜ぶ。イザベッラもまずお試しならと同意される。
レオは、イザベッラにも身元がばれないように、黒ローブと黒仮面を調達して、翌朝、待合わせの冒険者ギルドに向かう。




