フィウーノへの反撃
フィウーノに攻められたムッチーノの街を救いに来たフルジエロ公子の陣営で、作戦を語らされているレオ。
「兵糧が厳しくなって早期決着をつけたい敵に対して、こちらは全面対決を避けて効率的に戦うためにも、敵の数が少ない南門を挟撃したいです」
「だが」
「はい、先ほども申しましたように、街の南西に陣取っているこの陣営に対して西門の敵主力が攻めてくる可能性があります。ですから、私の魔法を使用します」
「まさか、敵の主力を止められるほどの魔法を使えると言うのか!?」
「もちろん、そんなことはありません。それなりに強力な魔法を使用したところで、すり抜けて来られてしまいます。ですので、あくまでも混乱、撹乱するための魔法になります」
細かいことは説明できないと言いつつ、敵陣のあちこちで指揮官あたりに闇魔法≪夜霧≫を発動してその近辺の視界を奪いつつ、適当なところで火魔法を発動することを説明する。さらに夜に、馬小屋にも火をつけるなど混乱をさせ疲弊させておき、まとまった集団行動を取りづらくさせると言うのである。
「確かに、それを逆の立場でされると思うと、うまく指揮を取るのが難しいだろうな」
「はい。ですが、これも上手くいくのは手の内を知られる前の一回だけと思われます」
「大丈夫だ。今回の作戦で南門を完全に解放させてしまえば、次の選択肢は広がる」
「俺たちでは考えられない作戦だが、どうだ?」
フルジエロがそのような言い方をして反対意見が出るはずがないと思ってしまうレオ。
「よし、では完全に南門の敵陣営を殲滅し、南門を解放する。細かいところは俺たちが詰めることにしよう。街にいるバルバリスへの連絡は頼むぞ」
軍隊の動かし方など分からないレオにしてみると、街から誘導のためにバルバリスたちが出陣した隙をついてこの本陣から突撃をかけるという大きな流れは理解できたが、細かい駆け引きの議論にはついていけない。
「今は、明日に挟撃をするからその準備をするように伝えるだけで良い。細かいところは指示書を書くので、それを届けてくれ」
「承知しました」
軍事に疎い自分や仲間が悪魔経由で行う伝言では、細かいことまでは無理という不安についてはフルジエロが解決案を先に言ってくれる。
一応は皆の軍議が終わるまで同席していたが、気があせるので早く仲間達との意識合わせに戻りたい。そして夜のうちに馬小屋などに火を放ったりすることを踏まえると少しでも睡眠をとっておきたい。明日の昼間に寝られるタイミングがあるとは思えないからである。
「まぁそうあせるな。指示書を書くぐらいは待っておけ。それと、今のうちに食事でもしておけば良いだろう」
公子が書状を書いている間に食事など、という顔をしたレオだったが、側近の人は状況をわかっているという感じで、別の天幕に案内して食事を出してくれる。
「先日いただいた兵糧を使えるので、皆が節制をしなくなったと喜んでいますよ」
気を紛らわせるためと思われる言葉もかけて貰い、その食事に手をつける。
流石は公子の食事を提供する料理人、ということなのか。とても美味しいという驚いた顔を見た側近は嬉しそうである。
「実は料理は私の担当でして。喜んでいただいたようでありがたいです。それに、食材が豊富に使えるのを喜んでいるのは本当なのですよ」
「いえ、本当に美味しいです。まさか戦場でこんな美味しいものを。食材は特別なものではないのですから、調味料だけでなく手間暇と工夫ですよね」
「そう言っていただけると。趣味が高じて公子殿下への料理当番までに。あ、お側にお仕えすることになったのはそれより前ですので、これのおかげ、ではないのですが」
「どこに遠征に行ったとしても美味しいものを食べることができると息抜きになりますよね。特に公子殿下のお立場を踏まえると」
「ありがとうございます。そういうところでもお役に立てているのでしたら幸いです」
「お、食べているか。こいつの料理は上手いだろう?これで力を得られたなら、今晩も頑張れよ」
「は、はい」
「ははは。冗談だ。ここに戻って来ても楽しみがあるだろう?その程度に思ってくれたら良い。お前の食事もこいつに作らせることにしてやる」
「あ、ありがとうございます」
ここに来るのを避けたいと思っている気持ちがどこかで漏れていたのだろうかと冷や汗をかきながら、この食事は本当に楽しみだと思える。
「では」
フルジエロからの指示書を預かったレオは≪飛翔≫で空へ上がり、ムッチーノの街に向かう。
そして、代官館でその指示書をマルテッラに渡す。
「なるほど。で、レオはどういう動きをするの?」
問われるままに、今夜のうちに敵陣で馬小屋を燃やしたり、明日には敵の主力である西門の陣営に嫌がらせをしたりする旨を答える。
「それと、仲間達にも城門の守りだけでなく、それぞれの敵陣に向けて攻撃をさせることで、さらにフィウーノ軍に混乱をさせようかと」
「良いんじゃない。でも無理はしないようにね。今日は早く宿に戻って寝ておきなさい」
「はい、ありがとうございます」




