北方への出征
「レオ、私に1人で行けというの?」
「そんな」
「じゃあ、一緒に行ってくれるわね」
マルテッラに先に行くつもりであることを声かけに屋敷に来ると、叱られてしまうレオ。
向こう側で執事が首を振っていて、かなりダメなことをしてしまったようである。
「マルテッラ様の護衛をお願いできますかな、コグリモ様。元々お城を出た公女様に公国の近衛騎士はほぼおりませんし、今回は2度に分けた出征で、公都を離れられる騎士達は既に出発済みです。冒険者達に新規に依頼するにも、そちらも2度とも募集をしておりますので残った者達だけになりますし、公女様への護衛としては不安が残ります」
「それは」
「私達からも騎乗できる者を3名ほど同行させますので、よろしくお願いします」
この執事達には色々教わったのだし、ついてくる屋敷の人達も同僚というより先輩達でありお世話になった人達である。
おそらく公女の魔法の収納袋には立派な天幕や調理道具なども収納されて、マルテッラのベッドや食事などの心配はしなくて良いのだろう。それでも何日かは野営することになる距離で、しかも馬車ではなく騎乗である。
「レオ、なんか面倒って思ったわね。私だってちゃんと騎乗できるってことガンドリアへの援軍の際に知っているでしょう?」
あの時はゆっくりだったし、と口にはできずに頷くしかないレオ。
「ということで、私も明日には出発できるわ。良いわね、朝に迎えに来なさいよ」
「そうか、また公女様と一緒に行軍か。楽しそうだな」
カントリオの軽口にレオが苦笑いをするしかない。
「ま、ムッチーノの街に到着するまで、なんだろう?戦場で野営させるなんてことにはならないよな」
「今のところ国境手前のムッチーノが危ないという話ではないみたいだから、マルテッラ様をそこまで送り届けるまでがメインかな」
エルベルトの慰めっぽい言葉にすがることにする。
翌朝、マルテッラの屋敷に迎えに行くレオ達。レオ、フィロ、ベラ、エルベルト、カントリオ、メルキーノ、シュテア、ラーニナ、ケーラの9人に、追加の戦馬が3頭である。
「私達も、レオに合わせて戦馬を用意したのよ」
マルテッラと従者3人のいずれもが戦馬であり、通常より大きな馬が16頭というかなりな集団になっている。
「この集団を襲う魔物や盗賊はなかなか居ないわよね」
「いや、フィロ達みたいに小さいのが多いから狙われるかもしれないぞ」
「カントリオ!」
公都ルンガルを出て草原を進みだすと緊張も取れて適当に散らばりながら駆け出していく仲間達。
「レオ様、街道沿いには行かないのですね」
「うん、ルンガルから東に行って港町、そこから北上してムッチーノという街道を通る経路が、馬車だったら普通だろうけれどね。でもみんなが戦馬に乗っているし斜めに北東に進む方が早く到着するよね。たぶん第1公子達もその経路を選んだと思うよ」
公都の北側には山があり、以前には狩りにも行ったことがあるが、この草原をそこまで進んだことはない。それほど強い魔物もいないとだけ聞いているので安心して進んでいる。まぁこの集団で倒せない魔物もそうそういないと思ってしまっている自分にも驚いている。
この前に実家に帰ったときにも思ったが、あの頃に比べてかなり強くなった自負と自信もついて来ているのだと思う。
「レオ、何のんびりしているの?早く来なさいよ」
「マルテッラ様、戦馬だからといってそんな駆け出さないでくださいよ」
「屋敷にこもっているよりも、こうやって外を走るのは楽しいわね。私も冒険者になろうかしら」
「マルテッラ様」
「冗談よ。私も公爵家に生まれたことへの覚悟はあるわ。この先には、公国のために戦って怪我をした者、もしかすると命を落とした者がいるかもしれないことも分かっているわ」
「マルテッラ様……」
「思い詰めても到着しないわ。それまでの気分転換よ。ほら、レオも追いかけて来なさいよ」
「わかりました。おかげさまで私も乗馬には慣れましたよ。見てくださいね」
マルテッラの屋敷から来た3人も、レオが乗馬をできなかった頃を知っているのと、マルテッラが楽しそうにしていることを見て、微笑みながら馬を進めている。
一方、ラーニナやケーラはいまだに公女との距離感に戸惑いを覚えており、不敬罪を心配してヒヤヒヤしている様子であった。




