シラクイラとの別れ
港に戻り船から降りたレオたちは、レオの希望で、網にかかった陶器が捨てられているという場所に向かう。
「お、確かにここに壺などのゴミがいっぱいだな」
「カントリオ、ゴミじゃないよ。ほら、ここに古代文字があるだろう?」
「確かに。みんなも競争だ。お、ここにも」
あまりに皆が楽しそうに探しているので、我慢できなくなったマルテッラまで参加して、文字が刻まれたカケラを集めだす。
「えーと、これは“水”だね。魔法でもよく出てくる文字だし。えーと、これは何かな?」
天使グエンも召喚して教えて貰っていく。
「結局、水、塩、麦などだけだったんだ。それって一般家庭の貯蔵のツボに名前を書いて分かりやすくしているだけじゃないか」
「なーんだ。残念」
「もっと魔法の深淵みたいな物が見つかれば良かったのに」
「海底の遺跡にはもしかしたらそういうのが眠っているかもね。でも、魔導書が残っている可能性は低いよね。魔道具とかはあるのかな」
「底引き網で上がった噂もないならば、どうなのかな」
以前から気になっていた調査もできて満足しながら街中に戻って来たレオたち。
しかし、宿屋の前に代官の使いという馬車が待機していることを知ると、その後の面倒が心配になる。
「申し訳ありませんが、公女殿下はこの街にはお忍びで来ております。大事にすることは望まれておりません」
「そうはおっしゃいますが、このシラクイラの危機を救って頂いたのに何のお礼もしないことには……」
「いえ、逆にそれは迷惑になると申し上げております。どうか姫様の貴重な平穏の時間を無くさないでくださいませ」
マルテッラについて来た侍女が代官の使者に対して何とか穏便に済ませて貰うように頼み込んでいる。
「でも逆の立場だと、他国の公女一行に助けられたのに何もしなかったとなれば、代官の立場が無いのも分かるわよね」
使者に聞こえないところでマルテッラがレオに話しかけてくる。
「あなたの実家に迷惑をかけないようにするには、早々にこの街を去った方が良いわね」
「申し訳ありません。みんなに声をかけて来ます」
「ま、しょうがないよね。もっとお魚料理を食べたかったけれど」
「ごめんね。今のうちに街で買い出しをして来て良いから」
レオは仲間たちに買い物をさせている間に、実家に急いで向かう。
「何?もう戻るのかい?もっとゆっくりするんじゃなかったの?」
「アン、そう言ってやるな。レオの顔を見ろ。本人だってそうしたいわけじゃないのだろう」
「師匠、すみません。ルネとガスにも謝って貰えますか」
「あぁ、怒るだろうが、仕方ないんだよな」
「すみません。もう時間がないので。みんな、元気で。本当に何かあったらルングーザ公国かコリピサ王国に来てね」
「あぁ行かないように気をつける。逆にレオも何かあったら帰って来られるところがここにあるって覚えておけよ」
「レオ、手紙はちゃんと送ってくるんだよ。高いから、こっちからはあまり書けないだろうけど」
両親、兄、師匠にだけは別れを告げられたが、幼馴染のルネとガスの、特にルネの怒った顔が思い出され背筋が震えるレオ。
「お、レオが戻って来た」
「遅いぞ、レオ。下手すると代官本人が宿にやって来そうな勢いだよ」
「そう言ってやるなよ。しばらく会えない実家に挨拶して来たんだ」
「分かっているさ。姫様の代わりに言ってやっただけだよ」
「私も実家への挨拶時間をあげるくらいの心のゆとりはありますよ」
「マルテッラ様、申し訳ありません。こいつカントリオはこういうヤツなんで。どうかご容赦を」
「分かっていますよ。それよりも出発を急ぎましょう」
国を出て一緒に行動する時間も長く、釣りなども一緒に楽しんだ仲だからか、公女と仲間たちの距離が縮まった様子を見て嬉しく思う。
何かと世話になった宿の従業員には多めのお金も渡しつつ、代官への手紙を預ける。
「これがあれば、代官としても上役に言い訳ができるでしょう。こちらの都合で去る旨を書いてあります。皆さんにご迷惑をおかけすることもないと思います。後をよろしくお願いします」
「は、承知しました。良き旅になりますように」
小さな街なのに良くできた従業員がいる宿だったわね、と後からマルテッラに言われ、故郷のことを誇らしく思う。
往路ではガンドリア王国の王城やエルベルトたちの実家の村に立ち寄ることもあったが、復路ではそれらもなくゆっくりとした道中になる。
「レオ、シラクイラではゆっくりできなかったけれど、今だけはのんびりしておいてね」
「マルテッラ様、戻ったら何かあるような言い方ですね」
「あら、あのお兄様がレオに楽をさせてくれると思うの?」
いつも対面時には緊張させられるフルジエロ第1公子の顔を思い出し、胃が痛くなる。




