家族の困惑
公女マルテッラが、このシラクイラからレオを送り出してくれたことのお礼を言った際に、レオの今の貴族の立場に触れたところで、レオの家族たちは固まってしまっている。
そのことに気づいているエルベルトがレオのことをつついて、補足説明をうながして来る。
「えーと。もう一度分かりやすく説明するね。貴族にさせてもらったの。で、公女マルテッラ様以外で今日一緒に来ているのは仲間で、一般的にはそのコグリモ家の家臣ということになるかな」
「……」
しばらく沈黙があった中、一番知的なことに強いはずの、この薬屋・寺小屋の主人であるロドが発言する。
「コグリモ伯爵閣下?発言をよろしいでしょうか」
「師匠、レオって今までのように言ってくださいよ」
「いえ、しかし……」
「お父さん、本人が良いって言っているんだから良いでしょ。レオ、どういうこと?よく分からない。あんた、そちらの公女様の使用人として出て行ったのでしょ?」
「ルネ、そうだよ。マルテッラ様の護衛のための使用人としてこのシラクイラを出て行ったんだよ」
「なら、どうして」
「その護衛やら色々としている中で認められて」
「そんなこと手紙にも何にも書いていないじゃない!」
「ルネ、書けないだろう、普通、そんなこと。レオ、で良いんだな、今まで通り。色々と驚いたが、まずは元気そうで何よりだ」
「そうね、レオ、元気で良かったわ。それに公女殿下、皆様、レオに付き合ってこんな遠くまでお越し頂きましてありがとうございます」
師匠ロドや母アンがまずの言葉を続ける。
その後は、自己紹介としてレオの家族たちが挨拶した後、レオの家臣たちが挨拶を行う。
「レオ!あんた貴族になったからってこんな女の人たちの奴隷を!」
「ルネ!何を言っているんだ。戦争で色々と経緯があって、奴隷になったままほって置けなかったから仲間になって貰ったんだよ」
「そうです、ルネ様。レオ様は奴隷として扱うことはされずに、それどころか家臣というより普通の仲間として扱ってくれています!」
会話が始まってしまえば、外の大きな馬はなんなんだ、など様々な話がされだす。
「レオ、ちょっと良いかしら。そろそろ襲爵の話をしないと」
マルテッラに指摘されて、何となく先送りにしていたことをレオは話しだす。
「それでね、貴族になったから、万が一に自分が死んじゃった時のことなんだけど、その貴族の位を引き継いで貰わないとダメなんだ」
「レオ、それって。父ディオ、母アン、兄クロの順番ということだな」
「流石は師匠!」
「レオ、何を言っているんだ。親より先に子が死ぬなんて話をするな」
「デュオ、そういうことも決めておくのが貴族なんだろう。誰もレオが先に死にたいと言っていない」
「……ロド、すまない……」「レオ……俺は難しいことは良く分からないが、お前の貴族のことを引き継げるわけもないし、先に死なれたくもない。早く嫁を貰って子供を作れ」
「お父さん、何を言っているんですか。レオはまだ成人もしていないのですよ」「レオ、継ぐのはその仲間のどなたかにお願いするわけにはいかないの?」
「お母様、私たちはあくまでもレオ様の家臣です。後継ぎ、襲爵はあくまでも血のつながりのある方にお願いすることになるかと」
「レオ、俺も難しいことは分からない。俺はこの宿を継いで行くと決めたんだ。面倒なことを持ってこずに、子供ができるまでは死ぬようなことをするな、で良いんじゃないか」
「ディオ、アン、クロ……。まぁレオも言い出したくないから、姫様に言われるまで黙っていたんだろう?まぁ、わかってやれよ」「レオ、みんな急な話すぎて混乱している。シラクイラにはしばらく居られるのか?いったん終わりにしないか?公女殿下にいつまでもこんなあばら屋に居ていただくのは家主としても心苦しいし」
師匠がおどけながら助け舟を出してくれたことに感謝する。
「レオ、あんたの部屋ぐらい残しているけれど、今日は泊まっていけないのかい?」
母の言葉に、公女や仲間達の顔を見渡すと皆からも頷かれる。
「じゃあ、みんな、マルテッラ様を宿まで無事にお連れしてね。明朝、そっちの宿に顔を出しに行くよ」
公女と仲間を見送った後は、自分の戦馬だけ中庭に移動させる。
「レオ、冒険者ランクはどこまで行ったんだ?」
皆がいる前ではずっと黙っていたガスが聞いてくる。
「銀級だよ。Bランク魔物のレイスの単独討伐をきっかけで」
それもだいぶ昔のことだったと振り返っているレオに対して、ルネとガスの食いつきがすごい。ハイオークキングの話は不用意にはできないな、と思わされる。また、ロドからも覚えた魔法の話を聞かれるなど、昔に戻った感じがする。
兄クロが、どの子が彼女なのか?と聞いてくるのには困ったが、さらにそこへルネが噛み付いてくるので、誰でもないと理解して貰うのも大変であった。
そして、日頃は無口な父が酒の勢いか、
「久しぶりに帰って来たと思ったら、成人もしていないのに自分が死んだときのことなんて言いやがって……」
とつぶやき、母に肩を撫でられているのを横目で見て、胸がつらくなるレオであった。




