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本郷-5

 深夜2時を回っていた。


「仕事熱心だな。お前らは」

「源さんこそ。怪我が酷いのに動かしてしまい、申し訳ございません」

「いいさ。「シシガミユウキ」の正体がわかるかもってなったら、這いつくばってでも動かねぇと」


 飯島が自分のデスクでノートPCを操作する。本部内はまだ電気がついており少数の人間がいた。


「アクセスできそうですか?」

「ああ。ただ深いところまでは無理だぞ」


 飯島が本郷に操作をゆだねるようにノートPCをずらす。

 画面に映っていたのは警察のデータベースに保管されていた"魔力暴走事故の加害者"リストだった。

 

 本郷はページ内で文字検索を行う。ワードを打ち込み検索をかけるがヒットしなかった。


「こっちじゃないか」

「どうするよ。柴田が来るまで待機するか?」

「……いえ」


 顔を上げると柴田が歩いてくるのが見えた。小走りで近づいてきた柴田は何も言わず、ノートPCを奪いUSBを差した。


「状況が状況だから、上層部に話を通してデータの閲覧許可を貰ってきたわ。「ワクチン接種者がもしかしたら暴走事故を起こしたかもしれない。確認させてください」と言ったらすぐに了承してくれた」


 聞いてもないことを答えながら操作していると画面が切り替わった。


「VRSに直接アクセスして引っ張ってきたデータが全部入ってる。2重パスワードがかけられてある秘匿データも」


 各都道府県のpdfデータが入っていた。市区町村ごとに分かれている。


「全国各地のデータが入っているから膨大よ」

「纏めているデータとかねぇの?」

「そういうと思って、トップにあるフォルダに纏められているものがある。というか纏めた。雑だけど文句は受け付けないから」

「柴田管理官。今からいう言葉で検索して欲しい」


 PDFデータを開くと本郷がワードを言った。柴田は頷き操作する。

 1件、ヒットした。

 ワクチン接種者の中には、目的の人物がいた。


「……予想は的中だな」


 検索したワードは、「シシガミユウキ」。


 検索した個所に向かうと、映ったのは女性だった。


「ある意味、進藤は本当のこと言っていたな」


 詳細のプロフィールを確認するには別データを参照する必要があった。

 神奈川県横浜市緑区に在住。本郷は神奈川県のワクチン接種データを確認する。横浜市に飛ぶと「シシガミユウキ」がいた。


「プライベート情報の無断閲覧になりますが」

「構わないわ。口外しなければ捜査上必要なことだったで済むから」


 柴田から許可を貰い住所と電話番号を確認しようとする。

 だがそれは意味のないことだった。


「既に、死亡している」


 納得した。これで相手の目的はハッキリした。


「ワクチンが原因か」


 飯島は確信を持って言った。本郷は口許を隠すように手を当てる。


「プレシオンが開発される前に死亡している。以前のワクチン接種が原因か? それとも開発の段階、治験で死亡したとも考えられるな」

「待て。今話題になってる「シシガミユウキ」は、彼女の親族が名乗っている、とかか?」


 飯島の言葉に頷く。


「そう考えるのが妥当かと。とにかく彼女の家族関係を洗い出して」

「……そだ」


 赤志が唇を震わせた。


「嘘だ」


 明らかに様子がおかしい。本郷は眉根を寄せる。


「赤志? ど、どうした」

「嘘だ。え? なんで?」


 ありえない。そう言った。

 本郷はもう一度相手の顔を見る。


 黒髪のショートウェーブヘア。鼻が高く目が大きい。

 ぱっちりとした二重に綺麗な白い歯を見せた笑顔。

 日本人というよりも、欧米人に似た美人な女性だった。


「なんで……この人が映るんだ?」

「知り合いか?」

「この人は、だって」


 赤志は息を呑んだ。




「尾上さんの……恋人だ」





 


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