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楠美-2

 神奈川警察科学捜査研究所は横浜市の中区に存在する。近くには横浜公園、元町・中華街駅がある。

 車から降りると女性職員が出迎えた。案内に従い2人は情報共有スペースとされている広い部屋に案内された。職員がフードを被る赤志を怪しんでいたが、楠美が上手いことフォローした。


 しばらくして男性職員が2名入室した。椅子に座っていた楠美は立ち上がって頭を下げる。


「お忙しいところ申し訳ございません。小御門(こみかど)先生。突然ご連絡してしまい」

「飯島さんからも事前にご連絡を頂いておりましたが」


 小御門、と呼ばれた男がチラと赤志に視線を向ける。顔は苦労皺が多く、非常に年老いて見える。


「手短にお願いしますよ。こちらも忙しい身なので」

「承知いたしました。お聞きしたいのは本郷朝日さんの事件に関してです」

「それに関してはすでに情報をお渡ししているでしょう」


 薄くなった髪をガシガシと掻き不快感を露にした。

 楠美は小御門の隣にいる若い男性に視線を向ける。

 眼鏡をかけた黒髪の男性は頭を下げた。頬にはガーゼが貼ってある。


「研究員の向井(むかい)です。血中薬毒物鑑定を行いました」


 赤志が向井を見る。


「ご存知かと思われますが、被害者からはトリプルMの反応が大量に検出されております。直接的な死因ではないにしろ、魔力暴走を起こすことは避けられなかったかと」

「そのトリプルMに関してなのですが、成分は世間に出回っている違法薬物と同じものなのでしょうか」


 研究員2人が目を丸くする。先に不快感を露にしたのは小御門だった。


「どういうことでしょうか」


 向井が困惑した様子で聞いた。


「被害者はプレシオンを接種してました。つまりトリプルMを飲んだところで魔力がそこまで増幅することはありえないと思うのですが」

「……えっと」


 向井は助言を求めるように小御門を見た。小御門がかわりに口を開く。


「本郷朝日さんのワクチン接種歴はありませんでした。それは確認済みのはずです」

「朝日さんのご家族から、彼女がワクチンを摂取していたと聞いております」

「それが? データよりも身内の言葉を信じるのですか。そもそもそれが本当なら、半年前の調査中に声を上げればよかった」


 今更遅いんですよと吐き捨てるように呟くと、小御門は鼻を鳴らした。


「もういいですか? こちらも暇ではないので」


 2人が背を向ける。

 赤志は楠美の耳元に唇を近づける。


「向井を止めてくれ」

「どうして」

「ジニアが人間を襲っていたことは知ってるな?」

「それが?」

「あいつが襲われていた奴だ。髪型は違うが顔と声と頬の傷の位置が一致している。ついでに眼鏡も」


 小御門と向井が部屋から出て行く。


「……確かですか」

「自信は7割」

「向井さん!!」


 楠美が声を上げた。向井の肩が上がり、恐る恐るといった様子で振り返る。


「申し訳ございません。どうしても向井さんにだけ、お聞きしたいことが一点あります」

「えっと」


 廊下に出た小御門は立ち止まったが、舌打ちしてひとりその場から離れる。

 向井は瞳を泳がせながら部屋に戻った。


「なんでしょうか」

「頬の傷。大丈夫ですか?」

「は? あ、えっと、はい。転んだ際にちょっと擦り剝いてしまって」

「夜道は危ないからね。気をつけてくださいよ」


 赤志が言った。


 瞬間、明らかに向井は言葉に詰まった。


 赤志の方を一瞥して、「気をつけます」と言ってその場から離れた。廊下に出た所で、バレないよう楠美が後を追う。

 向井がエレベーターに乗ったことを確認してから階層を確認する。1階に向かっていた。


 小走りで部屋に戻ると赤志は窓から下を見ていた。ちょうど正面口が見える位置だった。

 白衣を着た向井がいた。


「あの野郎、どこに行くつもりだ?」


 向井は駐車場に停めてある車に近づいている。


「野郎、逃げるつもりか」

【明らかに怪しいな】

「応援を呼びます」

「その前に追うぞ!!」


 赤志は窓を全開にして楠美に近づくと、膝裏に腕を回し、片方の腕で背中を押さえ抱きかかえる。


「え、ちょっ────!」

「掴まってろよ」


 窓枠を蹴飛ばし、2人は1階に降りる。突然の浮遊感に楠美は悲鳴も上げられなかった。

 赤志は両足で着地する。衝撃が楠美にも伝わったが、赤志は平然としていた。

 視線を前に向けると、向井が怯えた瞳を向けていた。


「待て!!!」


 向井は小さな悲鳴を上げて運転席にもぐりこむ。

 楠美を下ろし、赤志はその場から跳躍しボンネットの上に着地する。


「出てきな!!」


 運転席にいる向井目掛け拳を突き出した。

 轟音が鳴り響く。巨大な鉄骨がコンクリートの地面にぶつかったような音が鳴った。


「なっ────」


 赤志が息を呑んだ。

 ()()()()()()()()()()()()()からだ。

 困惑していると蒼ざめた向井がエンジンをかけ車を走らせた。赤志はバランスを崩し、飛び降りる。


「あの車、まさか」


 遠ざかっていく車を睨みつけていると赤志の隣にRAIZEが止まる。


「赤志!! 乗って!!」


 窓を全開にした車から楠美の怒声が放たれる。

 助手席の窓に頭から突っ込むと、楠美はアクセルペダルを力の限り踏み込んだ。

 

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