表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/117

白山-2

 本郷刑事がひとり暮らしの女の家に入り浸っていた。

 自分が撮った写真を見つめながら飛燕は頬を膨らませた。これでは浮気調査しているようではないか。


「違うんだよ~。欲しいのは事実とか真実とかなんだよ~」


 写真を助手席に投げ捨てハンドルの上に両腕を乗せる。もし本郷が妹を殺していたとして、あの女性が共犯ではというのも考えた。だがどう見ても初めて知り合ったといった感じだ。

 まさか恋仲か。停車中でも動いているワイパーが雨粒を消す。飛燕の想像を洗い流すようだった。


「いったいどんな関係だ。なんで頻繁に会う必要がある」


 本郷が三鷹組の進藤を探しているという情報までは掴んでいる。神奈川県警の連中に金を掴ませて手に入れたのだ。そこに嘘はないだろう。

 ではあの女は進藤の愛人か旧友か。それとも進藤に狙われているのか。何らかの理由で。


「やっぱ直接取材してみっかなぁ。でも下手すると犯罪だし警察手帳でも持って……いやダメだ。身分詐称だ。どうすっか」


 悩んでいた時だった。電話がかかってきた。編集長からだ。


「はい」

『まだ横浜駅にいるのか?』

「ええ。そうです。でもやっぱりガセですよ、あのタレコミは。横浜駅にレイラ・ホワイトシールが現れるなんて」

『だよなぁ。独占取材は夢のまた夢だ』


 今日は不発だな。という編集長の愚痴を聞きながら会社に戻ることを告げた。

 飛燕は鼻を鳴らしシートベルトをした。


「……ん?」


 ふと目を前に向けた時だった。

 横浜駅前で傘を差した人々が集まっていた。


「おいおい、マジか」


 ガセネタではなかったのか。シートベルトを外し助手席に置いていたカメラを手にすると外に出た。

 雨に濡れながら駅に向かうと悲鳴が上がった。次いで何かが壁に激突するような低い音も。


 野次馬が悲鳴を上げる。飛燕はその隙間を縫うように体を入れカメラを向けた。

 そこにいたのは、獅子人(レオリエント)猫人(ケットシー)の少女。


 そして、両者の間に挟まるように立っている人物。あのフード姿には見覚えがあった。


「あ、赤志勇……」


 赤志が叫び、獅子を殴り飛ばした。

 なぜ最強の獣人でもある獅子人(レオリエント)がいるのか、なぜ赤志が獣人と戦っているのか、という疑問が飛燕の行動を鈍らせた。

 慌ててカメラを構えた時には赤志と少女が消えてしまっていた。


 野次馬がざわつき、注目は残った獣人に向けられる。飛燕のカメラレンズもそちらに向けられた。

 警察が注意していると獅子は素早く相手の銃を奪い、粉微塵にして見せた。

 高笑いしながら駅構内に向かう巨大な獣人。誰もが距離を取り始めた。国家権力が手も足も出ないのだ。一般人など逃げ惑うことしかできないだろう。

 だが、飛燕は違った。


「逃がすかよ」


 奮い立たせるように呟き後をつける。相手は4番線に向かった。京浜東北線根岸線だ。

 どこに向かうつもりだと思い、ハッとする。鶴見だ。赤志勇が住んでいるタワーマンションがそこにはある。


 車で先回りすることが一瞬過ぎったが相手の動向も気になる。飛燕は尾行することを決めた。

 相手が改札を通り角を曲がる。飛燕も続けて曲がる。


「こんにちは」


 巨大な爪がぬっと出て来た。


「!!?」


 悲鳴を上げる暇もなく首からぶら下げていたカメラが捕まれ握りつぶされた。


「記者さんかな? それともただの獣人ファン? どちらにせよ敵じゃない。2つの意味でね」


 獅子は飛燕を一瞥すると視線を切った。


「追いかけてこなければ殺さない。じゃあね」


 遠ざかっていく大きな背中を見つめながら荒い呼吸を繰り返す。

 飛燕は相手の姿が見えなくなってから、バラバラになった部品を集め、その場から駆け出した。

 車に戻ってきた飛燕の顔は怒りの笑みを浮かべていた。


「ざけやがって。ちっぽけな脅しで引き下がってたら、こんな仕事やってられねぇんだよ」

 

 赤志とあの獅子は進藤や、先日の電車暴走事故に関わっているかもしれない。ただの勘だが思い当たる節は大量にある。


 魂に火をつけた飛燕は車のアクセルを強く踏みしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ