赤志-4
赤志は魔力を活性化し眼球を強化した。獅子と進藤の魔力を透視する。
【人間の方。酷く不安定だ。ドーピングで魔力を底上げしたか?】
獅子を睨む。
「てめぇが提供したのか? 薬物を」
「さぁ? そんなことより会えて嬉しいよ。”アカシーサム”」
「あ?」
「まずはお礼を。ありがとう。バビロンヘイムを、僕たちの住む世界を守ってくれて」
「どういたしまして。お礼を言えるようないい子ちゃんだったら、自分が何してるかわかってるよな?」
「……光速移動だね。魔力酔いを危惧したのかな? 必死に足を動かして来るなんて、お疲れ様」
「大変だったよ。で? ジュースでも奢ってくれんのかい?」
「その髪、赤志勇か!!!」
進藤が2人の間に割り込んだ。嬉しそうに白い歯を見せている。
「異世界の英雄! いやぁ会えて光栄だ! キミのファンなんだよ! ぜひ握手を」
腰を少し曲げ両手を伸ばした。獅子が、そんな彼の襟首を掴み引き寄せる。
「おおう。なんだ、ジャギィフェザー。邪魔するな」
「バカなの?」
黙っていた武中が大きな舌打ちをし、忌々しげに顔を歪めた。
「赤志。進藤だけでもいい。ひっ捕らえてくれ。魔法を使っても構わん!」
「そうしたいんだけどさ、ひとつハッキリさせたい。獅子人」
「ん?」
「名前は」
「ジャギィフェザー」
「そうか。ジャギィフェザー。お前、なんでこんなことしてる? なんでヤクザなんかとつるんでる」
「……んん。僕の想像と違うなぁ」
ジャギィフェザーは頬を掻いた。
「有無を言わさず戦ってくれるタイプだと思ったんだけど。まぁ答えるよ。そうだな」
少し瞳を逡巡させ、合点したように指を鳴らした。
「”暇潰し”かな。弱い人間を叩き潰す。異世界にもいたし、あったでしょ? 「人間叩きゲーム」。あれの延長だよ。弱い弱い、失敗作の連中を叩いて、遊ぶ。ついでに強い奴と戦えたら最高。それだけだよ」
赤志が短く息を吐く。相手を強く睨みつけた。怒髪天を衝くほどの激しい怒りは空気を震わせるようだった。
「弱い人間なんて殺して当然でしょ? 鬱陶しくて仕方ない」
暗雲から雷鳴が鳴り響く。
「わかった。殺すわ」
呟くと武中と進藤の視界に青い線が走った。
刹那、雲の隙間から紫電が飛び出し轟音を鳴り響かせる。空を割るような爆音に武中は片耳を押さえ、厳しい表情を浮かべる。気を抜けば蹲ってしまいそうだった。
進藤も体を傾げ、困惑した顔を空に向ける。
唯一獅子だけが、ジャギィフェザーだけが余裕綽々とした態度を取っていた。
「お怒りはごもっともだ。けど、いいの? アカシーサム。ここで始めて」
ジャギィフェザーは両手を広げた。
「周囲には人が大勢いる。僕は必ず”ブリューナク”を展開するよ」
「3割くらいだろ」
「僕を甘く見るな。全身展開も可能だ」
獅子の瞳が光った。
「周囲に高密度な魔力がばら撒かれる。一般人は”魔力酔い”で必ず死ぬよ」
赤志は武中を見る。
頭を振られた。気にするな、と言っている。
【そう言われてもねぇ。犠牲者があんただけじゃ済まねぇんだよな】
「なんだ、やれねぇ感じか。じゃあ引こうぜジャギィフェザー」
がっかりしたように進藤がつぶやいた。
「あ、殴り合いで決着つけるなら見ててもいいぜ?」
「いや。逃げよう。触らぬ神に祟りなし、だよ。下手に手出ししたら火傷じゃすまない」
ジャギィフェザーが踵を返した。
「じゃあ、また会おう! 英雄! 今度は握手をしてくれ!」
進藤は手を振って笑顔を向けると獅子の後に続いた。
「お、おい! みすみす逃がすつもりか!」
武中は怒号を飛ばす。
「わかってるだろ、あんたも」
眼光鋭い武中に臆さず赤志は言った。
「あいつらは市街に出た時点で勝ちだった。とにかく、この場をどうにかしよう。トルネードの魔力はそれほどじゃないけど、空色魔力が大量に染まっているのも事実だ」
武中は当たりを見渡す。野次馬や通行人がわんさと湧き始めていた。
赤志はフードを被る。
「俺はたまプラーザ駅に戻る。この場はあんたに任せ……ます。一般人を避難させて」
「ま、待て!! 電車はどうなった! 止まったのか!?」
「無線聞いてないんですか?」
「……逃亡した進藤たちの確保を最優先にしていたからな。もし電車事故が起きたってなったら暴対課の士気に関わるから、情報を絞ってた」
「そっか。まぁ、俺がここにいる時点で答えみたいなもんだと思いますけど」
赤志は口許に力の無い笑みを浮かべた。
「ちょっと怒られてきます。電車事故を無事に防いだ件でさ」
赤志の姿が紅蓮に染まる。
武中が瞬きをして再度開いた時。
赤志の姿はすでになかった。




