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赤志-3

「だぁ!! 鬱陶しい!!」


 暴徒の腹を蹴り飛ばす。軽く蹴ったつもりが、相手の体がくの字にひん曲がり後方へ吹き飛んだ。


「あ、やべ」

【加減しろ馬鹿!】

「まぁいいだろ。やべぇ奴ひとり掃除しただけだし」


 ピクリとも動かなくなった相手を無視し本郷と進藤を探す。


【いねぇなぁ。帰ったんじゃねぇの?】

「んなわけねぇだろ馬鹿」


 後頭部から殺気を感じた。


「死ね!!」


 振り向きざまに手を広げ受け止める。金属バットが手の平にすっぽりと収まった。


「あのな、異世界にいても知ってんぞ」


 バットを振り下ろした男は恐怖心から唇を戦慄かせた。カタカタと手が震えている。

 

「バットはボール叩くモンだっ!!」


 相手の顔面に頭突きをかます。悲鳴と共に男がバットを離した。

 赤志は手を滑らしグリップ部分を握ると短く持ち、男の股間付近目掛けてフルスイングした。

 鈍い音が響き渡る。男が大口を開け、股間を抑えながら膝を折る。顔が青ざめていき涎が口の端から落ちた。


 そして、この世の終わりのような表情に向かって、再びフルスイングした。歯を飛び散らせながら、男が後転していく。


「どーよ。異世界ホームランダービーで3位入賞の実力者だぞ。こちとら」

【魔法無しでこの好成績よ】


 バットを放り投げた。隣ではジニアが、ナイフを持った女性の背中を蹴り飛ばしていた。

 続いて向かってきた男に向かって腕を振る。爪を立てていたため、男の顔が引き裂かれ血が噴き出す。眼球ごと切られていた。


「うぉう。えげつねぇ」


 赤志は身近にいた男の首を掴み引き寄せる。

 

「コスプレは決められた場所でやれ!!」


 頭突きをかまして手を離す。襲い掛かって来た男の人中に拳を叩き込む。続けざまに来た女性の髪を掴み腹に膝蹴りを2度叩き込む。

 黄色い液体が口から吐き出されたので、乱雑に放り投げた。


「ばかっ! やめろ! この服気に入ってんだよ。ジニア!」


 指示を出すとジニアが回し蹴りで女性の顔面を蹴り飛ばした。


 次に来た者は掌底で顎を外し肘で水月を突き、肘振り上げで更に顎に強打を浴びせた。

 魑魅魍魎の如く群がってくる暴徒を、赤志とジニアはなぎ倒し続ける。その数は確実に減りつつあった。

 応戦している刑事たちに目を向けると一般市民を守るように動いていた。


【勇。遊撃隊として動こう。幸い、敵は雑魚ばっかだ】

「ああ、わかって────」


 背筋に電撃が走った。ハッとして後ろを向く。

 改札口が見えた。

 いやそうじゃない。この魔力の感じはもっと遠い。徐々に離れている。


「赤志!!! ジニア!!!」


 振り返ると、顔と服に血が付着した飯島がいた。


「飯島さん!」

「うお、無事だった!! 怪我してないっすか!?」

「俺の血じゃねぇ、大丈夫だ! 本郷は!?」


 答えようととした時だった。床に倒れていた男が起き上がり、飯島の背後に立った。ナイフを逆手に持っている。


「後ろ!!」


 ジニアが叫ぶ。飯島が振り返った。

 その間に、大男が割り込む。雄叫びと共に拳を振り、男の首が90度横に曲がりもんどりうって派手に倒れた。


「ボケッとするな!!」

「す、すまない! 助かった、武中」


 バーバースタイルの髪型をした、本郷に負けず劣らずの大男は、赤志とジニアを一瞥する。


「社会見学生か? 怪我しねぇうちに帰りやがれ」


 険しい表情で吐き捨てると別の場所へ向かった。


「なんだ? あいつ」

「同僚みたいなもんだ。本郷は……いないか。お前たちは大丈夫か」

「はい。ただ、あのデカブツどこ行ったのか」

「情報部に連絡して本郷のスマホの位置を教えてもら────」


 脳内に雑音が走る。インカムからの音声だった。3人は周囲を警戒しながら傾聴(けいちょう)する。


「……なに?」

「え?」

「うそ……」


 流れて来た言葉は耳を疑うものだった。飯島の顔から血の気が引く。


「……マズい。本郷が電車に乗ってるとしたら……」


 赤志とジニアは駆け出した。


「お、おい! どこに行く!」

「あのデカブツに指示出せ!」

「私たちは電車を追います!」


 暴徒はほぼ鎮圧していた。妨害に合わず改札口に向かっていた時だった。足首が何かに引っかかる。

 確認すると、倒れていた「グリモワール」が足を掴んでいた。頭から血を流し怯えた表情で見上げてくる。


「あ……あの……俺……なんでこんな……」

「あ?」

「これ……これはいったいどういう────」

「うぜぇなぁ!!」


 振り払い改札を飛び越えホームへ向かう。


「アカシーサム! 田園都市線だよね!」

「そうだ!!」


 2番戦へ続く階段を駆け上る。

 駅のホームには誰もいない。かわりに白空魔力(エーギフト)に色が付着していた。


「黄色……幻惑系か」


 空間認識を誤認させる結界魔法が展開されていた。

 一部の人間は”ここにホームがある”ということを認識できない。

 進藤が使ったのかは定かではないが、本郷がこれを切り抜けたとしたら。


【あのデカブツ……魔法の才能もねぇくせに】

「ねぇ、アカシーサム。さっき私、変な魔力を感じて」

「俺もだ。この結界魔法じゃない。移動中の電車内だ」


 赤志は転落防止柵を飛び越え線路に降り立つ。ジニアも続く。


【獣人の”ブリューナク”だ】

「速攻で追いつかねぇと、手遅れになる。ジニア。捕まれ。”走るぞ”!」

「う、うん!」

【はいはい。全速力だな】


 ジニアを抱きかかえると赤志は大地を蹴った。


 その瞬間。


 姿は一瞬で露と消え、深紅の一閃が、電車を追うように描かれた。


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