本郷-12
14、5人で構成された集団。ワクチンや獣人に対する暴言が書かれたタオル、プラカードを掲げている。
共通しているのは全員黒いとんがり帽子を被り、色とりどりのローブを羽織っている点だ。
「新手のコスプレ集団か? なんか目に悪いんだけど」
「ハロウィンって今月だったっけ?」
赤志の脇からひょこっと顔を出したジニアが興味深そうに集団に目を向ける。
「「グリモワール」。2年前から存在している反ワクチン団体です。新しいワクチンが出てから、活動が活発化しております」
『我々の支部近くにワクチン接種会場を作るなー!!』
『不当な占拠反対ー!!』
集団の声がますます大きくなる。赤志は片目だけ吊り上げて本郷を睨む。
「嘘吐け。あんな面白集団知らねぇぞ」
「ニュースでもたまに取り上げられてます」
「マジか……見逃してたのかな。で、あの見るからに頭の悪そうな団体どうすんの」
「お菓子でもあげれば喜んでくれるかな?」
未だにハロウィンと勘違いしているジニアに、本郷はクスッと笑ってしまう。
「あれはこちらで適当にあしら……対応しておきます」
飯島が言った。
「とりあえず、事件の解決、本当にありがとうございました。赤志さんたちはこれまで通りの生活を送れるよう、こちらで対応します。お帰りいただいて結構です。本郷も今日は帰れ。連中に顔バレしてる可能性あるからな」
「……承知いたしました」
「おっけー! んじゃあ帰るわ」
「あ、あの」
ジニアが飯島に駆け寄る。
「ん? どうしたのかな?」
「あの……本当にごめんなさい」
頭を下げた。
「私が、悪い獣人なんです。アカシー……赤志さんや、本郷さんが、大変な目に遭うようなら、私を異世界に」
「おいおい待て待て。やめてくれ。子供に頭下げられるのは辛い」
飯島が膝を折った。
「顔を上げてください。大丈夫。あの魔法だって私利私欲で使ったわけじゃない。"暴徒"を止めただけです。ジニア、さんかな。キミに責任はあれど、今しっかりと罪を償った。これで終わりです」
「でもそれはアカシーサムが頑張ってくれただけで……」
「一緒に現場に来て対応してくれました。それで充分です」
優しい目をする飯島に、ジニアは一度口を閉じ。
「ありがとうございます」
ゆっくりと頭を下げた。
「しっかりした子だな」
少し離れた場所にいた本郷は赤志に言った。
「だろ。ただ……異世界に帰った方が、ジニアのためかもな」
赤志は欠伸をした。時間帯は深夜だった。
「赤志さん」
「んあ?」
「終わってから言うのもなんですが、この依頼。あなたはもっと苦言を呈してもよかったと思います」
「ああ。いいよ。俺の悪事を償う意味もあったし事件も解決して人助けもできた。充分だ」
そう言って踵を返す。
「待ってください」
「え、まだ? なんだよ」
「連絡先を交換しませんか。「シシガミユウキ」のことを聞きたいでしょう」
欠伸を噛み殺した赤志は口角を上げる。
「いいよ。……あんたは"上"とやらと違って、話ができそうだし」
「ありがとうございます。もし「シシガミユウキ」を見つけたらひとりで会わず、絶対に連絡してください。よろしいでしょうか」
「それはこっちも同じだ。抜け駆けすんなよ。絶対に。相手が獣人だったらお前死ぬぞ」
「……ええ。もちろん」
赤志はLienを起動し連絡先を交換する。3人しかいない友人が、4人になった。
「さて。じゃあ俺は帰るわ」
「送っていきましょうか?」
「……いい。できるだけ歩いて帰りたいんだ」
赤志の傍らにジニアが近寄った。ジャケットの裾を掴み、赤志を見上げる。
「ジニアと一緒に帰るよ」
「そうですか。では、お疲れ様でした。赤志さん。ジニアさん」
「……本郷さん」
ジニアが思案顔で本郷を見上げる。
「はい?」
「ひとつ、聞いてもいい?」
「ど、どうぞ?」
「身長何センチあるの?」
「……200センチジャストです」
「うわぁ……アカシーサムでも大きい」
「デカすぎだろ。体重は?」
「118キロですね」
「怪獣みたい」
本郷は噴き出した。
「なぁあんた本当は機械人間とかじゃないの? ほら。未来からきた殺戮マシーンみたいな」
「本当? 目からビーム出たりするの?」
肩を竦める。話をしているとこの2人が、ただの一般人にしか思えなかった。
くだらない話をしながら3人はその場を後にした。
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