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本郷-9

 会議室に入ると獣人の少女を慰める赤志がいた。


「ジニア、もう泣くなって」


 目許を擦っている猫人(ケットシー)を一瞥する。外見年齢は15歳くらいだ。


「やめてって言ってたのに」

「ごめんなさい……」

「ばか」

「返す言葉もないっす」

「アカシーサムが死んだらどうしようって思ってた」

「大丈夫。そう簡単に死なねぇから」

「背中とか、怪我は?」

「魔力活性化して治したよ」


 赤志が顔を上げ、本郷を捉えた。柔らかかった表情が一変して警戒心を露にする。ジニアと呼ばれた少女もピタッと涙を止め、視線を向ける。

 

 刺すような視線を無視していると、すぐに飯島が入室した。

 

「お待たせしてしまい申し訳ない。私は神奈川県警捜査一課の飯島源治と申します。こちらは」

「本郷縁持です」


 頭を下げたあと着席する。


拳雷(けんらい)狩人(かりゅうど)さんに会えるなんて、光栄です! 現世界でもあなたのお話は聞いてますよ!」


 飯島は赤志に近づき手を差し出す。

 赤志は顔を引きつらせ握手を拒否した。


「おや。握手は嫌いですか」

「違う。さっきの」

「さっきの?」

「拳雷のなんたら、って言ったろ」

「ええ。それが?」

「二度と言うな。大っ嫌いなんだよ。そのクソだっせぇ名前」


 明るい場所で見る赤志は態度も相まってチンピラのようだった。ワインレッドとシルバーという奇天烈(きてれつ)な派手過ぎる髪を見ながら本郷は眉をひそめた。


「これは失礼。とりあえず、お座りください」


 飯島が笑みを浮かべると赤志とジニアが座る。

 

「応酬したスマートフォンや貴重品はこちらです。どうぞ」


 持っていた箱から押収品を渡すと、センターパートの髪を触りながら胸を撫で下ろす。


「こちらの本郷と喧嘩したと聞いた時は驚きましたよ。彼は署内でも腕っ節が自慢の警察官でして」

「どうでもいいよ。早く帰らせてくれ」


 ナイフのような眼光で飯島を見た。


「いやぁ。こちらも厳重注意だけでお帰りいただきたいのですが、そうは行かなくなって。さっそくですが赤志さん」

「なんだよ」

「あなたは異世界に10年いたとのことで、魔法にも詳しく戦闘能力も高いと聞いております」

「それが?」

「この世界での私闘(しとう)はご法度。ましてや魔法を使っての戦いなどもっての(ほか)。ご存知ですよね」


 言葉は赤志に向かっていたが視線はジニアに向けられていた。


「待てよ。喧嘩の原因は俺だ。この子は────」


 飯島が手の平を向ける。

 意外だ、と本郷は思った。どうやら赤志は仲間想いの性格らしい。


「正直言って私は不服です」


 首を傾げる赤志に、飯島はスマホの画面を見せる。


 画面に映るのはLien(リアン)のタイムラインだった。


『獣人、市街地で私闘し魔法を使用か』


 最初に飛び込んできた文字を確認すると、飯島が画面をスクロールする。




『これマジで?』

『フェイクだろ』

『やば。アタオカだろ普通に』

『逮捕不可避www』

『これもしかして赤志なの? なんか暗くてわからん』

『獣人だって書いてんだろ。よく読め』

『はい危険獣人認定~。さっさと捕まえろよ』

『また獣人は特別扱いか?』

『異世界やっぱゴミだわ』

『現実から逃げるな』

『犯罪者じゃん』




「で? この文字列がなんだって?」

「ここ最近、世間は獣人に対して批判的になってましてね。メディアでも大々的にニュースが流れてます。この状況が続くと「魔法を使っても獣人であれば無罪」と取られかねない。神奈川県警(ウチ)の沽券に関わります」

「それ、上の人が言ってた言葉?」

「ええ」


 上の人。柴田だ。

 本郷に手錠を嵌めた彼女は、本郷を見逃す代わりに功績を受け取り地位を高めていた。それでもストイックに働く彼女に惹かれている警察官も多いらしい。


「魔法を使ったのはそちらの獣人さんです。なので真実を公表し、そちらの子だけを罪に問えればいいのですが」


 ジニアは顔を下に向け体を強張らせた。肩が震えている。


「そんなことはさせねぇよ」

「赤志さんならそう答えると思いました。なので、我々は提案しに来たのです」


 飯島は人差し指を立てた。


「ひとつ、赤志さんに協力してもらおうかと。今から赤志さんと本郷。それと……えっと」

「ジニアだ」

「ジニアさん。この3人で、とある事件を解決してもらえればと」

「あぁ!?」


 赤志が驚愕の表情を浮かべる。本郷も同じだった。


「待ってください、源さん。これじゃただの脅しです。まっとうな取引とは思えません」

「お前の気持ちはわかる。だがな本郷、魔法を使用した後始末、壊した施設の修繕費、消えたイルミネーションの補填、全て神奈川県警(ウチ)が負担している。であれば、その見返りがないといけない」

「……その言葉は、柴田のですか」

「ああ」

「……上層部は赤志を利用したいんですね」

「そうだ。赤志はもう狩人(ヤークト)じゃない。言いなりにするつもりなんだろう」


 本人の前で上の考えを2人は話した。聞いていた赤志は目を丸くしていた。


 本郷は呆れてしまう。このトラブルを幸福だ考えているのだ。確かに魔法に精通した赤志が使えるのはありがたいことだが。


「あのさ、それ俺の前で言っていいの?」

「ええ。なぜなら断っても構わないからです。が、その場合ジニアさんだけにペナルティが課せられるかと」

「はっ。断らねぇよ。この子には約束があるんでな。ただ変なリスクを背負わせるな。俺が全部背負う」

「ご安心を。最初からそうするつもりでしたので」

「あんたいい性格してるな」

「ありがとうございます」


 飯島は愛想よく口角を上げた。


「意外と仲間想いなんだな」

「あぁ? んだよ黙ってろよテメェは」


 本郷が肩をすくめると舌打ちが返された。


「で? その事件ってのはどんなだ」

「ついさっき起こった事件です」


 飯島は事件の詳細について喋り始めた。


お読みいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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