異世界横浜【魔薬】事件簿
「あけましておめでとう。日本……と」
1月1日。時刻は20時過ぎ。
赤志は、赤レンガ倉庫前を歩いていた。立ち入り禁止は解除されているが、正月ということもあり人はほとんどいなかった。
【深夜から初詣行って、大吉引いて、家帰ったら寝て起きて、ずっと飲んではバカ騒ぎして……いい正月だな】
「ああ。おかげさまで。本郷とジニア食い過ぎだよあいつら。飯島さんは酒飲み過ぎて潰れるし。PCのビデオ通話で楠美は暇だっつってずっと愚痴ってるし。藍島は本郷にべったりだし」
うるせぇったらありゃしない。そう言いながら、赤志の顔は楽しげだった。
【抜け出してよかったのか?】
「断りはいれたぜ。やっぱ考え事するなら外が一番だ」
【にしてもよかったな。本郷が異世界の秘密を黙ってて】
「ああ。まぁ、世間に公表しても俺が否定するし、いざとなったら魔法使うさ」
冷たい風が、赤志の頬と髪を揺らす。
【気づいてるだろ? お前】
「あ? 何が」
【本郷と楠美は、お前を疑っている。昨日本郷はウロングナンバーの店に行ってお前の話を聞いてたぞ】
赤志は足を止めた。
【あの2人は。いや、もう何十人、何千人と疑問視していることだ。
異世界の秘密とか……いや、それは本郷はそれを知っているのか。正しい答えじゃないとしても、一歩手前まで来ている】
だがそうじゃない。
レッドガーベラが語気を強める。
【何よりも先に疑問視することだ。誰もが疑問視しなければならないこと。
お前は、どうしてこの世界に戻ってきたのか。
お前の真の目的は何なのか。
お前がこの世界で何をしでかすのか、連中は注視している。だから警察内に招き入れたんだ。お前の動きを間近で監視するために】
「ん~だよなぁ……動き辛くなるなぁ」
赤志は足を止めた。
「いやだなぁ。友達ができたのに」
海が見える。その上には大きな月が浮かんでいる。
「水面に映る景色は夢か、現か」
【お前は現になるんだろ?】
「ああ。そうだ。俺もこいつらも目を覚まさないといけない。異世界が、夢じゃあない」
赤志はフードを深く被った。
「探し出さねぇと」
尾上とマーレ・インブリウムの話は魅力的だった。
だがそこには面白さがない。それにあの場面で味方しても人間側が不利だ。
もっと強くなってもらう必要がある。人間側に自分と対等の存在が欲しい。
「やるぞ。レッドガーベラ
復讐はしたし、してきたんだ。
この世界を滅ぼすくらい、簡単にできるさ」
赤志は己の夢を胸に、横浜の夜に消えていった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
赤志たちの物語は今後も続く予定です。
次回作、もしくは別の作品も応援していただければと思います!




