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朝日-終

「やっぱり、朝日……さんは、魔法の才能があったみたね」

「さん、なんて付けなくていいですよ! 一緒にワクチン開発した仲じゃないですか!」


 病室のようでもある部屋の中、朝日は隣のベッドで横になるリベラシオンに笑みを向ける。

 リベラシオンは、随分と痩せていた。獣人だからこそできることがあるといって、無茶な研究をされていることがありありと伝わる。


「……ごめんなさい、リベラシオン。あなたを助けようと記事を書いたら、こんなことになっちゃって」

 

 リベラシオンと関わったのはたまたまだった。去年の4月。仕事中、買い物袋を落としたリベラシオンを手助けしたことがきっかけだった。

 三毛猫の顔をした獣人との会話は非常に弾んだ。妙に馬が合ったのだ。それに、どこか懐かしさもあった。


 朝日はこれをチャンスだと思い彼女に単独取材を行っていた。そこで出て来たのが、ワクチン開発研究の手助けだった。

 朝日もこれに参加した。身分を偽って。結果、研究員は、尾上正孝含め、朝日が記者だということに気づかなかった。こういう時の備えをしていてよかったと思った。


「謝るのは私よ。何度でも謝るわ。あなたを巻き込んでしまった……あなたはただ、私から異世界の話を聞きたがっていただけなのに」

「構いませんよ~。引き際をミスした私が愚かだったんです」


 魔力抑制ワクチンの開発のために、獣人を不当に扱う研究施設。こっちの方が異世界の真実よりタイムリーであり、人々の関心を買いやすい。そもそも、赤志勇含む獣人から異世界の真実を聞き出せる可能性は低い。


 だから朝日はリベラシオンの記事を書き続けた。だがその途中、どこからか情報がもれたのか、朝日は魔法研究施設ノット・シークレットに拉致監禁された。


「……朝日さん」

「はい?」

「安心して。さっき、尾上さんと話したの。そしたら、あなたは見逃すって」

「……条件は?」

「記事を書かないこと。記者を辞めること。それだけよ」


 朝日は歯噛みした。記事など職が無くても垂れ込むことができるが、リベラシオンを人質に取られていることが大きい。


「外に出たら、兄さんに相談します」

「お話に出ていた、大きなお兄さん?」

「そうです! もう筋肉ムキムキで気持ち悪いったらありゃしない! けど、この研究の話を伝えれば必ずこの施設ぶっ壊してくれます」

「……駄目よ。ワクチンは、あなた達人間に必要なんだから」

「だからって、獣人を傷つけていい理由にはなりません。必ず誰かを傷つけなければならない、必ず誰かを犠牲にしないと生きていけないなら、人間なんて死んだ方がいいです」


 リベラシオンは首を振った。


「駄目よ。そんなことを言ったら」

「……どうしてリベラシオンさんが、そんな悲しそうな顔をするんですか?」

「……あなたが、似ているからよ」

「誰に?」


 そうね。そう言って、しばらく沈黙が流れた。


「ここから出ることができたら、教えてあげる」

「……そうですか」

「さて」


 リベラシオンは体を起こした。


「ブリューナクは、上手く起動している?」

「……! はい! 隠してコートをプレゼントしたら、特に問題なく着てくれましたよ」

「ふふ。頑張った甲斐があったわ……」


 魔力量が少ないから不安だったが、装備型のブリューナクなら何も問題はない。

 おまけに自身の魔力を大量にいれたのだ。これで、朝日が生きて出ることができれば、自分の死後もコートは起動し続ける。


「兄さんビックリするだろうなぁ。私が魔法使えるなんて知ったら」

「そうね」

「兄さん喜んでましたよ! ドラマの主人公みたいだって!」

「私も、嬉しいわ。あなた達には……何も送れてなかったから」


 朝日が首を傾げる。それはどういうことか聞こうとした時。


「本郷朝日。出ろ」

「……何の用?」


 マスクとゴーグルで顔を隠した研究員が言った。


()()だ」




ΩΩΩΩΩΩ────────ΩΩΩΩΩ




『そうだ……おかしい。なんで本郷のブリューナクは生きている? リベラシオンが死んでも起動していることはわかる。本郷朝日が死んでいても、魔力を注いでいたのなら起動しているのもわかる。だがそれでも枯渇する。なのに……なんで、まだ起動し続けてる? 勇が補強したのか? だがあのブリューナクは……』


 尾上はそこで発狂した。これで3度目だ。

 周囲の警官が取り押さえる。映像はそこで止まった。


 柴田は頭を抱えた。


「駄目ね……言ってることは支離滅裂だし、こっちの言葉は聞こえてないし。口を開けば恋人の話と、たまに出て来るのは今の話ばかり」


 チラとPC画面の右下を見る。12月31日、23時23分。せっかくの大晦日に何をやっているのか。

 柴田は頭を振って調書を手に取る。


「……いつか、真実を伝えることができるのかしら」


 魔法。異世界。ワクチン開発。研究。

 もう何度目にしたかもわからない単語に辟易しながらも、柴田は調査書を作成し始めた。

次回が最終回です。

最後までよろしくお願いします。

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