表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/117

赤・緑・金-終

 本郷が詰め寄る。

 赤志は立ち塞がる。


「どけ」

「やだね」

「どくんだ」

「そんなおっかねぇ顔して、何するつもりだよ。もう終わりだ。事件は解決した」


 ジニアの方に目を向ける。

 さきほどの尾上の言葉を聞いたせいか、肩を震わせ、涙を流していた。

 なんのために戦っていたのか。何のために尾上に協力したのか。彼女は今、生きる希望が潰えている状態だった。


「もう終わりだ本郷。ジニア見てみろ。あのままだと海に飛び込みそうだ。みんなで家帰ってさ、事件解決を」

「俺の事件はまだ終わっちゃいない。コイツを殺す」


 赤志は本郷の胸倉を掴む。


「いい加減にしろよ!! あんた刑事だろ! 犯人殺すことじゃなくて捕まえるのが仕事だろうが!! 尾上さんがまだ何か隠しているかもしれない! 生かして捕まえなきゃいけないだろ!!」

「何か? 何かってなんだ。憶測で物事を語るな。それがあったとしても知ったことか」

「本郷……」

「重要なことはすべて聞けた。コイツに利用価値はない」


 怒りと恨みしか伝わってこない。ようやく見つけた家族の仇なのだ。こうなる理由だってわかる。復讐に関する気持ちはよく理解できる。


「どけ、赤志。臆病な俺は逃げて、それでも立ち向かって、お前たちと協力してやっと見つけたんだ。朝日に嫌われても、地獄に落ちようと、俺は尾上を殺す」

「……わかるよ。気持ちはわかる」

「お前にわかるか!? たった一人の妹が!! ゴミのように捨てられていたんだ!! 寝る度に朝日が出て来る! あいつは恨んでんだよ! 叫び声が聞こえる」

「本郷……」

「「妹さんはそんなこと望んでない」とかぬかすなよ。自分を殺した相手を許すわけがねぇだろ。望んでない? そんなことがなんでわかる? 冗談じゃねぇ。憎しみしかねぇんだよ」


 目を血走らせながら、赤志の肩を掴む。


「どいてくれ、赤志。朝日は帰ってこないが……それでも……この世に留まることは無くなる」

「……いやぁ。ことごとく説得の言葉潰してくるじゃん」


 赤志は頭を振った。


「それでもさ」


 それでも。赤志はもう一度言った。


「やっぱ……駄目だよ。人殺しちゃ」


 軽い調子で言って、赤志は手を振り払った。


「俺は、あんたが人殺しになるところを見たくねぇ。あんたは大きくて、強くて、立派な警察官であって欲しい」


 本郷が押し黙った。


 赤志は、本郷の気持ちがわかっていた。

 本郷だって理解しているのだ。事実、本当に殺意しかないなら今すぐ赤志を殴り飛ばせばいい。

 だがこれ以上暴れる意味なんてないとわかっているから、話に応じている。


 けれど心は違う。やりようのない怒りと恨みは、尾上を捕まえたことで解決しないのだ。

 殺したいと思っていたのだ。口だけではなく本能で。彼にとってそれはもはや、生きる目的でもあったのだ。


「いいじゃねぇかよ。犯人を捕まえただけでも、朝日さんは、許してくれるだろ」

「……俺は許せないんだ」

「……そうかい。そうだよな。わかるよ。マジで。ああ……もう。じゃあ……そうだよな」


 赤志は溜息を吐く。


【いけるのか?】


 やるしかないだろ。

 今、自分がやるべきことは、その矛先を、自分に向けることだった。


 赤志は素早く、両手で本郷の胸部を押す。踏み込みと共に腰を使ったため、本郷は大きく後退する。


「赤志……!?」


 思いのほか大きな音が鳴ったため、ジニアも顔を上げて赤志を見る。


「俺が説得する、って言って警官たち止めているけど、あと10分しないうちに来るだろうな」


 赤志は指を曲げる。


「来いよ。尾上さん殺したいなら、俺を倒すしかないぜ」


 本郷は胸の部分を、手の平で払う。


「全力でやろうぜ。俺も、あんたを倒したいと思ってんだ。覚えてるか? 初めて会った時のこと」


 本郷は頷く。


「あれからずっと考えてたんだよ。ジニアの妨害なしだったら……どっちが勝ってたかなって」

「どうせお前は魔法使うだろ?」

「お、言ったな。安心しろよ」


 赤志はダウンジャケットを脱ぎ捨てた。

 ジャケットは尾上の体を覆うように落ちる。


「今さ、俺……魔力無くなってんだわ。だから純粋な身体能力だけで勝負するぜ」

「……なら俺に勝てないぞ。あの時、お前は強化してたんだろ」

「舐めんなよ俺の身体能力を。ビビってんならそのコート脱がなくていいぜ」


 本郷は鼻で笑って、コートを脱ぐ。乱雑に捨てるようなことはせず、ジニアに手渡す。


「持っていてくれ。それと……銃も持たせていて、すまない」

「……本郷さん」

「いいから。持って、そこで見ていろ」


 空からは白い雪が降りつつあった。横浜、みなとみらいの喧騒は小さくなっていた。

 クリスマスイルミネーションが海を照らしている。


 とても幻想的で、こんな状況でなければ、景色を楽しむには最高の場所になっていただろう。


 だが今この場所にいるのは、ボロボロになった正義だけ。


「赤志」

「ん?」

「死んでも文句言うなよ」


 赤志が笑い、駆け出す。本郷はその場で構える。


 赤志は拳を振り上げた。本郷も同じく拳を振る。


 互いの咆哮と、拳と拳が、ぶつかり合う。


 一際大きな花火が咲き乱れ。


 最後の戦いが始まった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ