側にいるだけで
6/29 誤字を修正しました。いつもご指摘に助けられています。ありがとうございます。
7/1 追加で誤字修正しました。ご報告ありがとうございました。
「ごめん、ごめんよ伊織。ごめんよ……」
中二病ちゃんと呼ばれていた燐音は、伊織に名付けた二つ名を酷く後悔しているようだった。
彼女はひたすら謝罪の言葉を繰り返しながら、頭を抱えてぶるぶると体を震わせ続ける。
伊織は苦笑すると、そんな燐音へと近付く。
彼女は伊織がすぐ隣に来ても反応を見せず、伊織はそのまま優しくぽんと燐音の頭に手を置いた。
真琴は茫然と立ち尽くしていたが、伊織のその行動にハッとなり口を開く。
「粗悪品……?」
躊躇いがちな声色で、真琴は伊織にそう問いかけた。
デッドコピー、死んでいる、複製。
彼女が戸惑うのも無理はなく、それは人に付ける愛称としては最悪の部類に入るであろう言葉だった。
だが、それを聞いた伊織の反応は軽いものだった。
彼はすばやく振り返ると、実に面白そうに真琴に答える。
「うん、神に成れなかった少年。自虐的に聞こえるかも知れないけど、俺にピッタリの二つ名なんだ。ちなみに詳しく説明すると、神に成れなかった少年と書いてデッドコピーと読むんだよ。良く出来てるよね」
しかしいくら面白そうに言ったとしても、その内容は重苦しいものだ。
真琴はさらに怯みながらも、気になった点を再び恐る恐る伊織に尋ねる。
「か、神に成れなかった少年?」
「そうだね。もう薄々気付いてもらえてると思うけど、俺の二つ名はあいつのように成ろうとして……、だけど紛い物にしかなれなかった少年って意味なんだ」
「…………」
伊織のその発言で、真琴はまたも沈黙する。
彼はそんな真琴を見て乾いた微笑みを浮かべると、視線を動かしてたくさんの女子生徒たちが集まる場所を見た。
その中心には、伊織があいつと言った幼馴染の香月結菜がいた。
伊織は眩しいものを眺めるように目を細めると、昔を懐かしむ口調で語り始める。
「俺も昔は幼馴染の結菜と張り合っていた時期があったんだ。でも、俺には結菜みたいな才能はなかった。成長するにつれて彼女との差は開いていく一方になり、いつしか俺は結菜をお手本にして追いすがるしかなくなっていたんだ」
彼はそこで改めて燐音の頭にぽんと手を置くと、再び明るく笑いながら真琴たちに向き直った。
「こいつが神に成れなかった少年と名付けたのは、ちょうどそんな時期。現実と理想の狭間で揺れていた俺は、その二つ名に一発で心を粉砕されちゃったんだ」
今まで何の反応も見せていなかった燐音が、伊織の心が粉砕されたという言葉に一際大きく体を震わせた。
彼女の頭を撫でていた伊織はそれに気付き、燐音を優しい目で見つめながら言う。
「それで……、詳しい話はまた今度にさせてもらうとして、その結果燐音がこんな感じでトラウマになっちゃったんだよ。何度も何度も俺はもう気にしてないって言っても治らないんだ」
伊織は顔を上げると、「これからこいつと付き合っていくなら、俺の二つ名の話は避けたほうがいいね」と笑顔で付け加えた。
美代子は神に成れなかった少年という話題が出てから、ずっと黙って話を聞いていた。
特に伊織が燐音の側に行って自分と対面してからは、彼の目を一時も欠かさず見つめ、観察し続けていた。
「これからこいつと付き合っていくなら、俺の二つ名の話は避けたほうがいいね」
そう言って笑う伊織を美代子は見て、彼は粉砕されたという自分の心の話を避けたんだと感じた。
神に愛された少女と神に成れなかった少年。
美代子は伊織がどんな気持ちで結菜と付き合ってきたのかを想像しつつ、今はこれ以上この話を掘り下げないほうが賢明だろうとも思った。
彼女は小さく口元を緩めると、伊織と同じように暗さを感じさせない口調で言う。
「でもこれからの話より、今は目の前のことじゃない? 伊織くんは明るく言ってるけど、彼女本当に辛そうだよ。それともそう見えるだけで、さほど重症でもないの?」
伊織は美代子が自分の調子に合わせてくれて心の中で安堵の息を吐いた。
彼は再び燐音の頭を撫でると、彼女に答える。
「いや、かなり重症だよ。元々燐音は演技が下手だし、この震えは本物だよ」
「えっ!?」
顔色を変える美代子だったが、彼は間を置かずに言葉を続ける。
「でも、さっきも言ったけど燐音は適当な女の子なんだ。だからこんな感じで――」
伊織はそこで燐音の顔に両手を添えると、やや強引に自分の方へと彼女を振り向かせた。
次いで覗き込むようにしてその目を見つめると、彼は言う。
「おい、燐音」
「ごめん、ごめん、ごめんよ伊織」
「いいから落ち着けって。俺はここで笑ってるぞ?」
焦点の合わない目で謝罪を繰り返す燐音に、伊織は至近距離から声をかけ続ける。
それは燐音を正気を戻すための最善の一手だったが、しかし時と場所が悪かった。
彼が燐音の頬に手を添え、自分以外を見るなといった感じに彼女に迫る様子を、美代子と真琴は間近で息を飲みながら眺めていた。
すぐさま真琴が、小声で美代子に話しかける。
「ちょ、ちょっとミミ、あれどう思う?」
「…………」
「ありゃ、返事がない。これはリンちゃんが羨ましいと思いながら、夢中になって見入ってるな」
美代子はその言葉で我に返り、慌てて彼女へと返事を返した。
「べ、別に見入ってないし。返事が遅れたのは意表を突かれてただけだから」
「はいはい。そういうことにしといてあげる」
「あ、あのね。あたしのことをバカにして――」
「でも驚いたよね。話し方からそれなりに遠慮のない仲だってのは予想できてたけど、あそこまでするなんて」
「……そうだね。結菜と話すときみたいに、あの子のことをおまえって呼んでいたし」
「ミミも伊織くんに、おまえって呼ばれてみたい?」
「…………」
「あんな感じで顔を押さえつけられちゃったら、キスされちゃいそうになっても逃げられないね」
「…………」
真琴はあっさりと伊織と燐音の方に向き直る美代子を見て、うっかり「チョロくて可愛いなあ」と口にしそうになっていた。
彼女は今一度友人を微笑ましく眺めると、同じように伊織たちがどうなっているかを確認する。
「燐音、燐音、おーい。いい加減戻ってこい」
「……い、伊織……?」
「そうだぞ。おまえに酷い愛称を付けられて、心を折られた伊織だぞ」
「う、うぁあああああ……」
虚な瞳で頭を抱えていた燐音は、伊織の度重なる呼びかけで気を持ち直しそうになっていた。
しかし、直後にその伊織から自分のした行いを突きつけられ、再び絶望の淵に舞い戻りそうになる。
だが伊織はそんな燐音を見ると楽しそうに笑い、すぐに優しく話しかけた。
「でもおまえ、前世で結んだという契約忘れたのか?」
「……う、あ、え?」
「俺とおまえの契約だよ。俺は契約により一生おまえから離れられないってやつだよ。俺はちゃんと覚えてるぞ?」
「あ……」
彼が言い出したのは、美代子たちには突拍子もない話だった。
しかし彼が言った言葉で、燐音は目に光を取り戻していく。
「俺はおまえの強大な力を借りる代わりに、三度生まれ変わるまで恩を返し続ける契約を結んだ。現世はその二度目の人生の真っ最中なんだよな?」
「う、うん……」
「証拠だってあるんだろ? 一度は離れ離れになった俺たちだけど、再び出会うことになったのは契約の力なんだよな? だから俺はおまえから逃げようとしても無駄なんだよな?」
「…………」
燐音はそこで黙り込み、伊織はもう大丈夫だと判断して彼女から手を離した。
身を起こした彼は、もう一度燐音の頭に手を乗せると笑顔で言う。
「それにおまえ、前にムキになったときにボクにトラウマなんてないって言ってなかったっけ? あれは嘘だったのか? それともそれすら忘れて条件反射で凹んだのか?」
「うぐ!」
燐音は思い当たる節があることを言われ、さっきまでの雰囲気を感じさせずに素で怯んでいた。
彼女は自分自身でも気付かぬ内に元通りに戻ったようで、何度も行っているように再び伊織へと突っかかっていく。
「し、仕方がないんだよ! 伊織だって今言っただろ! ボクは前世で伊織を助けるために力を使いすぎたんだ! その代償として現世では矮小で不完全な人間として転生するしか道が残されていなかったんだよ!」
「うんうん。俺の言葉でそういう便利な設定を思い出したんだな?」
「お、思い出したわけじゃないぞ! あと設定言うな!」
「まあ何にしろ、おまえが元気になってくれてよかったよ」
「くぅ、何だよその上から目線! ボクが小さいからって下に見るなと何度も言ってるだろ! 今度という今度は鉄槌を下してやる!」
今は伊織が近くに立っていたため、燐音は両手を振りかざして彼の体をポカポカと叩き始めた。
しかし伊織にはまったく効果がないようで、彼は髪をクシャクシャにしないように彼女の頭を優しく撫でていた。
そうして彼は、いつしか唖然とした表情で眺めていた美代子たちに振り返る。
「ごめんごめん。ちょっと長くなっちゃったけど、無事解決したよ」
無事解決という言葉に燐音はさらに怒り出したが、伊織はそれには構わず美代子たちに言う。
「燐音はこんな感じで、すぐに怒ったり落ち込んだりする女の子なんだ。真琴さんも言ってたけど、独特な会話についていけなかったら不機嫌になることはよくあることだね」
彼は今も目を見開いたままの美代子たちに、楽しそうに話し続ける。
「でも燐音と付き合っていくコツは、そこで引き下がらないことだと思うんだよ。こいつはさっきのように酷く落ち込んでも、ちゃんと話しかけていれば結構あっさり復活したりするからね。だからもし燐音が怒り出しても、美代子さんたちは諦めずに声をかけ続けてほしいんだ。そうすれば今まではそこで途切れていた会話も、これからはもっともっと続いていくと思う」
燐音にポカポカと叩かれながら彼女と付き合っていくコツを語る伊織を見て、美代子たちはゆっくりと苦笑の表情を浮かべていく。
しかし伊織が言いたいことは美代子たちにも伝わったが、美代子は完全に納得できない部分もあった。
彼女は怒る燐音を素通りさせてもらい、そのまま伊織へと問いかける。
「でも伊織くん、そのコツはあたしたちにも本当に使いこなせるコツなの? 彼女が不機嫌なときにまだ浅い仲であるあたしたちが話しかけても、逆効果になるんじゃない?」
時間が解決してくれるという言葉があるように、怒っている人間に不用意に話しかけないことも立派な作戦の一つだ。
美代子はそのようなことが言いたかったのだが、だが伊織が返してきた返事は、美代子たちにも、そして燐音にとっても意外な返事だった。
「最悪、逆効果でもいいんだよ。今の燐音に必要なのは、相手をしてくれない遠い存在より、一緒になって喧嘩してくれる近くの存在だと思うからさ」
彼のその発言で、その場にいる女性陣は揃って動きを止めた。
伊織は続けて自分の考えを話していく。
「それに燐音は子どもっぽいけど、バカじゃないし悪人でもない。大抵の場合は機嫌を直してくれるだろうし、もし逆効果になっても致命的な問題には絶対にならないと思うよ。それに根本的に、燐音は仲良くなった相手といればそれだけで上機嫌になるんだ。だから美代子さんたちは、安心してこいつに声をかけ続ければいいんだよ」
彼はそう言って、次に腕を振り上げたまま固まっていた燐音の肩を掴んで美代子たちの方へ向き直らせる。
そしてそのまま彼女の後頭部を押してお辞儀の格好をさせると、伊織自身も美代子たちに頭を下げて言った。
「そんなわけで、最初は美代子さんたちに負担を強いることになるかもしれないけど、それでもよかったら俺の不出来な古い友人と仲良くしてやってください。よろしくお願いします」
再び彼女たち三人は、伊織が言った言葉に驚く。
燐音は下を向いたまま目を丸くしていたが、やがてその目を閉じると、わずかに自分から頭を下げた。
「…………」
美代子と真琴は頭を真っ白にして、頭を下げる伊織たちのことを見つめていた。
そうして伊織が顔を上げて照れくさそうに笑うと、真琴も我に返り笑顔で話しかける。
「私は負担だなんて思わないよ。リンちゃんは歓迎してくれてるみたいだし、これから仲良くなっていけるのが楽しみだよ」
「ふ、ふん。当然だ。真琴はもうボクの家来だからな。ボクは釣った魚に餌をやらないような愚かな君主なんかじゃないぞ。これから美味しい思いをさせてやるから、楽しみにいておくがいい」
「おお、普通に期待が持てそう。じゃあこれからは私からもたくさん話しかけるからね。あ、そうだ。じゃあよかったら、お昼とか一緒に食べない?」
「え、う、お、お昼を一緒に?」
「ダメ?」
「ダメじゃなくて、嬉しいかも……」
燐音は真琴との会話で、恥ずかしそうに俯きながらそう言った。
以前から燐音のことを愛らしいと言っていた真琴にとって、彼女のその姿は強烈だった。
笑顔を止めて真顔になった真琴は、燐音にお願いをする。
「ねえリンちゃん、伊織くんがやってたみたいに、私も頭撫でていい?」
「え……?」
答えを聞かずに近付いてくる真琴を、燐音は戸惑ったように見上げた。
伊織が苦笑しながら脇に退くと、真琴は彼が立っていた場所に収まる。
「お願い。丁寧に撫でるから。なんなら後で櫛も入れさせてもらうから。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでいいから!」
「う、うん。それなら、いい、よ……?」
「おお……! じゃあ早速失礼して……!」
真琴はゆっくりと燐音の頭に手を伸ばし、そのサラサラの髪の毛の手触りを堪能し始める。
燐音は若干くすぐったそうにしていたが、いつもの偉そうな態度は見せずに大人しく真琴のされるがままになっていた。
早くも順調に仲良くなり始めている二人を見て伊織は嬉しそうに笑い、そしてそんな伊織に美代子が近付く。
「彼女は、人恋しかったんだね」
伊織は一瞬驚いて美代子を見たが、すぐに笑うと再び燐音たちの方に視線を戻した。
「そうみたいだね。俺も気にはしてたけど、ここまでだとは思わなかったよ」
「これならあたしも役に立てそうだね。正直、彼女の話を理解するのはまだ時間がかかるかもしれないと思ってたけど、側にいるだけなら今日からでも出来るしね」
「ありがとう。燐音も喜ぶと思うよ」
美代子は彼自身も嬉しそうにそう答える姿を見て、そこで疑問に思ったことを尋ねる。
「でも、やっぱり側にもいてくれて話も理解してくれる人のほうがいいのは間違いないよね?」
「まあ……、そうかもしれないけどね」
「あたしの偏見かもしれないけど、彼女の中二病っていうのは、女より男の子のほうが受けが良くない? だからもしリンが趣味の合う友人を探してるなら、あたしが男子の知り合い紹介してあげようか?」
彼女は善意からそう言っていた。
人恋しくしていた燐音が友人を作れなかったのは、単純に、彼女の趣味に合う人間に出会えていないことが原因だろうと美代子は考えていた。
しかし伊織は前を向いたまま、またも美代子が固まる言葉を返してくる。
「美代子さんの言ってることは正しいよ。あいつはマンガもアニメもゲームも好きだし、男のほうが趣味が合うと思う。でもダメなんだ」
「ダメって……、どうして?」
「あいつ、昔男の子にいじめられて、転校するハメになったことがあるんだよ」
「…………」
伊織の愛称を聞いたときのように、美代子は思考を停止させて絶句する。
彼も今度は楽しそうな口調ではなく、静かに事情を説明していく。
「さっき俺と燐音の会話で、一度は離れ離れになった俺たちだけど、再び出会うことになった――とか言ってたくだりがあったよね」
「う、うん。言ってたね」
「あれがそうなんだ。俺と結菜の転校先に、燐音も偶然転校してきたんだよ。元いた学校でいじめられて、不登校になっちゃったから」
「そう……だったんだ……」
「まあそんな偶然があったから、燐音は余計に俺と結菜には懐いてくれてるし、逆に俺以外の男性には普通に恐怖症を持ってたりするんだよ。だから彼女は男性的な趣味を持ってても男友達を作ることが出来ず、一人ぼっちになってたんだ」
再び黙り込む美代子の横で、伊織は「俺も結菜が気にかけてるからと言って油断してたかな」と寂しそうにつぶやいた。
彼は小さく首を振ると、言葉を続ける。
「ちなみに俺と結菜が幼馴染関係を隠し通せてる理由の一つに、俺たちの過去を知る人がいないっていうラッキーな状況があるんだよ。それは、俺たちが事情があって小さい頃に転校したからなんだ。そして転校後はもう、ずっと幼馴染関係を隠して来てるからね」
美代子はやや唐突なその話に戸惑い、そして気にもなったが、しかし彼が言いたいことをすぐに理解する。
「なるほど。その例外がリンなんだ? 偶然転校先で再会したあの子は、伊織くんと結菜の関係を知ってたんだね?」
「そういうこと。だから俺たちにあんな愛称も付けることが出来たし、まったく接点がなさそうな俺と友達でもあったりするんだよ」
彼女は話が一本の線でつながったと感じ、燐音たちを見ながら小さく頷いた。
伊織は少し口調を軽いものにして、話を続ける。
「まあ、燐音の性格を見てもらったらわかるように、いじめられたのは自業自得なところがあるみたいだけどね。俺が転校する前は上手くやってたけど、俺が転校しちゃった後は彼女の悪い部分が前面に出ちゃったみたいでね……」
「……でも……」
「それにいじめで不登校になったってのも、燐音が過剰に落ち込みすぎたって一面もあるみたいだしね」
「…………」
「とにかく、今の燐音は男性恐怖症こそまだちょっと残ってるけど、いじめられた過去は本当にかなり克服してるみたいだ。これは本人も言ってることだし、結菜も同じように言ってる。だから俺も一つの情報として美代子さんに言っただけで、不要な心配をしてもらうためじゃないよ。あいつも可哀想な子だと思われたくないだろうしね」
美代子は少し時間はかかったものの「わかった」と頷く。
そして彼女は重い気持ちを吐き出すように息をすると、伊織のように口調を和らげ、言った。
「男嫌いの中二病ちゃん、か。あたしはこれから、彼女とどういう関係になっていくんだろうね?」
「いや、俺は普通に友達になってもらえたら嬉しいんだけど……」
「なんかあの子、あたしを見る目だけ違う気がするんだけどなあ。嫌われてるのとは違う気がしてきたけど……」
「ああ、言ってたね。なんなら直接本人に聞いてみようか?」
「うーん……」
伊織たちの視線の先では、いつの間にか燐音の態度が大きく変化していた。
彼女はふんぞり返って椅子に座り、真琴は楽しそうにそんな燐音の髪を櫛で整える。
美代子は彼女たちを見て、改めて息を吐くと口を開いた。
「まあ、また次の機会にするよ。今日はもう地雷原を歩くのは疲れたからね」
その言葉には、今度が伊織が返事に困り眉をひそめた。
黙り込む彼を見て、美代子は面白そうに笑う。
「でもね、あたしもマコと同意見」
「……同意見って?」
「歓迎してくれてるなら、あたしも仲良くなるのに異存はないってことだよ!」
美代子は目を見張る伊織にもう一度微笑むと、期待に満ちた視線を燐音たちに向けるのだった。




